本編5話 信頼回復
本編5話
俺は掲示板を眺めていると、薬草採取の依頼が沢山残っていたので、それを3枚もぎ取って、さらに剣術を極めるためにゴブリン討伐の紙を1枚もぎ取って受付に行った。
「サトウさん!今日も薬草採取をしてくれるんですね!それとゴブリン退治…」
受付はゴブリン退治の紙を見て、少し不安そうな顔をしていた。
「一応剣術に関してはチラッと学んだが実戦経験が無い…とりあえず1匹で試す、無理そうなら逃げる、もちろんその分のペナルティは覚悟している。」
「そうですか…絶対に無理はなさらないでくださいね!」
受付はカウンターから身を乗り出して言ってきた。
「分かっている、それと薬草採取は続けるぞ。掲示板にアホほど貼ってあるからな。」
俺は掲示板を横目に見ながら言って、冒険者ギルドから出た、受付は安心した顔で俺の背中を見送った。
「ヒール草に…アンチポイズン草…それとマナ草…ひとまず15束づつ持っていくか…」
俺は独り言を呟いて、30分かけて採取を終えた。
「よし、こんなもんだな、次はゴブリンか…」
俺は採取した薬草を袋に入れて、ローブのポケットにしまった、しばらく森を歩いているとゴブリンを発見した。
「グワッ…グワウ…」
「(あれがゴブリンか…)」
俺は腰に差していた剣に手を伸ばし、鞘に手をかけたままゴブリンの前に飛び出した。
「グワッ!グワーッ!」
ゴブリンは俺を見て襲い掛かってきた。
俺は呼吸を整えて、わずかに足を前に出して、前傾姿勢をとってから、剣を鞘から素早く取り出してゴブリンの首の付け根あたりを狙って放った。
「グワッ…!グワーッ!」
技術が悪かったのか、威力が弱かったのか、ゴブリンには少しの傷しか付けられなかった。
「(クソ…やっぱり本で読むだけではだめだな…)」
俺は剣術の技術を極めることを決めて、ゴブリンに目掛けて剣を突き刺した。
「グワーッ!!!!」
「分かってはいたが…やはりここは現実…ゲームじゃないんだな…」
俺は倒したゴブリンを解体し始めて改めて転生した事を実感する、そして魔石を取り出して、ポケットにしまってから森を出て、冒険者ギルドへと帰った。
そして扉を開けて中に入り、受付に薬草と魔石を取り出してカウンターに置いた。
「はーい、お疲れ様です。案外早かったんですねー」
「あぁ、ゴブリンには少し手こずった、やはり誰かに鍛えてもらわねばな…」
俺は少し困ったように言うと受付は換金しながら答えた。
「あれ?知らないんですかー?毎朝当ギルドで剣術講座やってますよ?両刃か片刃で分かれてますけどねー」
「ふむ、そうなのか…ではまた明日も来るか…」
俺はその話を聞いて少し期待を胸に秘めた。
「はい!換金終わりましたよー。大銅貨8枚ですね!」
「(やはり多いな…薬草ボーナス分か…まぁいただくか…)」
俺は報酬の多さに戸惑ったが、昨日の話を聞いて、そのままポケットにしまって、ギルドから出た。
「(そういえば…さっきゴブリンを倒しづらかったのは俺の剣が両刃だったからだよな…さっき繰り出した剣術は片刃向きだし…片刃買ってみるか…出来たら日本刀が欲しいな…)」
俺は先程のゴブリンを倒しづらかった事に悔やんで、剣を買った武器屋へと足をはこんで、中に入った。
「いらっしゃ…ん?お前さん、どうした?」
店主は相変わらずぶっきぼうに挨拶をして、顎髭を弄りながら尋ねてきた。
「さっき剣を買ったと思うんだが…片刃の剣が欲しい、出来れば湾曲してる剣は無いか?」
俺は前世の知識を元に、日本刀の特徴を店主に伝えた。
「ん?湾曲してる剣…おぉ、それならあるぞ、待っておれ」
店主はそう言うと、店の奥へと消えていって、数分後に戻ってきた。
「ほれ、これじゃ」
店主の持ってきた剣の特徴は日本刀その物だった。
「これが…店主、これはどこで手に入る?どこで作られてるか分かるか?」
俺は心の中でテンションが爆上がりしたが、表には出さずに冷静を装って聞いた。
「これはジャポルで作られたんじゃ、輸入品じゃから少し値は張るが…お主がさっき買っていった剣となら交換してもええぞ、値段はそこまで変わらんからな。」
店主はそう言うと、俺は感謝を伝えて、腰に差していた剣を店主に渡して刀を受け取って店を出た。
「(ジャポル…日本を英語表記にしたジャパンに似てるな…この世界は多次元宇宙の地球…なのか?)」
俺は思わずそう考えたが、今の段階ではどうすることも出来ないので頭の片隅に置いた。
そしていつもどおり王城近くの森で着替えを済ませてから王城に帰った。
帰ってきた時、昼間の明るさが、わずかに傾き始めた頃、早めに部屋に戻って休む事にした。
俺は部屋に戻ると、早速ベッドに飛び込んだ。
「ふぅ…疲れた…」
すると部屋の隅にいた侍女が話しかけてきた。
「あの…ライム王女様からお手紙を…」
「一体何かしら…もしかして浄化魔法のこと…?そう言えばアンデットがどうのこうのって言ってたような…」
俺は騎士に引き摺られていく前にライムが発言した事を思い出しつつ、手紙を開いた。
『うえーん!緊急の公務で隣町の領地に行くことになったよー!帰ってくるのは1週間後になりそう…エリーゼに会えないのやだやだー!』
手紙にはライムの愛が綴られていた。
「ははっ…帰ってきたら、お姉ちゃんの愛が爆発しそうね…」
俺は苦笑いして小さく呟いて、少し寂しさを覚えつつ、そっと手紙を閉じて引き出しにしまった。
そして俺は朝の魔法特訓と昼の冒険者の依頼をこなした疲れからか、ウトウトしてそのまま眠ってしまった。
しばらく眠りこけてしまった俺は目が覚めたとき、あたりはすでに真っ暗になっていた。
「もう…夜か…」
トイレに向かうため、重い体を起こして、部屋を出た。
トイレに向かっている途中、アルカスの部屋の扉が少し開いていて、話し声が聞こえてきた。
「だから!エリーゼはもう更生してるはずだ!」
その声はアリオンだった。
「いいや、アイツは何を考えてるか分からん、最近ライムとよくつるんでいる、次に何をしでかすか、分からんぞ…監視を強化するべきか…」
アルカスは俺をよほど警戒しているのか、考え込みながら話した。
「父上には様子見をしろって、この前言われただろ!?それに更生の為に、資金を借りたいって俺のとこにも来た!エリーゼは本気で変わろうとしてるんだ!」
アリオンはアルカスに大声で言っていた。
「なにっ!?貴様、エリーゼに資金を渡したのか!?いくらやった!?」
アルカスはアリオンに怒鳴り返していた。
「き、金貨5枚だ…」
アリオンはアルカスの気迫に押されて白状した。
「金貨5枚か…そのくらいなら大丈夫か…上等な剣すら買えないしな…」
その言葉を聞いた俺は王族は金銭感覚が無い事を察して、思わず吹き出してしまった。
「っ!?誰だ!!」
物音に気づいたアルカスが扉に向かって叫んできた。
俺はそそくさとその場を離れようとした。
(ドタドタドタ!バン!!)
「あ”っ…!」
俺はアルカスの部屋を離れようとした所、アルカスに見つかってしまった。
「エ、エリーゼ…お前…」
アルカスはひどく驚いた顔をして冷や汗をかきながら言ってきた。
「えっと…おやすみ!アルカス兄様!じゃあね!」
俺は戸惑ったが、すぐに笑顔でアルカスに言った。
「おい!待て!エリーゼ!」
アルカスは叫んできたが、俺は既に風魔法を使ってその場を離れていた、その叫び声は微かに聞こえていたが、無視して部屋へと戻った、念の為に鍵をかけて、ベッドに移動して眠り始めた。
(コンコン!コンコン!コンコンコン!)
翌朝、俺はノック音で目が覚めて、体を起こして、ドアを開けた。
「あっ…エリーゼ王女様…ご無事で良かったです…朝食のご準備が出来ています…」
侍女が少し息を切らして話しかけてきた。
「ふわぁ…ありがとうねー」
俺はあくびをして侍女にお礼を言った。
「あの…アルカス王子様がエリーゼ王女様にお話があると…先程、伝言を頂いて…朝食を食べ終えたら部屋に来るようにと…」
侍女は怯えながら話した。
「げっ…何かしら…分かったわ…ありがとう、リン」
俺は昨日の出来事を瞬時に思い出して、朝食を食べ終えた後、ため息をついて、重い足取りでアルカスの部屋に向かう。
(コンコン)
「入れ!」
アルカスは少し怒鳴るように言ってきた。
「アルカス兄様…な、何か用事…?」
俺は少し怯えながら、アルカスの部屋に入った。
「とぼけるな…お前何を企んでる?アリオンから貰った金貨は何に使った?」
アルカスは厳格な態度で問い詰めてきた。
「……………。」
俺は目線を反らしたまま無言になった。
「答えろ。何に使った?何を企んでる。」
アルカスは組んでいた腕を下ろして、更に鋭い目つきで問い詰めてきた。
「…………。」
依然として俺は無言を貫いた。
「…はぁ、もういい…下がれ!」
アルカスは諦めたのか、ぶっきらぼうにそう言って俺は部屋を出た。
「(やはり流石、悪役令嬢…警戒されてるな…とはいえ信頼を勝ち取らないと…また投獄とか下手したら処刑とかされるかもしれん…どうするべきか…)」
俺は廊下を歩きながら考え込んで、自室へと戻った。
「(とりあえずアルカスの件はまた別として…この間書架で魔石があれば魔導具が作れると書いてあったな…変身魔導具とか…作ってみるか…)」
俺は魔導具の件について調べるため、書架に向かい、中に入って、本を何冊か手に取り、読みあさり始めた。
「(ふむ、ゴブリンの魔石でも作れるんだな…ただ強い魔物になればなるほど、落とす魔石の魔導具の使用回数や使用時間が延びると…ゴブリンの魔石は基本的に1回限りで4時間…まぁまぁ長いが…遠出する時は、いくつか持っておくか、その場で調達する事になりそうだな。)」
俺は本で再度情報を得て、書架を出た。部屋に戻り、黒いローブに仮面を持って、森で着替えを済ませてから、冒険者ギルドに向かい、到着した。
掲示板を眺めて、依頼の紙を手に取って受付に持って行き、手続きを済ませて冒険者ギルドから出た。
いつもどおり薬草採取を終えて、ゴブリン討伐に向かった。
ゴブリンを見つけた俺は早速、昨日買った刀で、攻撃を仕掛けた。
「(刀なら…昨日の動きで倒せるはず…)」
そう思い、前傾姿勢になって、鞘から刀を瞬時に抜いて、ゴブリンの首の付け根を狙って剣先を放った。
「(グワッ…グ…グア…)」
ゴブリンはその場でうめき声をあげながら倒れている。
「(少しズレたか…それに威力もまだ弱い…やはり実戦経験が少なすぎる…今度、冒険者ギルドの剣術講座を受けてみるか…)」
俺はそう思いつつ、変身魔導具用に、ゴブリンを数匹倒して、ギルドへと戻り、換金を終え、森で着替えを済ませてから王城に帰った。
「(さて…魔導具作るか…)」
自室に戻った俺は早速魔石を取り出して、魔力を流し始めた。
数時間後…
「よし…完成ね…」
俺は遂に変身魔導具を作り上げた、使うと赤髪のショートボブになり、声も少しだけ低く設定するようにした、しかしここで1つ、問題が生じた。
「(完成したはいいが…冒険者として活動する時にサトウ・トモカズ名義で活動するか、また新しく作り直すか…いやでも流石に違う名義にするとなると…規約違反だしなぁ…)」
俺はかなり悩みまくったが、結局サトウ・トモカズ名義で冒険者活動を続ける事にした。
ふと窓に目をやると、日がわずかに傾き始めていた。
「(もう昼か…)」
変身魔導具を作り終えた俺は特にする事がなく、ベッドで仰向けになって寝転んだ。
「(どうするか…そう言えば王城内の信頼回復もしないとな…書架に行ってこの国の事、調べてみるか…?とはいえ前世では全く政治に興味を持って来なかったから何をすればいいのか…)」
俺はかなり悩んだが、結局書架に行ってこの国の事を調べる事にした。書架に到着した俺は早速本を手に取って読み始めた。
「(そう言えばこの国はトレンド王国って名前だっけか…)」
俺はエリーゼの記憶を辿りに、この国の事を思い出しながら本を読んでいた。
本を読んでいく内に、段々と分かった事がある、王国であるこの国は王族と貴族が権力を分け与える体制だが、今までのエリーゼの悪行のせいか、使われるべき資金が上手く活用できず、この国の身分の格差が露呈していた。
「(まじか…本にすらエリーゼが名指しで載るとは…これはアルカスも警戒するわけだ…と言うことは下手に動いて、失敗したら俺は確実に反感を食らって処刑に近づいてしまう可能性があるわけか…)」
俺は本に書かれている内容を見て、慎重に考え始めた。
「(まずは…手元に残ってるの資金が金貨3枚…これを元手に孤児院に寄付してみるか…?でもどうやって…エリーゼの名で通すと今までの悪行で警戒されるし…かと言って別の名前を使うとそれはそれで俺の信頼回復にならない…)」
俺は非常に頭を悩ませて、十数分その場で立ち尽くした。
そこで意外な人物が声を掛けてきた。
「あの…エリーゼ王女様…?何かお困りで…?」
司書は若干怯えながらも、俺が困ってる様子を見て話しかけてきた。
「あら…んー、困りごとは困りごとなんだけど…何と言うか…その…」
俺は司書にまだ警戒されている事に頭を悩ませて、真実を話すかどうかかなり迷った。
「最近のエリーゼ王女様は変わられましたよね…今までは書架に来る事など滅多に無かったのに…何があったかは存じ上げませんが、恐縮ながらお力になれるならお話だけでもお聞かせ願いませんか…?」
司書はオドオドしながら、少しだけ覚悟を決めた顔をして言ってきた。
「最近ね、更生しようと思ってね、だから書架で文字を学んだりこの国の事について調べてたの、それでね、この国は私の過去の悪行のせいで、身分の格差が酷いじゃない?孤児院に寄付しようと思ってるんだけど…直接私の名前で寄付しちゃうと逆に警戒されちゃうし…かと言ってライムお姉ちゃんやアルカス兄様の名前を使って寄付したらそれはそれで私の信頼回復にならないから…だから少し悩んでてね…」
俺は司書を信用してすべてを打ち明けた。
「なるほど…だからさっきはあんなに考え込んで…ふむ、それならアルベルト王子様に相談してみてはいかがでしょう?確か貧困層や孤児院の管轄はアルベルト王子様だったはずです。」
司書は俺の相談を聞いて提案してきた。
「アルベルト王子…でも今までの悪行のせいで信頼ゼロよね…逆に警戒されないかしら…」
俺はエリーゼの記憶を辿りにアルベルト王子を思い出しながら司書に尋ねた。
「アルベルト王子様はエリーゼ王女様の事を凄く溺愛しています。エリーゼ王女様が今まで悪行をおこなっていても、軟禁で済んだのはアルベルト王子様の計らいもあったんですよ。そうだ!アルベルト王子様が今日の夕方頃に、地方の遠征から帰ってきます!ぜひご相談してみては?」
司書は有益な情報を提示してきて、俺は深々と頭を下げ、礼を言ってから書架を出て、先程調べた資料の情報を紙に書いて、夕方になるまで部屋で待機した。




