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赤字領地を黒字化したら、冷徹な「魔王公爵」からの重すぎる請求(という名の執着)が止まりません  作者: 希羽


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7/7

第7話(最終話):重すぎる請求書は、永遠に払い終わらない愛の証

 謁見の間を支配していた張り詰めた空気は、レオンハルト殿下の笑い声によって霧散した。


「……く、くくっ! あはははは!」


 殿下は腹を抱えて笑い出した。目に涙さえ浮かべている。

 私とヴァルデズ閣下は顔を見合わせた。怒らせたのか、それとも呆れられたのか。


「参ったな。あの『魔王』に『計算機』。国一番の頑固者二人が揃って『愛』だの『変数』だのと非合理なことを言い出すとは」


 殿下は涙を拭い、楽しげに私たちを見下ろした。


「いいだろう。商談は決裂だが、新たな『契約』を提案する」

「契約、ですか?」

「ああ。エリス・クラーク。君を王宮には戻さない。その代わり、ヴァルデズ辺境伯領を『王家直轄・特別経済特区』に指定する」


 殿下の緑色の瞳が怪しく光った。


「君の手腕で、北の経済圏をさらに発展させろ。その利益の3割を王家への上納金とする。……その代わり、君たちの結婚を認め、今後一切の干渉を禁じよう。どうだ?」


 3割。通常の上納金よりは高いが、王家の後ろ盾(と不干渉の約束)が得られるなら、安いものだ。


 私は瞬時に損益分岐点を計算し、ヴァルデズ閣下を見た。閣下も微かに頷いている。


「……承知いたしました。ただし、契約書には『王太子の個人的な介入も禁ずる』という一文を明記していただきます」

「ははは! 抜け目がないな。いいだろう、交渉成立だ!」


 こうして私たちは、最強の特権と自由を手に入れて、王宮を後にしたのだった。


 それから数ヶ月後。


 オルグレン辺境伯領は、かつてない活気に包まれていた。


 「黒字の女神」がいる街として商人たちが集まり、物流の拠点として急成長を遂げたのだ。


 そして、領主の城の執務室。


 相変わらず書類の山はあるが、それは無秩序なゴミの山ではなく、整理された「富の山」だった。


「……エリス」

「はい、何でしょう。今、決算の締め作業中で忙しいのですが」


 私が羽根ペンを走らせていると、背後からヴァルデズ様が覆いかぶさってきた。


 彼の腕が私の腰に回り、肩に顎が乗せられる。いわゆる「バックハグ」と「肩ズン」の複合技だ。


 重い。物理的にも、愛情的にも。


「仕事と俺と、どっちが大事だ」

「ベタな質問ですね。……仕事です」

「即答か」


 彼は不満そうに私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

 くすぐったいし、心臓に悪い。


 この「魔王」様、恋人になってからというもの、タガが外れたようにスキンシップが激しくなった。執務中でも隙あらば充電しようとしてくる。


「嘘ですよ。仕事は手段、貴方は目的です」

「……口が上手くなったな」

「優秀な教師がいますから」


 私がクスクス笑うと、彼は意趣返しとばかりに、私の耳元で囁いた。


「なら、その目的に対する支払いを要求する」


 彼は一枚の羊皮紙を私の目の前に置いた。

 それは、彼の手書きの請求書だった。


『請求書』


 品目:ヴァルデズ・フォン・オルグレンの愛と抱擁

 数量:無限

 単価:プライスレス

 請求額:エリスの生涯の時間すべて


「……なんですか、これ。市場価格を無視した独占禁止法違反ですよ」

「嫌なら払わなくていい。ただし、延滞利息としてキスを追加する」

「暴利ですね」

「魔王だからな」


 彼はそう言って、私が反論する隙を与えずに唇を塞いだ。

 甘く、深い口づけ。

 頭の中から数字が消え、計算ができなくなる瞬間。


 これが「生理的喚起」なのか「誤帰属」なのか、もうどうでもいい。


 私が彼を変えたのではない。彼が私に、計算できない幸せを教えてくれたのだ。

 この重すぎる請求書は、きっと一生払い終わることはないだろう。


 けれど、それも悪くない。


 だって私は、借金を返して黒字にするのが何よりも大好きな、世界一優秀な会計監査官なのだから。


「……愛しているぞ、俺の監査官」

「はいはい。私もですよ、私の魔王様」


 窓の外、北の空にはオーロラが揺らめいている。

 私たちの愛と領地経営は、今日も順調に右肩上がりだ。


(完)

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― 新着の感想 ―
最後まで読みました!完結ありがとうございます! ・・・やっぱり、リボと過払い金請求とリース料が気になりました。 CSリボと過払い金請求はセットだけどリース料は別かなと。 リース料は本来提供されるべきサ…
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