本編4話 魔法訓練
本編4話
王城へと戻った俺だが、辺りは日の光が落ち始めていて、徐々に茜色に染まり始めていた。
「エ、エリーゼッ!!」
ライムは悲鳴混じりの声で叫んできた。俺を見つけると即座に駆け寄ってきた。
「エリーゼ!今までどこにいたの!心配したのよ!」
ライムは朝から俺が王城内にいない事にとても不安がっていた。
「え?えっと…その…お庭を散歩してたから…たまたますれ違ったんじゃ…」
俺は即座に言い訳をしたが、ライムがそれに割って入って怒鳴りだした。
「そんなわけ無いでしょ!庭師に聞いたら今日はエリーゼが来ていないって言っていたわ!どこにいたの!それに昨日も今日も魔力量が減っているし!一体どこで何してたわけ!?」
ライムは我慢の限界だったようで、俺の肩を両手で力強く握りしめて、魔力量について指摘し始め、問い詰めてきた。
「…………」
俺は言い訳を必死に考えながらも、特に思いつかず、視線を反らして冷や汗をかきながら無言で極度に焦った。
「言いなさい!!!」
ライムはものすごい形相で俺に怒鳴っている。
俺はふとエリーゼの記憶の一部を思い出し、ライムに話しかけた。
「お、王族は原則13歳から魔法を学ぶでしょ?でも私今16歳だし、それに最近までまともに魔法を学んでなくて、更生するためには魔法を学ぶのも必要かなぁって思ってさ…だから王城近くの森でこっそり練習してたの…その…王城内の魔法訓練場だと…騎士達に警戒されて…また投獄されそうだし…」
俺は王族の仕来り、過去の悪行と結びつけて、咄嗟に言い訳を始めた。
「あら…そうだったの…確かに魔法は覚えておくべきよね…でも森でこっそり…うーん…」
ライムは俺が1人でこっそり森で魔法の鍛錬をしてた事に戸惑いつつも、更生のため、王族の仕来りのため、叱る事に悩み始めていた。
「そうだわ!それなら私が魔法を教えてあげる!訓練場も私が使えるようにしておくわ!だからもう森で練習なんてしちゃだめよ?エリーゼに何かあったら心配だから…」
ライムは俺の身を案じつつも、魔法の鍛錬について協力してくれることになった。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
俺は少し焦りつつも、事態の悪化を防ぐ為に、ライムに笑顔で感謝をした。
「ふふっ…それなら早速練習しましょう?今はどの属性が使えるの?」
感謝を聞いたライムは俺の手を引っ張りながら歩き始めて、尋ねてきた。
「えっと…火、水、光…かな?一応風も使えるけど…」
俺は主要な3つに加えて、辻ヒール時に使った風魔法の事について思い出しながら話した。
「あら…4属性も適性があるのね…?私は光と風しか使えないわ…他の属性は教えられないのだけど…いいかしら?」
ライムは4属性の適性について不思議がるも、申し訳無さそうに俺に話しかけた。
「ううん!いいの!光魔法、特にヒールについて学びたかったの!お姉ちゃんありがとう!」
俺は光魔法を習得できる喜びから笑顔でライムに感謝を伝えた。
「ヒール…?そう…」
ライムはヒールという単語に少し警戒しつつも、魔法訓練場へと俺を連れて歩き続けていた。
ライムと俺は魔法訓練場に到着した。
ライムはおもむろに懐から短剣を取り出した。
「さぁ、ヒールをしなさい、これを繰り返してヒールを鍛えるのよ。」
ライムは自分の腕を短剣で傷をつくり、俺に話しかけてきた。
「お姉ちゃん…それだと何度も自分が傷つかない?それに痛みだってあるだろうし…」
俺は自己犠牲的な行動を取るライムに心を痛めつつ、尋ねた。
「あら?私に毒を盛った張本人が傷の心配?私の事は気にしなくていいのよ、あなたが成長出来るなら何度でも傷つくわ…悪事で傷つくよりマシだもの…」
ライムは皮肉を混ぜつつも、俺の成長のためだと、少し微笑んで話しかけた。
「そ、そう…でも無理はしないで…痛かったら辞めていいから…」
俺はそんなライムを心配して、涙目になった、そしてヒールを終えた。
「エリーゼ…これ…ホーリーヒールよね…?どこで学んだの?」
ライムはヒールを受けて、その魔力の強さの影響か、俺に尋ねてきた。
「えっ?いや普通のヒールでしょ?私はまだ光魔法を特訓し始めて1週間も経ってないよ?」
俺は中級魔法を使っているとは思わず、首を傾げながらライムに尋ねた。
ライムはその説明を聞いて驚きの表情をしつつも、ヒールについて語り始めた。
「えっとね、ヒールは基本的に擦り傷や軽い捻挫を治す程度なのよ?ホーリーヒールは軽めの切り傷〜深い切り傷、打撲や骨折を治せる程度なの、その他にもグランドヒールやメガヒールなんかもあるけど…とにかくこんな感じよ、そしてエリーゼが使ったのは間違いなくホーリーヒールよ、私の傷口は少し深めに切ったもの、それでヒールを5回くらい受けるつもりだったのよ。」
俺はその説明を聞いて思わずその場で考え込みだした。
「(ホーリーヒールだと?昨日最初に辻ヒールをおこなった時、何にやられたかは知らんがあの冒険者が深い傷を負っていた…あの時にかけたのがホーリーヒール…?)」
「…ゼ…?エリ……ゼ…?」
「(その他にも骨折している奴、ましてや腕が千切れていた奴もいた…まさかホーリーヒールだけじゃなくてグランドヒールも…)」
「エリーゼ!!」
俺は叫び声に気づいて思わずハッとした、そこへライムが話しかけてきた。
「エリーゼ、どうしたの?急に考え込んで…」
「お姉ちゃん…もしかして千切れた腕とか治すのはグランドヒールだよね?」
俺は昨日の辻ヒール遊びについての出来事を思い出しつつ、ライムに尋ねた。
「え?そうね…斬られた腕とかはグランドヒールなら確かに15分以内だと治せるわね…メガヒールなら1時間以内で治せるわ…どうして?」
ライムは俺の質問を受けて考え込みながら答えて、なぜそれを気にしているのか、再度俺に尋ね返してきた。
「いや…なんでもない…少し気になっただけ…」
俺は視線を反らして、少しだけ冷や汗をかいて言った。
「そう…?まぁいいわ、次は浄化魔法…っていきたいところだけど、もう遅いわ、また明日の朝から教えるわ、今日はもう戻りましょう?」
ライムは徐々に日の光が茜色から紺色へと変わり始めていたのを見て、俺の手を掴んで一緒に魔法訓練場を後にした。
王城に戻って、廊下を歩いていると、ライムは俺に話しかけてきた。
「そういえば…水と火も使えるのよね…?土と闇はどうなの?流石に全属性は使えないわよね…全属性持ちって確か記録上だと3人しかいないって書いてあったかしら…」
「土魔法はまだ試してない、闇魔法に関してはそもそも書架に資料が無かった。」
質問された俺は書架に闇魔法の資料が無いことを疑問に思いながらも、ライムへ淡々と答えた。
「闇魔法は使い手が少ないからね…まだ研究段階だから書架には置いてないのよ…」
ライムは闇魔法について俺に語って来た、そして俺の部屋に到着した。
「おやすみ!エリーゼ!」
ライムは微笑みながら俺に言ってきた。
「うん、おやすみ、お姉ちゃん」
俺は少しだけ微笑みながらライムに言って、自室へと入った。
「(今日は疲れたな…そう言えば辻ヒールと風魔法のステップバイン使ったせいで魔力をかなり使ってたんだな…魔力切れ起こさなくて良かった…)」
俺はベッドに飛び込んで仰向けになって考え出した。
「とりあえず今はもう寝るか…明日は浄化魔法の特訓か…闇魔法も気になるけど…今は光魔法が先だな…」
俺は闇魔法について気になりだしたが、それは後回しにして、眠ることにした。
翌朝、俺は顔を洗ったあと、朝食を済ませてから訓練場へと足をはこんだ。
「エリーゼ!今日は浄化魔法の訓練よ!」
何故かライムはかなり大きい木箱を3つ足元に備えていた。
「お姉ちゃん…これは?」
俺はライムに木箱の中身を尋ねた。
「これは毒よ、浄化魔法では毒と病気を治せるわ、あとアンデット系の魔物を倒すのにも使われるわね。」
ライムは木箱の中身の正体を答えつつ、浄化魔法について説明した。
「毒って…お姉ちゃん、一体何に使うの?」
俺は毒という単語を聞いて、眉間にしわを寄せてライムに尋ねた。
「何って…私が飲むのよ、それで魔法で浄化すれば浄化魔法が鍛えられるわ」
ライムは木箱から毒の瓶を取り出しながら話しかけてきた。
「飲むって…大丈夫なの?死んだりしない…?」
俺は毒を飲むというライムに心配しながら語りかけた。
「大丈夫よ、死にはしないわ、もし浄化に失敗しても、しばらくお花を摘む時間が長くなるだけよ…」
ライムは少しだけ顔を赤くして話した。
「いや何気に辛いやつ!だめじゃん!他に方法はないの?」
俺は少し焦ってライムに問いかけた。
「うーん…アンデットを倒す目的で浄化魔法を使えばある程度は鍛えられるけど…体内の毒を浄化するのと、アンデットを浄化するのとでは少しだけ応用が違うのよ、出来なくは無いけど、毒が残ったり、後遺症とかが残りやすいわ、だから私が毒を飲んでそれを浄化すれば感覚が掴めるはずよ。」
ライムは浄化魔法について詳しく説明した。
「だからって自分が実験台になること無いでしょ?他に毒を浄化する方法は無いの?」
俺は自己犠牲的なライムを心配して問いかけた。
「無い!つべこべ言わずにやる!」
ライムはそう言うと毒の瓶を開けて飲み始めた。
「ちょっ!?まったく…もう!ホーリーライト!」
俺の静止を聞かずに毒を飲むライムを見て俺は苛立ちながらも詠唱を叫んで浄化魔法をライムにかけた。
「うっ…!ぐっ…!」
毒を飲んだ影響からか、ライムが苦しみだした、それを見た俺は浄化魔法の威力を上げた。
しばらくすると、ライムが落ち着いたのか、話しかけてきた。
「ふぅ…意外とキツかったわね、配分間違えたかしら」
「はぁ!?配分間違えたって…!死ぬ気なの!?」
呑気に語るライムについ俺は怒鳴ってしまった。
「大丈夫よ、致死性は入っていないわ、配分間違えても1週間寝込むだけよ」
ライムはまたしても呑気にそう言った。
「だから!それは地味に辛いの!とにかくもう毒を飲むのは辞めること!」
俺はライムに向かって叱りつけた。
「あら、意外に過保護なのね…ふふっ、嬉しいわ」
ライムは何故か喜びながら言ってきた。
「過保護じゃないわー!毒を飲んだらそりゃみんなあの反応するでしょうが!それにお姉ちゃんは約2週間前に私に毒を盛られたのにトラウマとか無いわけ!?」
俺はエリーゼの記憶を思い出しながら、ライムにまたもや叱りつけた。
「もう…うるさいわね、これはエリーゼの成長の為だからいいの!」
ライムは拗ねながらそっぽ向いて言い放った。
「それはありがたいけど…でもやっぱり毒を飲むのは無し!それに心配になるから…あまり身体を張らないで…自分を大切にしてよ…」
俺は思わず目に涙を浮かべて声を震わせながら言い放った。
「ふふっ…やっぱりエリーゼは優しいのね…少し昔を思い出したわ…分かったわ、毒を飲むのは辞めるわ…次はアンデットの…」
ライムがそう言いかけた時、騎士が魔法訓練場へと駆け込んできた。
「ライム王女様ー!こちらにいらしたんですね!」
「あら、どうしたの?」
ライムは駆け込んできた騎士に目を丸くして話しかけた。
「どうしたの?じゃ、ありません!公務をほったらかして何をしてるんですか!戻りますよ!」
騎士は公務をほったらかしにしたライムに説教をした。
「はぁ!?公務をほったらかして私の魔法訓練に付き合ってたの!?何を考えてるのさ!」
俺は騎士の説明を聞いて思わず声を荒げた。
「あら!妹の成長を見守るのも姉としての公務です!せっかく可愛い妹が魔法を覚えようとしているのにほっとく姉がどこにいますか!」
ライムは俺の言葉を聞いて、得意げに両手を腰に当てて開き直った。
「はいはい、姉妹が仲良しなのはいい事ですが、こちらの公務もしてください!」
騎士はライムの襟首を掴んで引き摺るように魔法訓練場を後にした。
「あっ!エリーゼ!エリーゼ…!こら……!離しなさーい………!」
ライムは騎士に引き摺られたまま、叫んでいたが、その声は段々と遠くなっていた。
「さて…この後、どうしようかな…」
俺は引き摺られていくライムを見送った後、その場で立ち尽くして考えた。
「とりあえず…また冒険者ギルドに行ってみるか…」
俺は冒険者としての活動をするため、王城に戻り、変装道具である黒いローブと仮面を手に取り、王城近くの森で着替えてから街に出た。
「そういえば武器も必要だな…アリオン兄様から貰った金貨は後4枚あるし…買ってみるか…」
俺は街に出て歩いている時にふとそう思って、横目に映った武器に入っていった。
(ガチャ)
武器屋に入ると、店は少し古臭い感じだが、右の窓からは日差しが入っていて、店内はかなり明るかった。
窓のすぐ下に樽が3つほど置かれており、片手剣が乱雑に放り込まれている。
「いらっしゃい…」
武器屋の店主はドワーフだろうか?伸びきった顎髭を弄りながらぶっきぼうに挨拶を済ませてきた。
「とりあえず片手剣を探すか…」
俺はそう一言小さく呟いて店内の壁に飾られている、品質の良さそうな片手剣をしばらく眺めたあと、手に取って店主の方に持って行った。
「これを頼む、いくらだ?」
「銀貨5枚じゃ…」
店主はぶっきぼうにそう言い放った。
「今、金貨しか無いんだが…大丈夫か?」
俺は昨日の服屋の店主に怒鳴られた事を思い出しながら心配して答えた。
「何…?金貨じゃと?お主、貴族か…?」
店主は金貨を見た瞬間、目を丸くして俺のほうを見てきた。
「いや…貴族ではない、ただの冒険者だ。お釣りが用意出来ないならお釣りはいらない。」
俺がそう言うと店主は金貨をカウンターに置いて話しかけてきた。
「うむ…それなら金貨に見合った武器を持ってこよう、少し待ってれ」
店主はそう言うと店の奥へと消えていった、しばらくすると店主はかなり品質のいい片手剣を手に帰ってきた。
「これを持ってけ、少金貨60枚分の代物じゃ…それならお釣りが無くても充分じゃろう。流石に銀貨5枚に対して金貨を貰うわけにはいかん。」
店主は言うと、カウンターにその片手剣をそっと置いた。
「あ…すまない、1つ聞きたいんだが…俺は金貨をたまたま貰ったんだが…その…この世界…いやこの国の貨幣価値が分からないんだ、教えてくれないか?」
俺は転生してから魔法や剣術、体術の本ばかりを読みあさっていたせいで貨幣価値を調べるのを忘れていた、それにエリーゼの記憶にも全くそれらしき物が見つからなかった。そして俺は店主に貨幣価値の事について聞いた。
「ふむ…冒険者がこりゃまた珍しい…まぁいいじゃろ、まずこの国には銅貨、大銅貨、少銀貨、銀貨、大銀貨、少金貨、金貨がある。ほとんどは10枚あれば1つ上の貨幣が手に入るんじゃが、金貨だけは特別での、少金貨100枚無いと金貨にならんのじゃ、じゃからお釣りは出せないんじゃ。」
店主は貨幣価値について淡々と教えてくれた。
「なるほど…そうか、ありがとう。」
俺は店主にお礼を言って、カウンターの片手剣を手に取って店から出た。
「(だから昨日の服屋の店主はあんなに怒っていたのか…)」
俺は昨日の服屋の店主に怒鳴られた事を思い出しながら冒険者ギルドへと足をはこんだ、そして冒険者ギルドのドアを開けて中に入った。




