本編3話 冒険者
本編3話
部屋に戻った俺はベッドに座り込んで考え始めた。
「(悪役を脱却するためには色々と考えないとな…まずは信頼を取り戻すこと…アリオン兄様からの信頼は取り戻せた…のかな?まずは具体策を考えないとな…)」
俺はひとまず、情報収集と整理を行うため、書架に向かって中に入った。
いつもどおり、司書は俺に怯えて膝をつくが、軽く挨拶を交わして、足早に情報収集を開始した。
「(まずは体術や剣術の情報が必要だな、もしもの時のために手札は多いほうがいい…まずは冒険者を目指そう、この間読んだ本の中にこの世界には冒険者としての職業があるらしい…)」
俺は冒険者として生きる為に、体術と剣術の本を沢山読みあさった。
「(そういえば…魔法も鍛えないとな…何だかんだで魔法の練習忘れてたし、この世界には確か、火、水、風、土、光、闇の6つの属性があったな…本によると適正はあるらしいが全属性使えなくは無いらしい…ものすごく困難というだけで…とりあえずヒールや浄化は光属性だし覚えておくか…後は火と水さえあればサバイバルが出来る…まずは光を鍛えこむか…)」
俺は体術や剣術の本を読みこんだあと、魔法習得について考えた。
「(とりあえずは誰も見ていない所で習得する必要がある…火と水は隠れて出来るが、問題はヒールだ、ヒールは使わないと習得が困難…というか初級のヒールは獲得出来ても、中級のホーリーヒールや上級のハイヒールを習得するにはヒールを使いまくらなければ習得出来ないし…どうするか…)」
俺はヒールの習得に頭を悩ませていた、その時、前世の記憶がふと頭に思い浮かんだ。
「(そうだ!確かゲームでヒールだけして逃げる辻ヒール遊びがあったな!あれをすればヒールが身に付く!)」
俺は辻ヒールという解決策を見出して、早速冒険者としての修行を開始した、しかし俺はこの辻ヒールが王家を救うきっかけになろうとはこの時、知る由もなかった。
俺はこっそり王城から抜け出して、王城近くの森で魔法の練習を始めた。
数時間後…
「ふぅ、こんなもんか?魔力切れを起こすと動けなくなるからな…今日はここまでにするか…」
俺は火・水・光の修行を終えて王城へと戻った、自室に戻るために、歩いているとライムと遭遇した。
「あら…?エリーゼ、なんだか疲れてる顔してる…大丈夫かしら?」
ライムは勘が鋭いのか、心配そうな顔で俺に近づいて来た。
「だ、大丈夫だよ!さっき久しぶりにお庭で散歩したから疲れただけだよ!」
俺は慌てて言い訳を考えて即座に誤魔化した。
「そう…?それならいいんだけれど…何かあったら言うのよ?」
ライムは不安そうな顔で見つめて言ってきた。
「う、うん!何かあったら言うから!」
俺は慌ててその場を後にして自室へと急いで戻った。
「(エリーゼの魔力量が減ってる…?何を隠してるのかしら…)」
ライムは暗い表情をして、親指の爪を噛んで、自室へと戻るエリーゼの背中を見送った。
俺は自室へと戻って、ベッドに仰向けになって考えだした。
「(まずは冒険者として活動するためには変装する必要がある…書架で読んだときに魔石があれば変身道具が作れるらしい…とはいえ魔石の入手方法か…魔物を倒すか、お金で買うかの2つしか無いらしい…まずはお姉ちゃんに頼むのは…辞めておこう…嫌な予感がする…)」
俺はライムを少し警戒しながら考えた。
「(よし、黒いローブや仮面があれば辻ヒールを行っても問題は無いな…となると必要なのはお金か…父上に頼んで貰うか…?危ないが、少しだけ悪役を出してケーキ代として貰うか…?んー、辞めておこう…また投獄されるかもしれん…一旦アリオン兄様に相談してみるか…?)」
俺は考えた末に、アリオンに接触を試みろうと決意して、その日は眠った。
翌朝、俺は顔を洗い、朝食を済ませたあと、早速行動に移した。
俺はアリオンの部屋の前に来て扉をノックした。
(コンコン)
「ん?入れ!」
アリオンは自室に誰かが来るのが珍しいのか、少し戸惑いながら許可を出した。
「あ…アリオン兄様…頼みごとがあるんだけど…」
俺はぎこちない感じでアリオンに尋ねた。
「エリーゼか…珍しいな…それでなんだ?」
アリオンは少し警戒しながら俺に尋ねてきた。
「その…更生しようと思ってね、そのための第一歩として、人を助けるための慈善活動をしたいの、だからそのための資金を少し貸してほしい…」
俺は少しだけ怯えながらアリオンに頼み込んだ。
「ほう…なるほど…分かった、ちょっと待ってな。」
アリオンはその言葉を聞いて、あっさりと納得して、引き出しからお金を取り出した。
「ん、金貨5枚だ、これだけあれば足りるか?言っちゃ悪いがまだ信用しきれないから…その…これ以上は出せない…すまん…」
アリオンは目を逸らして目に涙を浮かべながら話した。
「ううん、これで充分!ありがとう!アリオン兄様!」
俺は笑顔でアリオンに感謝を伝えた。
「お、おおう…頑張れよ…」
アリオンは金貨5枚を手渡してきた、俺は再度アリオンに一礼してから部屋を出た。
そして俺は早速資金を手に、王城から抜け出して、街に出て服を買いにいく。
街に出たとき、街の人が俺を見た瞬間、怯えて震えながら、膝をつき始めた。
「エ、エリーゼ王女様…!?」「ご、ご無沙汰しております…」「き、今日もお美しい…め、女神様…」
俺はその空気に耐え切れないので、それを無視して足早に服屋へと向かった。
「…?今日のエリーゼ王女様…大人しいな…」
街の人達はとてつもない違和感を持って首を傾げていた。
俺は服屋に到着して中に入った。
「いらっしゃ…ひっ!?エ、エリーゼ王女様…!?ほ、本日はどのようなご用件で…!」
店主は俺を見た瞬間、街の人達と同様に怯えて震えながら膝をつき始めた。
「あ、他人の空似です、私はこう見えて一般市民、あのエリーゼ王女様に間違わられて大変ですよー、ほなさて、ローブでも見るでー」
俺は対応に面倒くさくなったので大嘘をついて、前世の感覚を思い出しながら、エセ関西弁で喋りだした。
「は、はぁ…ま、まぁそうか…あのエリーゼ王女様がこんな店に来ないよな…悪かったな!嬢ちゃん!ゆっくり見てってくれや!」
店主は警戒を解いて、気さくな感じで謝罪をはさみつつ話しかけた。
しばらくして、俺は少しだけ品質の良い、真っ黒なローブを見つけて試着した。
「これはいい…!よし!これにしよう!」
俺はローブを畳んで手に持って、冒険者のための動きやすい服装も選び、さらに店の隅に置かれていた不気味な仮面も手に取ってから店主のところへ持っていった。
「これ、買いま…買うで!」
俺はついエリーゼ口調が出てしまうのを抑えつつ、店主に話しかけた。
「ん、小銀貨2枚だ。」
店主はもたれ掛かっていた椅子から少しだけ身体を起こして答えた。
「今金貨しか無いから、お釣り頼むわ。」
俺はこの世界の金銭感覚が全く無いため、何気なく金貨を1枚出した。
店主はその金貨を見てひどく驚いて怒鳴りだす。
「金!?バカヤロー!!お釣りなんか出せるわけ無いだろ!!店を潰す気か!?」
俺はいきなり怒鳴られた事に戸惑ったが、金貨を無理やり押し付けた。
「…?まぁいいや、とりあえず払ったから、お釣りは要らないわ、じゃあな!」
「え?いやいやおい待て!」
店主は止めようとしてきたが、俺はそそくさと店を出ていった。
「たく…何なんだあのガキは…」
店主は呆れて金貨を眺めていた。
俺は買った物を持って足早に森の奥へと行き、着替え始めて、すぐに着替えを済ませた。
「よし…とりあえずこれで王女とはバレないな…まぁある意味で警戒されそうだが…仕方ない、魔石が手に入って正式な変身道具を作るまでは我慢だ…」
俺は黒いローブに黒い仮面という、明らか不審者の格好で冒険者ギルドに向かった。
街を歩いていると、街の人が噂をし始めた。
「魔術師…?」「いや錬金術師だろ…」「なんだろう…あの格好…」
俺はその噂を軽く無視して冒険者ギルドへと足早で向かい、到着して中に入った。
「あ、冒険者登録をしたいんだが…」
仮面の効果なのか、俺は低い男性の声で受付に尋ねた。
「えっと…冒険者登録ですね!職業は戦士ですか?魔道士ですか?それとも回復術士ですか?」
受付は俺の怪しい姿に一瞬驚いたが、珍しい感じでもないのか、すぐに表情を緩めて対応してきた。
「魔道士だ、一応回復も使える。」
「なるほど…それならメインは魔道士で登録しましょう!属性は何が使えますか?」
「火、水、光を主に使う、一応他のも練習中だが実践には不向きだ。」
「珍しいですね…3属性も…分かりました、名前はなんですか?」
「名前…名前か…」
俺はここで少し悩み始めたが、自分の名前を覚えていないとなるとかなり不自然なので、前世の名前を出した。
「トモカズ・サトウだ」
「トモカズ・サトウさん…サトウが姓ですよね?名はトモカズで合ってますか?」
「(あ、この世界にも一応、姓とか名とかの制度あるんだ…)」
俺は意外な事実に心の中で驚いたが、すぐに受付に話しかけた。
「そうだ、姓がサトウ、名はトモカズだ」
「はーい、ならサトウ・トモカズさんで登録しておきますね〜」
受付はそう言うと冒険者カードを取り出して魔導具で記入し始めて、記入が終わったので受付は冒険者カードを手渡して、制度について語り始めた。
「はーい、冒険者カードです、冒険者ランクの制度は基本A、B、C、D、E、Fの順番です、例外としてSとGがあります。関わることがあまり無いと思われますが、その説明も聞きますか?」
「あぁ、頼む。」
「まずはGランクですね、このランクは元FランクやEランク冒険者の方が怪我をした際に、復帰出来なくても最低限仕事が出来るように作られた制度になります、8割方は貧困層の方が利用してますけどね〜、それでSランクですが、Aランク冒険者での依頼達成率が500件の内98%達成、さらに王家に認められればSランクになれます、その承認はライム王女殿下様が行っております。ここまでで何か質問はありますか?」
俺はライムの名前を聞いた瞬間、一瞬背筋が凍ったが、再度受付に尋ねた。
「あぁ…EやDにランクアップするにはどうしたらいいんだ?」
「Eランク昇格にはFランクでの依頼達成率が30件の内、50%で昇格になります、DランクはEランクの依頼達成率が60件の内70%で昇格になります。CやBの昇格についてのお話も聞きますか?」
「いや、まずはそれでいい…ありがとう。」
俺は一通り説明を聞いて、Fランクの依頼を探し始めた。
掲示板を見ていると、薬草採取の依頼を見つけたのでそれを手に受付に行って、手続きをして、ギルドから出た。
採取場所に来た俺はさっさと薬草を見つけて採取した。
「(さてと…次はヒール対象だが…こんなところにいるわけ無いよな…ゴブリンの生息地に行ってみるか…)」
俺はゴブリンの生息地に向けて歩き出す、しばらく歩いていると、森の奥でざわめきが聞こえた。
「おい!大丈夫か!クソ!こんな時にポーションを切らした!」
介抱している冒険者は負傷している仲間を木によりかけて話しかけていた。
「大丈夫…ぐは…俺を置いて先に行け…」
「そんな事できるわけ無いだろ!クソ…!クソ…!どうしたら…!」
木に寄りかかっている冒険者はところどころ傷がひどく、特にお腹部分には深い切り口が目立っていた。
俺は負傷している冒険者を見つけたのを心の中で歓喜してしまった。
「(しめた!これなら辻ヒールができる!やはりここにきて正解だな…!)」
俺は冒険者達の前に飛び出して行った。
(ガサガサ!)
「っ!?何者だ!仲間に近づくな!盗賊か!?」
介抱している冒険者は俺の容姿から怪しい者と決めつけて、臨戦態勢に入って剣を向けた。
「ヒール!」
俺は詠唱を叫んでヒールをかけた。
「なっ!?」
介抱している冒険者は光魔法を使う俺に思わず目を丸くして驚いている。
「ん…傷が…!おおっ!痛みが引いていく!」
負傷していた冒険者は治っていく傷を見ながら驚いて言った。
「なにっ!?大丈夫なのか!?」
介抱している冒険者は剣を投げ捨てて仲間に駆け寄った。
「(シメシメ、これでよいよい!)」
俺は治ったのを確認した後、素早く走り出した。
「あっ!待って!って早っ…なんだ…?あいつ…」
介抱していた冒険者は困惑しながら、走り去っていく智和の背中を見ていることしか出来なかった。
その後、俺は各地の生息地に赴いて、負傷している人がいればヒールをかけて走り去っていくのを繰り返していた。
しばらくしたあと、俺は森から抜け出していた。
「(とりあえずこんなもんか…魔力切れも起きそうだしな…一応風魔法で移動速度もあげてるし…)」
俺は光魔法だけでなく、風魔法も使った。
そして俺は薬草を持って冒険者ギルドへと帰った。
俺は冒険者ギルドに到着して、早速受付の方へと向かって行った。
「薬草だ…少し多めに取ってきたんだが…大丈夫か?」
俺は依頼数よりも多く取って来てしまったことに、罰則が無いか不安に思いながら受付に尋ねた。
「ええ!もちろん大丈夫よ!逆に助かるわ!最近薬草を取って来てくれる冒険者が少ないのよ…みんな早急に回復術士を雇ってしまって依頼に行ってしまうから…」
受付は少し困ったように愚痴をこぼした。
受付の話を聞いた俺は顎に手を当てて、考え込みだした。
「(だからさっきの奴はポーションが切れてたのか…そう言えば何回か辻ヒールをおこなっていたらポーション切れやら魔力切れを起こしているやつがいたな…それもこれも薬草採取をしないから…)」
俺は先程何度かあった不可解な現象に、受付の愚痴を聞いて納得し始めた。
「とりあえず今の俺は薬草採取をメインにしていく…冒険者としての経験が足りなすぎるからな…」
俺は冷静に状況を分析して発言した。
「…!貴方みたいな慎重派が増えればいいんですけどね…まぁ、冒険者は若いうちだけですから…みんな夢を追いたくなるんでしょうけど…」
受付は俺の慎重な態度に感心して、再度愚痴をこぼした。
「はい!薬草採取の大銅貨2枚!」
受付は笑顔で報酬を手渡してきたが、俺は首を傾げて尋ねた。
「多くないか?掲示板に書いてあったのは薬草1つにつき銅貨1枚…依頼書には5つと書いてあったから銅貨5枚、余分に取ってきた3つを合わせると銅貨8枚だろ?」
受付はその言葉を聞いて驚いた顔をしたがすぐに微笑みの表情を浮かべながら言った。
「あなたはどこまでも誠実な人なのね…いいのよ、最近は薬草を取ってきた人には報酬を余分に出せってギルドマスターから言われてるから。」
「そうか、それならありがたく頂こう。」
俺はその説明を聞いて、大銅貨2枚をポケットに入れてギルドから出て、しばらく歩き、王城近くの森でドレスに着替えてから王城へと戻って行った。




