本編6話 寄付
本編6話
夕方になり、馬車が王城に入ってくるのが微かに聞こえた。
「(お、アルベルトが帰ってきたか…)」
馬車の音を聞いた俺は、ドレスを整えてから、部屋を出て、アルベルトの元へ向かった。
数分後、1階に降りた俺は、玄関前で話し込んでいるアルベルトを見つけた、腰まである青く長い髪を後ろで結んでいる、その青髪は密かに夕方の光を反射していて、遠目から見ても分かった、そして俺はアルベルトの背後に近づいた。
「っ!?アルベルト様!お離れください!」
騎士は俺の姿を見るなり、鞘から剣を抜いて臨戦態勢に入った。
「(そうか…アルベルトの騎士はしばらく地方に遠征に行ってたから俺の更生を知らないのか…)」
俺はその場で立ち止まって、無言でアルベルトの方を見た。
「おや…エリーゼか、珍しくお出迎えとは…もしかして、寂しかったのかい?案外エリーゼにも可愛い所があるんだな…フッ!大丈夫さ!俺が愛しい妹を置いて行くわけないだろ?それでどうしたんだ?」
アルベルトは余計な事を口にしつつ、聞いてきた。
「あぁ…その、少し話があるんだけどね…」
俺がそう言うと騎士が更に警戒した。
「アルベルト様!聞いてはなりません!何かの罠かもしれません!」
騎士は俺に剣を向けたまま、依然として臨戦態勢をとっている。
「ごめんね…アルベルト兄様…邪魔しちゃったね。大人しく部屋に戻るよ…」
俺は事態の悪化を防ぐために、部屋に戻ろうと歩き出した。
そこで騎士達がかなり驚いた顔をして互いに見合わせている。
「待つんだ、エリーゼ。」
アルベルトは状況を察してか、真面目な顔で俺を呼び止めてきた。
「なっ!アルベルト様!何を考えているんです!危険です!エリーゼ王女様の話を…!」
「黙れ!!これは王子としての命令だ!エリーゼを俺の部屋に連れてこい!そして丁重に扱え!」
アルベルトは騎士達の心配の声を、怒鳴って一蹴した。
「し、正気ですか!?いくら何でもエリーゼ王女様を部屋に入れるなど…!」
騎士達はアルベルトの怒号を聞いても、心配の声をあげ続けた。
「俺に…逆らうのか?」
アルベルトは鋭い眼差しで、騎士たちを睨みつけて、腰に差していた剣を親指でわずかに抜いて、刀身の一部が光った。
「うっ…しょ、承知いたしました…エリーゼ王女様をお部屋までお連れします…」
騎士達は警戒しながら近づいてきて、鞘に手を掛けたまま、後ろからついてきた。
そしてアルベルトの部屋に到着して、中に入った。
「それでエリーゼ、どうしたんだい?もしかして俺の帰りを密かに涙ながらに待ってたのかい?大丈夫さ!俺の胸に飛び込…」
「あ、もういいから、それで話があるんだけど…」
アルベルトが余計な言う中、俺はそれに割って入った。
「フッ…!冷たいエリーゼもいい…いや、いつもか…それで話とはなんだ?」
アルベルトはまたもや余計な事を言いつつ、冷静になって聞いてきた。
「あの…この間ね、更生しようと思ってさ、ライムお姉ちゃんに謝罪して、許しを得たの、それでアリオン兄様とも少しだけ関係が修復できて、その時に更生の為の資金を得てさ、残りが金貨3枚あってその内2枚を孤児院や貧困層に寄付したいんだけど…協力してくれるかな…?」
俺は更生理由をアルベルトに話した。
「なるほどっ!金貨2枚で孤児院や貧困層の施設を買い取って俺と一緒に愛の共同作業をしようって話だな!んー!凄くロマンチック!そしてそこで俺は愛しいエリーゼと結婚を…!」
そう言いかけた時、女としての自己防衛が激しく反応したのか、体が勝手に動いていた。
「違うわアホー!ただの慈善活動よ!!」
俺は勢いでアルベルトを蹴り飛ばしてしまい、顔を赤くして言った。
「ぐはー!」
(ガラガラガラガシャーン!)
その音を聞いた騎士達が扉を開けて駆け込んできた。
(バン!ドタドタドタドタ!)
「アルベルト様ー!何事で…!なっ!?」
騎士達は半壊した机や椅子の下敷きになってるアルベルトを心配そうなの目つきで見ている。
「やはりアルベルト様に攻撃を!エリーゼ王女様!そこから動かないでください!」
騎士達は瞬時に鋭い目つきに変わり、鞘から剣を取り出して、俺に向けてきた。
「やべ…」
俺は小さく呟き、大人しく両手を挙げて、その場に立ち尽くしたまま、一筋の冷たい汗をかいた。
騎士達は大人しい俺に驚きつつも、警戒を緩めずゆっくり、1歩づつ近づいてきた。
「待て!剣を下ろせ!」
アルベルトは半壊した机や椅子をかき分けて、すぐさま立ち上がって大声で言った。
「し、しかし…!今は明確にアルベルト様に攻撃を…!」
騎士達が言いかけたとき、アルベルトはゆっくり騎士達に近づいた。
「今のは俺が、からかったせいだ…それより剣を下ろせ、今すぐだ。」
アルベルトは冷静に騎士達に言い放った。
「し、承知いたしました…」
騎士達はアルベルトの剣幕に押され、剣を下ろして、鞘に収め直した。
「それで…慈善活動だったな…金貨2枚で孤児院や貧困層を救いたいと…だがそれまたどうして?」
アルベルトは首を傾げて不思議そうに聞いてきた。
「やっぱり悪事を働くより、善事を行おうと思って…今まで褒め称えられてるお姉ちゃんが凄く憎くかったけど…でも軟禁されてる時に思ったの…やっぱりお姉ちゃんみたいになりたいって…お姉ちゃんみたいにみんなから尊敬されたり、称えられたり、みんなに優しくしてるから…それに……毒を盛って殺そうとした私を謝罪1つで許してくれたの…私もお姉ちゃんみたいな優しい王族になりたい!」
違う…本当の俺は、ただ処刑を逃れたかった、死なないように生きたかっただけだ、そのための慈善活動のはずだった…ただエリーゼの記憶を思い出してか、ふと無意識に涙ながらにアルベルトに気持ちを打ち明けていた…
「エリーゼ…お前…やっぱりお前は優しかったんだな…昔はみんなに優しかったよな…良かった…まだ失って無かったんだな…」
アルベルトは俺の話を聞いてか、泣きじゃくって言ってきた。
「アルベルト様!騙されてはなりません!感情的に訴えかける罠かもしれません!」
騎士達は依然として、警戒を緩めようとしなかった…
「(まぁ、そうだろうな…長年悪事を働いてたやつがいきなり支援するなんて…普通ありえないもんな…)」
俺は無言で若干俯いてその場に立ち尽くした。
「ッ!いい加減にしないか!エリーゼが更生しようと言うときになぜお前達はすぐに疑う!大体、エリーゼが失敗を重ねて貶してきたのは、お前達だろ!?せっかくの機会を潰す気か!!」
アルベルトは騎士達の無礼に我慢ならなかったのか、騎士達を叱りつけていた。
「(ん…?アルベルト…ライムに似てる…?)」
俺はアルベルトのその様子から、この間、ライムが食堂で他の王子たちに怒鳴っているのを脳裏に思い浮かべながら思った。
「アルベルト兄様、私は気にしてないよ?それに信用出来ないのも無理ないよ…だから騎士達に怒るのはもう辞めて?私は少しづつ信頼を取り戻していきたいから…」
俺はアルベルトを落ち着かせる為に、冷静に言った、騎士達は非常に驚いた顔をして見てくる。
「え?そ、そうか…済まない、エリーゼ…」
アルベルトは少し驚きつつも、頭をかきながら謝罪をしてきた。
「さて、今日はもう遅い、また明日、朝に孤児院や貧困層のところに行こう。」
アルベルトは気を取り直して、そう言ってくれた。
「ありがとう!アルベルト兄様!」
俺は自然と笑顔が溢れて、感謝を伝え、部屋に戻った。
翌朝、玄関に行くとすでにアルベルトが待っていた。
「来たか、まずは孤児院へ行こう。」
アルベルトは真面目な顔でそう言って、一緒に馬車へ乗り込んだ。
孤児院へと向かってる道中、アルベルトはずっと無言で目を閉じて微笑んでいた。
そして孤児院に到着した俺とアルベルトは早速中に入った。
(ガチャ)
「あぁ、アルベルト王子様…今日は何か…」
院長はアルベルトが入ってきた事に驚きつつも声をかけたが、俺の姿を見て、エリーゼが過去に行った理不尽な仕打ちを瞬時に思い出したのか、青ざめる。
「エ、エリーゼ王女様!?子供たちが何か粗相を…!」
院長は反射的に額を地面に擦りつけて、土下座をしてきた。
「えっ…い、いや、今日は寄付をしにきたの…いつも迷惑かけてばかりだったから…反省しようと思って…」
俺は院長に金貨2枚を手渡しながら言った。
「……へ?」
院長は手渡された金貨を見つめたあと、俺の顔を見てきて驚いた顔をしている。
「今までご迷惑をお掛けしたこと、改めて私からも謝罪したい…本当にすまなかった!エリーゼは今、更生の為の道を切り開こうとしている…もちろん今までの行いは寄付や謝罪で許されるとは思っていない…しかしエリーゼは変わろうと努力している…だからこそ協力してほしい、頼む。」
アルベルトは院長に深々と頭を下げて目に涙を浮かべながらも話した。
「あ、頭をお上げください!アルベルト様!私達はエリーゼ王女様の事を許します…もちろん今はまだ完全には信用出来ませんが、少しづつ協力します…」
院長は少し驚きつつも、すぐに謝罪を受け入れてくれた。
「ありがとう!これで少しづつエリーゼは変われ…」
アルベルトは院長に感謝を伝えて、和解の握手をしていると、盗み聞きしていたのか、扉の奥から世話係のロウが出てきて怒鳴り始めた。
「あぁ!?王女様から謝罪だ!?よくもまぁ、あんなめちゃくちゃな事しておいて今更か!ふざけんな!」
「(まぁ、ですよね。)」
俺は一筋罠では行かないことは薄々察していて、ロウの激高を聞いて、その場で頷き始めた。
「コラ!ロウ!無礼ですよ!」
院長はすぐにロウを叱りつけた。
「うるせえ!今までコイツのせいで子供たちが…!」
ロウがそう言いかけた時、アルベルトがロウに駆け寄り、胸ぐらを掴み、怒鳴り始めた。
「貴様!妹を侮辱する気か!お前なんぞ即座に…!」
アルベルトがロウを処罰しようとしたので、俺は咄嗟に止めに入った。
「アルベルト!やめなさい!」
「なっ!?し、しかし、今コイツはお前を…」
「いいから!やめなさい!」
「で、でも…」
俺は無言でアルベルトを睨みつけて、圧をかけた。
「わ、分かった…エリーゼ、すまない…」
圧に負けたアルベルトはしょんぼりして謝ってきた。
「今まで散々ご迷惑をお掛けしたこと深く反省しております。」
俺は再度、院長に頭を下げて謝罪をした。
「ほら!もう王城に戻るわよ!騎士達も!」
俺はアルベルトと騎士達にそう言って足早に孤児院から出た。
「な…なんだ…?」
ロウは記憶にある過去のエリーゼ像と一致しないのか困惑して、その場で立ち尽くしていた。
そして馬車に戻り、王城へと帰っている途中、アルベルトが口を開く。
「エリーゼ、なぜあの男を処罰しなかったんだ?」
アルベルトは先程、侮辱してきたロウの事を思い出しつつ、俺に問いかけてきた。
「あのね…アルベルト兄様があそこで処罰なんかしたら信用問題に関わるでしょ…私を思う気持ちは分かるけど、感情的になるのはダメだからね。」
俺は少し呆れながらも、アルベルトを諭した。
「そうか…俺の為を思って…すまなかった…」
「いいのよ…それより、協力してくれてありがとう…」
俺は少しだけ微笑んでアルベルトに感謝を伝えた。
アルベルトはその様子に安心したのか、同じく微笑んで見つめてきた。
そして王城に戻ってきて、アルベルトは公務に戻り、俺は部屋に戻って、ベッドで仰向けになった。
「(やべ…貧困層の支援忘れてたな…)」
俺はそう思ったが、アルベルトの激怒している姿を思い出して、考え込んだ。
「(いや…今日は辞めておくか…貧困層からの批判はもっと来るはず…あまりアルベルトと一緒に同行するのは良くないな…)」
俺はそう考えて、ベッドで寝転んでいた。
しばらくして、侍女が部屋に入ってきた。
「あの…ライム王女様からお手紙を…」
「はーい、また愛が綴ってあるのかしら…」
俺は半ば呆れて、ライムからの手紙を開いた。
『滞在が延びた…あのクソ領主のせいで仕事が増えたわ…はぁ、エリーゼに会いたい…会いたい…会いたい会いたい会いたい!』
その手紙を見た瞬間、身の毛がよだつ思いで体を震わせた。
「(うわ…ヤンデレ具合が進化してる…)」
俺はライムのヤンデレ具合が酷くなっている事に頭を悩ませつつも、そっと手紙を閉じて、引き出しにしまった。
「(とりあえず暇だし、魔法訓練場にでも行こうかな、火魔法と水魔法をもっと極めたいし…)」
俺はそう思い、ドレスから動きやすい冒険者服に着替えてから、魔法訓練場へと向かって、到着した。
「さて…まずは無難にファイアーボールから…」
俺は的にファイアーボールを当てた。
的は煙を上げた程度で、少しだけ焦げ付いている。
「やっぱり練習あるのみだな…今日はとりあえず火魔法を鍛えよう!」
数時間後、俺は火魔法を的に当てまくった。
「ふぅ…疲れた…こんなもんでいいかな、魔力切れ起きる前に戻るか…」
気付いた頃には辺りが夕方になっていた、そして部屋に戻る時、訓練場の入り口から視線が感じて、入り口を見たが、そこには誰もいなかった。
「…?気のせいか…」
俺はそう思い、部屋へと戻り、早速ベッドに寝転んだ。
その一方、魔法訓練場で謎の人影があった…
「チッ…火魔法…中々の威力だな…クソ」
その人物はまる焦げになっている的を見て、極度に焦っていた…




