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「鑑定しかできない無能」と追放された俺、実は壊れた才能を直せる唯一の神職でした〜捨てられ聖女と辺境村を修理していたら、勇者より先に国を救ってしまった〜  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第196話 薄白い冷え

 灰青ではない。


 その一言が、かえって厄介だった。


 灰青反応なら、まだ分かる。


 水腐れ系の微弱反応。

 旧水路。

 青根布。

 浅層緩衝線。

 対処の言葉がある。


 だが、薄白い冷えには、まだ言葉が足りなかった。


 昨日、リーゼさんは森退避路の外縁で言った。


 足元の影が冷たい。


 石の冷えでも、水の冷えでもない。


 その表現を聞いてから、広間の空気はずっと落ち着かなかった。


 空白地帯。


 リベル村と北沢の間にある古い雑木林。


 古図では曖昧。

 現地記録では薄い。

 けれど、退避路は不自然にそこを避けている。


 近道なのに、急ぐ時ほど通るな。


 誰かが、長い時間をかけてその場所を避け続けた。


 今日は、その理由へ少し近づく。


 ただし、入らない。


 村長が朝一番にそう言った。


「今日も、空白地帯へは入らぬ」


 トマは口を開いた。


 そして閉じた。


 ダリオさんが豆を一粒口へ入れながら、横目で見る。


「今、三つくらい言葉を飲んだな」


「五つです」


「増えたな」


「気になるんです。めちゃくちゃ気になるんです。でも、行くなって言われたら行きません。……行きませんけど、何もしないんですか?」


 最後だけ、少し声が強くなった。


 広間にいた者たちも、同じ気持ちだったのだろう。


 誰もトマをたしなめなかった。


 村長も怒らない。


「何もしないのではない。近づかずに確かめる」


「近づかずに?」


 ダリオさんが言った。


「手控えだ」


 その一言で、広間の視線がダリオさんへ集まる。


「俺の灰色手帳に、“白冷え”“戻し線影”“森外縁”という見出し候補があった。今日、王都に安全手順の範囲内で、該当箇所の表題と周辺一行だけ確認してもらう」


 トマが身を乗り出す。


「本文じゃなくて、見出しと一行だけ?」


「そうだ。紙をめくらせすぎない。見えたから読むな。読みたいから触るな」


 ニコルがすぐ赤字で書いた。


『見えたから読むな。読みたいから触るな』


 トマがそれを見て、少し苦い顔をする。


「今日、それ、俺に刺さります」


「刺している」


 ダリオさんはあっさり言った。


「俺にも刺している。気になるからな」


 セリアが静かに頷いた。


「薄白い冷えが薬草へ影響するかも確認します。ただし、薬草を抜きません。根を見ません。葉、茎、周囲の湿りだけです」


 ハンナが少し不安そうに言った。


「セリアさん、今日は薬草に何回声をかける予定ですか?」


「予定で決めるものではありません」


 ミラが真面目に記録板を構えた。


「昨日は三回でした」


「今日は数えなくていいです」


「でも、状態記録として」


「ミラ」


「はい、数えません」


 トマが小声で笑った。


「薬草班も人間臭くなってきたな」


 セリアが少し困った顔をする。


「前から人間です」


「いや、そういう意味じゃなくて」


 ニコルが淡々と記録した。


『薬草班、人間である』


 トマが慌てた。


「そこは書かなくていいだろ!」


「今のは冗談です」


「冗談の筆圧じゃなかった」


 ほんの少し、笑いが広がった。


 そういう笑いがないと、薄白い冷えみたいなものには向き合えない。


 朝の中央井戸では、副記録係が読み上げた。


「朝。中央井戸、水温正常。水面揺れなし。濁りなし。匂いなし。未照合空白地帯、薄白冷感微弱確認後、継続異常なし」


 ニコルが頷く。


「よいです」


 井戸番から通信が入った。


『こっちの古井戸も静かだ。薄白い冷えってのは、水には来てない』


 ダリオさんが聞く。


「水面の縁に白い膜、冷え、揺れの遅れは?」


『ない。水面はいつも通りだ。ただ……』


「ただ?」


『井戸端の年寄りが一人、“白い冷え”と聞いて、昔の言い方を思い出したらしい』


 広間の空気が変わった。


 ニコルの筆が止まらず動き出す。


 井戸番は続けた。


『“霜でもないのに草の影が白い朝は、森へ入るな”だと』


 トマが低く言った。


「草の影が白い朝……」


 セリアが眉を寄せる。


「影が白い。リーゼさんの“足元の影が冷たい”と近いですね」


 井戸番が言った。


『年寄り本人も、何の話かまでは知らん。親に言われた言葉だそうだ』


 ニコルが記録する。


『伝承追加:霜でもないのに草の影が白い朝は、森へ入るな』


 村長が静かに言った。


「昔の者は、言葉だけ残すことがある」


 ダリオさんが頷く。


「理屈が消えて、禁止だけ残る。だが、禁止だけでも人を守る時がある」


 トマは腕を組んだ。


「でも、禁止だけだと知りたくなる」


「だから、今、理屈を戻す」


 午前、王都外部監査部から通信が届いた。


『ダリオ・ヴェント灰色手帳の見出し照合準備完了。保存官、再審査室立会い。閲覧は表題および同頁上部一行に限定。リベル村中枢室との同時確認を希望』


 村長が俺を見る。


「中枢室へ」


 俺は頷いた。


 ダリオさんも立ち上がる。


 ニコルが記録板を抱え、セリアも薬草反応の確認のために同行した。


 トマが一歩前へ出る。


「俺は?」


 村長が言う。


「広間」


「ですよね」


 思ったより素直だった。


 ダリオさんが少し意外そうに見る。


「今日は粘らないのか」


「粘ると、空白地帯へ行きたくなるので」


「成長したな」


「我慢してるだけです」


「我慢も技術だ」


 地下工房の中枢室は、昨日より静かだった。


 青白い光の線が床に薄く広がる。


 俺は登録した。


『未照合空白地帯。薄白冷感。灰青反応なし。リーゼ体感:足元の影が冷たい。伝承:草の影が白い朝は森へ入るな。ダリオ灰色手帳見出し候補:白冷え、戻し線影、森外縁。』


 中枢室の表示が浮かぶ。


《未照合空白地帯:再照合》

《灰青反応:不検出》

《薄白冷感:継続候補》

《伝承語彙:影白》

《ダリオ灰色手帳:照合待機》

《注意:現地接近禁止》


 俺は読み上げた。


「未照合空白地帯、再照合。灰青反応、不検出。薄白冷感、継続候補。伝承語彙、影白。ダリオ灰色手帳、照合待機。注意、現地接近禁止」


 広間のトマが通信越しに言った。


『現地接近禁止、了解』


 ダリオさんが通信札を見る。


「今日は素直だな」


『素直じゃないです。我慢です』


「よろしい」


 王都側の保存官の声が入った。


『灰色手帳、表紙裏見出し確認。“白冷えについて”。続く副題、“戻し線の影、森外縁に残る場合”。』


 地下工房の温度が少し下がったような気がした。


 ニコルがゆっくり復唱する。


「白冷えについて。戻し線の影、森外縁に残る場合」


 セリアが小さく息を呑む。


「戻し線の影……」


 ダリオさんは目を細めた。


「やはりな」


 王都側が続ける。


『同頁上部一行のみ判読します。“白冷えは、戻し線そのものにあらず。戻されかけた圧が、逃げ道を失い、影として残るものなり”。』


 ニコルの筆が走った。


『白冷えは、戻し線そのものではない。戻されかけた圧が、逃げ道を失い、影として残るもの』


 中枢室が反応する。


《白冷え:定義候補》

《命令戻し線本体:不一致》

《戻されかけた圧:残留影》

《逃げ道喪失:検出候補》

《現地薄白冷感:照合上昇》


 俺は読み上げた。


「白冷え、定義候補。命令戻し線本体、不一致。戻されかけた圧、残留影。逃げ道喪失、検出候補。現地薄白冷感、照合上昇」


 トマの声が広間から入った。


『戻し線そのものじゃないんですか』


 ダリオさんが答える。


「その可能性が高い。つまり、空白地帯に命令戻し線が今も走っているというより、過去に戻されかけた圧が逃げ場を失い、影のように残っている」


『影って、危ないんですか』


「分からん。だが、軽く見るな」


 セリアが口を開いた。


「影ということは、圧そのものより薄い。でも、残っている場所を刺激すれば、逃げ道を探して動く可能性がありますか」


 ダリオさんは頷く。


「ある。だから、入らない判断は正しい」


 王都側の保存官が続ける。


『続く一行は保存上、現時点では読まず。頁下部に小図あり。ただし未確認。詳細閲覧は安全手順策定後を推奨』


 村長が広間から言う。


『読まぬ。手帳を閉じよ』


 王都側。


『了解。灰色手帳、再封緘』


 通信が一段落しても、誰もすぐには喋らなかった。


 戻し線そのものではない。


 戻されかけた圧が、逃げ道を失い、影として残る。


 薄白い冷え。


 影白。


 足元の影が冷たい。


 言葉が繋がっていく。


 だが、繋がれば繋がるほど、気軽に近づけなくなる。


 広間へ戻ると、トマが待っていた。


 顔に、聞きたいことが山ほどある。


 だが、ちゃんと待っていた。


 ダリオさんが椅子に座る前に言う。


「質問は一つずつだ」


 トマは深く息を吸った。


「白冷えって、つまり何なんですか」


「今分かっている範囲では、命令戻し線そのものではなく、戻されかけた圧の残りだ。外縁が逃がすはずだった圧を、誰かが戻そうとした。だが完全には戻らず、逃げ道も失い、影のように残った」


「じゃあ、空白地帯は失敗の跡?」


 ダリオさんは少し考えた。


「失敗、と言っていいかは分からん。応急処置の跡かもしれない。避けたことで安定していた可能性もある」


 ニコルがすぐ整理する。


『白冷え解釈候補:

一、命令戻し線施工失敗跡。

二、戻されかけた圧の残留影。

三、逃げ道喪失部位。

四、応急的に避けて安定させた外縁空白。

五、現時点では接触禁止』


 トマが四番を指した。


「応急的に避けて安定。これ、ありそうですね。だって退避路が避けてるんですよね」


 リーゼさんが頷く。


「避けて、残した」


 セリアが言う。


「薬草で言えば、傷んだ根を無理に抜かず、その周りを踏まないようにするようなものです」


 トマが微妙な顔をする。


「それ、聞くと分かるけど、実際に見たら踏みたくなるやつですね」


「だから、印をつけて回避します」


 村長が言った。


「空白地帯は、当面“踏まぬ根”として扱う」


 ニコルが赤字で書く。


『空白地帯:踏まぬ根』


 ダリオさんが少し笑った。


「技術語ではないが、いい」


 午後、森退避路外縁で遠隔確認だけを行うことになった。


 昨日と同じく、リーゼさんが担当。


 ただし、今日は昨日より一歩手前で止まる。


 トマが聞いた。


「昨日より遠い場所で確認するんですか」


 リーゼさんが頷く。


「冷えを呼ばない」


 ダリオさんが言う。


「正しい。反応がある場所へ近づくより、反応が出ない距離を確認する方が大事な時がある」


 トマは唸った。


「反応を出させない確認か……地味だけど大事ですね」


 ニコルが書く。


『反応を出させない確認』


 森退避路の外縁から、リーゼさんの通信が届く。


『入口。異常なし』


 ニコルが復唱する。


「入口、異常なし」


『昨日の冷え地点より三十歩手前。止まる』


「三十歩手前、停止」


『鳥の声あり。苔、普通。足元、冷えなし』


 中枢室も反応しない。


 俺は表示を確認する。


《森退避路外縁:安定》

《薄白冷感:不検出》

《灰青反応:不検出》

《接近距離:安全側》


 読み上げると、広間に小さな安堵が広がった。


 リーゼさんが続ける。


『ここから先へ行くと、森が静かになる。今日は行かない』


 村長が答える。


『戻れ』


『戻る』


 トマがぽつりと言った。


「行かないって確認も、記録なんですね」


 ニコルが頷く。


「はい。行かなかった場所を残すことで、次に勝手に行く人を止められます」


 ダリオさんが言う。


「王都向けには特に必要だ。“未確認”とだけ書くと、では確認せよと言われる。“意図的未接近”と書け」


 ニコルが書き換える。


『意図的未接近:白冷え誘発回避のため』


 セリアが頷く。


「とても大事です」


 夕方、北沢のマルタから通信が入った。


『その空白、北沢の古い畑道にも影響してるかもしれないよ』


 ダリオさんが通信へ向き直る。


「どういうことだ」


『昔、北沢の子どもがリベルへ行く時、親に“白い草影を踏むな”って言われてたって、婆さん連中が言い出した』


 トマが反応する。


「また白い影」


『そうさ。子どもは踏みたがるからね。白く見える草影があったら、石を投げるな、踏むな、走るな、と』


 セリアが言う。


「石を投げるな、もあるのですね」


『あったらしい。投げると冷えが跳ねる、とか何とか。迷信だと思ってたけど、今となっちゃ笑えないね』


 ニコルが記録する。


『北沢伝承:白い草影を踏むな。石を投げるな。走るな。投げると冷えが跳ねる』


 トマが顔をしかめた。


「冷えが跳ねる……嫌な言い方だな」


 ダリオさんは真剣だった。


「重要だ。刺激で反応が広がる可能性を、生活語で残している」


 村長が言う。


「空白地帯への投石、踏査、走行、全て禁止」


 ニコルが赤字で書く。


『投げるな。踏むな。走るな』


 トマがそれを見て、苦笑した。


「子ども向けみたいだけど、一番効きそうですね」


「大人にも必要です」


 ニコルの声は真面目だった。


 夜が近づく頃、中枢室で総合表示を確認した。


 今日集めた情報を登録する。


 ハルマ伝承。

 北沢伝承。

 リーゼさんの体感。

 灰色手帳の一行。

 遠隔確認結果。


 表示はゆっくり浮かんだ。


《白冷え:照合更新》

《命令戻し線本体:不検出》

《戻されかけた圧の残留影:可能性上昇》

《刺激反応:未確認/警戒》

《外縁逃がし線:空白回避で安定》

《森外縁:未解明》

《注意:空白を線で埋めるな》


 俺は読み上げた。


「白冷え、照合更新。命令戻し線本体、不検出。戻されかけた圧の残留影、可能性上昇。刺激反応、未確認、警戒。外縁逃がし線、空白回避で安定。森外縁、未解明。注意、空白を線で埋めるな」


 トマが深く息を吐いた。


「命令戻し線そのものじゃないのは、少し安心していいんですか」


 ダリオさんは首を横に振る。


「少しだけな。だが、影は影で厄介だ。実体より軽いから安全とは限らない。踏んだ瞬間に動く影もある」


 リーゼさんが短く言う。


「森は見張っている」


 セリアが地図の空白を見つめる。


「見張っているなら、何かを外へ出さないためかもしれません」


 ニコルが記録する。


『森外縁:何かを外へ出さない見張りの可能性』


 ダリオさんが少し険しい顔になった。


「その見方もある。外縁は逃がすだけではない。逃がしてはいけない方向を避けることもある」


 トマが言った。


「じゃあ、空白地帯は、逃がし線の穴じゃなくて、逃がし線が避けてる蓋みたいなもの?」


 ダリオさんは目を細めた。


「蓋というより、踏まない床だな。乗ると沈むかもしれない」


「もっと嫌です」


「嫌でいい」


 村長がまとめた。


「空白地帯は、白冷え残留影候補として登録。外縁逃がし線はそこを通さぬ。地図の線を繋ぐために、空白を埋めてはならぬ」


 ニコルが赤字で大きく書いた。


『逃がし線は、空白地帯を通さない』


 その時、中枢室が小さく震えた。


 表示が一つ追加される。


《空白地帯中心:未確認構造物候補》

《形状推定:杭跡または旧境界印》

《注意:現地接近不可》


 俺は眉を寄せた。


「空白地帯中心、未確認構造物候補。形状推定、杭跡または旧境界印。注意、現地接近不可」


 広間が凍りついた。


 トマが呟く。


「杭跡……?」


 ダリオさんの顔が変わった。


「外縁杭かもしれん」


 ニコルの筆が、紙の上で止まった。


 セリアが静かに言う。


「でも、現地接近不可」


 村長が頷く。


「今日は、ここまでじゃ」


 トマは、今度は何も言わなかった。


 ただ、地図の空白を見ていた。


 そこに何かがある。


 だが、まだ見に行ってはいけない。


 見たい時ほど、戻らない。


 その言葉が、今夜は森へ向けられていた。


 夜、俺は個人記録を書いた。


『薄白い冷えについて照合。

ハルマ伝承:“霜でもないのに草の影が白い朝は、森へ入るな”。

北沢伝承:“白い草影を踏むな。石を投げるな。走るな。投げると冷えが跳ねる”。

ダリオ・ヴェント灰色手帳見出し:“白冷えについて”“戻し線の影、森外縁に残る場合”。

同頁上部一行:“白冷えは、戻し線そのものにあらず。戻されかけた圧が、逃げ道を失い、影として残るものなり”。

中枢室表示:命令戻し線本体不検出。戻されかけた圧の残留影可能性上昇。刺激反応未確認、警戒。外縁逃がし線は空白回避で安定。森外縁未解明。

リーゼによる遠隔確認:昨日の冷え地点より三十歩手前で停止。薄白冷感不検出。意図的未接近。

空白地帯は、踏まぬ根として扱う。投げるな、踏むな、走るな。

追加表示:空白地帯中心に未確認構造物候補。形状推定、杭跡または旧境界印。現地接近不可』


 最後に書く。


『薄白い冷えは、命令戻し線そのものではなかった。

戻されかけた圧が、逃げ道を失い、影として残るもの。

ダリオさんの手控えは、そう言っていた。

白冷え。

戻し線の影。

森外縁。

古い伝承は、それを生活の言葉で残していた。

草の影が白い朝は、森へ入るな。

白い草影を踏むな。

石を投げるな。

走るな。

昔の人は、理由を忘れても、避け方を残した。

それが今日、俺たちを止めている。

空白地帯は穴ではない。

線を引き忘れた場所でもない。

逃がし線が、あえて通らなかった場所だ。

もしかしたら、踏まないことで安定していた場所。

そして中心には、杭跡か旧境界印らしき未確認構造物がある。

外縁杭かもしれない。

けれど、まだ近づかない。

地図の空白を線で埋めてはいけない。

見たい時ほど、戻らない。

今夜、その言葉は旧水路ではなく、森に向いている。』


 地上では、水車が回っている。


 森は、黙っている。


 だが、黙っているだけではない。


 白い影を踏むな、と昔の声が言っている。


 そして、その影の中心に、抜け落ちた杭の気配がある。

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