本編2話 改心
本編2話
地下牢から出た俺はひとまず自室に戻った。
(ガチャ)
俺は自室のドアを開けてベッドに向かう。
「エ、エリーゼ王女様…お戻りになったのですね…」
侍女はひどく怯えながら俺に話しかけてきた。
「んー、久しぶりのベッドね…フカフカだわ…いつもありがとうねー、リン」
俺は早速ベッドにごろ寝しながら、侍女の名前を呼んで感謝を伝える。
「またお礼…」
侍女は困惑して、警戒しながら部屋から出て行った。
数時間後…
俺はベッドで仰向けになりながら天井を見上げていた、そこへ侍女が入ってきた。
「エリーゼ王女様…?お夕飯のご準備が出来ました…ここに置いて置きますね…」
いつもどおり侍女はひどく怯えながら夕食をテーブルの上に置いた、その時、俺は侍女に話しかけた。
「ねぇ、リン、私もみんなと一緒にお夕食を食堂で食べられるかしら?」
「えっ?い、今すぐ手配いたします…」
侍女は怯えながら部屋を出て、数分後に俺を呼びに来ていた。
食堂の前に到着した俺は静かに食堂のドアを開けて中に入った。
(ガチャ…)
俺が入った瞬間、場の空気が一瞬で凍りつく、父上の顔は険しくなり、また兄上達も同様だったが、母上とライムだけは違った。
「あら…珍しいわね…」
母上は俺...いや外見上はエリーゼか...そのエリーゼが入ってくるのが珍しいのか驚いた顔で見てきた。
「ふふっ!エリーゼ!来てくれたのね!おいで!」
ライムは完全に歓迎ムードで手招きをしながら俺に話しかけてくる。
そして席に座った俺だが、そこにいた実の兄、第二王子アリオンが睨んできた、見た目は青髪のツーブロック、イケメンである、俺も前世でアリオンみたいなイケメンに産まれたかったぜ…そう思っているとアリオンが口を開く。
「チッ…貴様、何しに来た?また毒でも盛りに来たのか?お前の席は無い、出てけ」
そして実の兄である、第一王子アルカスもものすごい形相で睨んでくる、見た目はウルフヘアというところか、綺麗な青髪が目立つ、そしてアルカスも同様に口を開いて言ってきた。
「その通りだ、お前はここにいるべきじゃない、場を弁えろ、さっさと出ていけ。」
その言葉を聞いた俺はエリーゼの記憶を思い出してしまったのか、ショックを受けて無意識に顔をうつむかせた。
その時にライムは我慢ならなかったのか、王子達に怒号を浴びせ始めた。
「ひどいじゃない!!せっかくエリーゼが心を入れ替えて更生しようとしてるのに!!そもそもエリーゼが悪行に手を出し始めたのは私ばかり褒め称えて、エリーゼを貶したからでしょ!?それなのにまたエリーゼを傷つけて…!」
その時、俺はすぐに止めに入った。
「お姉ちゃん、いいの、最初から受け入れてもらえるとは思っていないし、そもそも私が悪行を働いてお姉ちゃんを傷つけたのが悪かったの、環境がどうであれ、最初に悪事を働いた私が悪い、それに1週間前に毒を盛った人物がいきなり「更生しました」「ハイそうですか」で済むわけないもの、怒って当然よ、しばらくは自室で食べるわ、不快にさせたこと大変に申し訳無いと思っております、それでは失礼いたします。」
俺は事態の悪化を防ぐため、冷静にエリーゼの過去の悪行について分析して、反省しながら語り、食堂を出た。
食事をしていた父上、兄達、母上はその言葉を聞いてその手を止めて驚いた顔のまま部屋を出ていく俺を見送った。
ライムは非常に不安そうな顔で俺の背中を見ていた。
そしてアルカスは食事を放棄して考え込み出した。
ライムは意を決して食堂から出ようとする。
「…どこに行く?今は食事の時間だ。」
父上はライムに対して冷たく言い放った。
「エリーゼのとこよ!せっかく心を開いたんだから今行かなきゃ取り返しがつかなくなる!」
ライムは非常に焦りながら叫びながら言った。
「…好きにしろ」
父上は再度冷たく言い放ってライムを見送った。
ライムは素早く食堂から出てエリーゼの部屋へと駆け出して行った。
その時、アリオンがなぜか目頭を熱くして泣きそうになっている。
ライムはエリーゼの部屋に到着した途端、勢い良く扉を開けた。
(バン!!!!!)
「エリーゼッ!!」
ライムは悲鳴混じりの声で叫んできた。
「どうしたの?」
俺は水を飲みながら呑気に話しかけた。
「どうしたの?って!さっきあんなに傷つけられたのになんでそんな悠長にしてるの!」
ライムは呑気に水を飲んでいる俺に怒鳴りつけるように言ってきた。
「なんでって…あそこで争っても意味無いでしょ、それにお姉ちゃんの立場まで危うくなるよ?お姉ちゃんは優秀な王族なんだからあそこでアルカス兄様達に怒鳴っても…」
俺は冷静にライムを落ち着かせようと話しかけたが、ライムはそれに割って入ってきた。
「そんな事どうでもいいわ!それよりもあなたのほうが大事よ!せっかく…せっかく反省して頑張ろうとしてるのに…!」
ライムは今までの感情が溢れ出てしまったのか、その場で泣き崩れてしまった。
「落ち着いて?私はまだ諦めてないよ、それに認められなかったとしても、私にはお姉ちゃんがついてる、だからね、しばらくは迷惑をかけたり負担を掛けちゃうけど、なるべく協力してほしい…」
俺は再度ライムを落ち着かせるために話しかけた。
ライムはその言葉を聞いて涙を拭って言ってきた。
「協力するよ!負担や迷惑なんて全然かけて!それを支えるのが家族、姉として当然よ!たとえアルカス達に批判されても、悪事を働くエリーゼより何倍もマシだわ!」
ライムは覚悟を決めた顔をして、俺の手を握って、協力すると言ってくれた。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
俺は思わず笑顔でライムに感謝を伝えた。
「ふふっ、いいのよ?もっと頼ってね?今日は2人で一緒に食べましょ?嬉しい…久しぶりにエリーゼと食べれるなんて…夢見たい…」
ライムは顔を赤くして俺にそう言って、近くにいた侍女に食堂に置いてきた自分の食器を取りに行かせて、俺の部屋で一緒に食べ始めた。
一方その頃食堂では重い空気が流れ続けていた、その時、アリオンが口を開く。
「なぁ、エリーゼが精神的異常を起こしてると思うか?それにしては知的すぎるし、理性的すぎる、本当に更生しようとしてるんじゃないか?」
アリオンは今まで、エリーゼへの対応からの罪悪感、ライムからの叱責、エリーゼの冷静すぎる、客観的分析力を見て、わずかながらにも希望的観測を持ち始めた。
「しかし…それが巧妙な作戦だったら…もしも王家を乗っ取るための緻密な作戦に切り替えたとしたら…」
アルカスはエリーゼの今までの対応への罪悪感やライムからの叱責、エリーゼの冷静すぎる客観的分析力を目撃しても尚、警戒心は揺るがなかった。
そこへ思いもがけない人物が助け舟を出してきた。
「いや…あの目は本物だ…エリーゼは本当に変わろうとしている、本気で王家を乗っ取るつもりならずっと前からしてるはずだ、ライムへの毒殺未遂の後に行うにしては不自然すぎる、あれだけの客観的分析や冷静さを保ててるならずっと前から態度を改めてもおかしくはないはずだ、何があったのかは知らんが、とにかく今は様子見をしてみよう…それと…エリーゼへの対応も見直そう。」
国王は冷静に分析して、王子達に説得した、そして何故か王妃は悲しそうな顔をしながらも、少しだけ微笑んでいる。
一向その頃ライムとエリーゼはご飯を食べ終えていたが、ライムが中々エリーゼの部屋から出ようとせずに数時間が経過していた。
「お、お姉ちゃん…?ここ私の部屋なんだけど…」
俺は優しく声を掛けてライムを部屋から追い出そうとした。
「ふふっ…いいじゃない、こうして一緒にくっついてお話するの何年ぶりかしら…ずっと寂しかったんだから…」
ライムは暗い表情を浮かべながらも、笑顔で俺を強く抱きしめていた。
「(まずいな…お姉ちゃんから逃れないと行動出来ない…とはいえ無理に剥がすと絶対に怒るよな…これはヤンデレ…暴走しかねない…大人しくするべきだな…)」
俺は前世で読んでいたヤンデレラノベを思い出しながら、そっとライムの頭を撫でた。
しばらくすると、俺の部屋の扉が開かれて、アリオンが入ってきた。
ライムはアリオンの姿を見た途端、血相を変えて怒号を浴びせ始めた。
「何しに来たの!帰って!」
ライムのその顔は殺気しか無かった、そしてライムは俺を強く抱きしめて守ろうとしている。
「あ…いや、そのエリーゼに話をだな…」
アリオンは困惑しながらも説明しようとしたが、ライムはさらに怒鳴り始めた。
「いいから出てってよ!またエリーゼを傷つける気!?早く出てかないと地下牢に送るわよ!?」
それを聞いたアリオンは素早く俺の部屋から出て行った。
「ふふっ…もう大丈夫よ?エリーゼを傷つけるものはすべて排除するから…」
ライムは満面な笑みで俺を抱きしめながら言った。
「お姉ちゃん…大好き!」
俺はライムを落ち着かせるために笑顔で言った。
「えへへ…嬉しい…私もエリーゼを愛しているわ…」
ライムはさらに笑顔になって答えた。
数時間後、ライムの心が満たされたのか、俺の部屋を後にした。
「さて…そろそろ公務に戻るわね…何かあったらすぐに私のとこに来るのよ?ふふっ…愛してるわ…」
ライムは笑顔でそう言って公務に戻って行った。
「(何とかなったな…さて、この後はどうするか…まずはこの世界の知識を得るか…エリーゼさんの記憶があるとはいえ、ずっと悪役令嬢だったからな…まともな知識がない…確か部屋を出たすぐそばに書架があったよな…行ってみるか…それよりもひとまず寝るか...もう遅い...)」
俺は辺りが暗くなっているのを確認して、寝る事にした、書架での情報収集は明日することに決めた。
翌朝、目覚めた俺は顔を洗って少し急いで朝食を食べて書架に向かって、中に入った。
(ガチャ)
「ライム王女…ひっ!?エ、エリーゼ王女様!?ほ、本日はど、どのようなご用件でしょうか…?」
司書は一瞬、俺の事をライムだと見間違えて、話しかけたが、すぐに間違いに気づいて慌てて膝をつき始めた。
「ん…ちょっと気晴らしにね…しばらくここに滞在してもいいかしら?」
俺は司書のその様子に対応するのが面倒くさくなったので、軽く無視して司書に挨拶をして、許可を求めた。
「ど、どどど、どうぞ!お好きに!いつでも来ていいですからー!」
司書はエリーゼが更生したという噂を耳にはしていたが、やはり長年のトラウマからか、怯えながら答えた。
俺は軽く会釈をして、手頃な本を探し始めたが、ここで俺は絶望する。
「(えっ…この世界の文字が…読めない…)」
俺は本の表紙を見た瞬間に青ざめる。
「(まずい…読めないとなると情報収集が出来ない…そう言えばエリーゼさんの記憶によると長年悪行ばかりしていて、本なんてまともに読んでなかったな…その影響か…?文字を忘れているのか…クソ!どうするべきだ…)」
俺はひどく焦って、冷や汗をかきながら考え込んだ。
「(今更父上に文字を教えてと言うわけにもいかないし…司書はビビリ倒しているし…侍女も…というかこの世界の識字率は一体どのくらいなんだ…?侍女が文字を書けるとも限らんし…クソ…やはりお姉ちゃんに教えてもらうしか無いのか…?)」
俺はライムに助けを求める事を最終手段として、取り敢えず絵本など、軽めの物を探し回った。
探している時、俺はとんでもないものを発見した。
本の側面に、日本語でこう書かれていた…
『世界の言語集』
「(世界の言語集…!?なぜ日本語の本がここに…!?いや、そんな事よりもまずは文字を覚えないと…理由はどうであれ運が良い…!)」
俺は思うところがあったが、ひとまずは情報収集が先だと思って、迷わずにその本を開いた。
その瞬間、本から眩い光が発せられて、俺の視界を奪う。
「(うっ!まぶし…!クソ!罠か!?)」
俺は視界を奪われた事によって一時的に警戒モードに入ったが、しばらくすると、視力が段々と戻ってきた。
「(何なんだ一体…)」
そう思った俺は先程の本を広い上げたが、本の表紙や、側面、中身の文字がすべて消えて、白紙になっていた。
「(クソ…唯一の手掛かりが…全く悪趣味だぜほんと…)」
俺は苛立ちから、その本を雑に後ろに放り投げた、そしてふと他の本の側面が目に入った途端、俺は驚いた。
「(えっ?読める…読めるぞ…?)」
俺は他の本に書かれている言葉が瞬時に理解出来た。
「(あの本は…開くとこの世界の言語が瞬時に理解出来るのか…?もしかして過去にも転生者が居てここに置いていったのか…?まぁいい…読めるようになったのはかなりありがたい、よし、情報収集をしよう。)」
俺はなぜあの本がここにあったのか一瞬考えたが、それよりも情報収集を優先して、別の本を探し始めた。
そして俺はまたもや気になる本を見つけた、そこにはポップな感じでこの世界の言語でこう書かれていた。
『ポルルでもわかる!魔法入門書編!』
「(ポルル…?地球で言う『猿でもわかる!』みたいなものか…)」
俺は前世の知識を思い出しながらその本を手に取った、そして本を読んでいくとイラストもあってか、非常に読みやすく、どんどんと読み込んでいった。
「(これは…分かりやすすぎる!まるで小さい頃にゲームの説明書を見ているような…そんな感覚だ!なるほど…魔法はこう使うのか…後で試してみよう!)」
俺はテンションをあげながらその本を手に、書架からで出た。
「(まさか一気に進展するとは…!これで悪役令嬢も脱せられる!1歩前進!いや!2歩前進だな!)」
俺はウキウキでそう思った瞬間、後ろから声をかけられた。
「エ、エリーゼ…」
声の主はアリオンだった。
「アリオン兄様…どうしたの?」
俺はテンションがあがっている事を隠せず、少しだけ微笑んでアリオンに尋ねた。
「あ…いや…その…今まですまなかった…俺達はエリーゼに愛情を注げられなかった…それどころか完璧なライムを引き合いに出していつもエリーゼを貶してしまった…王族である前に、家族としてエリーゼを見ておくべきだった…本当にすまない!今更謝っても遅いと思うが…俺はもう一度エリーゼとやり直したい!」
アリオンは深々と頭を下げて誠意を込めて謝罪をしてきた。
「いいよ、もう…許すよ?だから頭を上げて?それに私も愛情表現が下手だった…素直に甘えたり、素直に言うべきだった…悪事を働いて注目されたかったの…だからお姉ちゃんを標的にいつも悪いことしちゃった…こちらこそごめんなさい!」
俺はアリオンからの謝罪を受けて、エリーゼの記憶を辿りに、過去の悪行について思い出しながら謝罪をした。
「エリーゼ…ありが…」
アリオンがお礼を言いかけたとき、殺気混じりの声で怒号が飛んできた。
「アリオン!!!!!!!」
声の主はライムだった、ライムは腰に差していた剣を抜いてアリオンに歩み寄る。
「もう!お姉ちゃん!今はいいとこなんだから邪魔しないでよ!」
俺はせっかく仲直り出来そうだったのに、邪魔されたことに苛立って、反射的にライムに怒鳴りつけていた。
「いいところって…またエリーゼを傷つけるつもりだったんでしょ!」
ライムは殺気全開にしてアリオンに近づこうとした。
アリオンはその場で落ち込んでいる。
「違うから!アリオン兄様はさっき謝罪してくれたの!傷つけるなんてしてないから!それにお姉ちゃんはさっきも部屋でアリオン兄様を怒鳴りつけたでしょ!そっちこそ状況を見ずに早とちりして怒鳴りつけるの辞めなさいよ!」
俺は過保護すぎるライムに我慢できずに説教をし始めてしまった。
「で、でも…またエリーゼが傷ついたら…せっかく更生しようとしてるのに…」
ライムはとても不安そうな顔で怯えながら言ってきた。
「私を思う気持ちは分かるけど!そもそも警戒して当然でしょ!?しかも私が更生したふりをする巧妙な作戦だったらどうするのよ!お姉ちゃんはもっと危機感を持って!大体お姉ちゃんはいつも…!」
俺はライムに全力で説教をし始めた、ライムは俺からの説教を大人しく聞いているしか無かった。
その様子を見ていたアリオンは思わず吹き出してしまったようだ。
「笑い事じゃなーい!アリオン兄様はなんで笑ってるの!さっき殺されかけたのよ!?」
俺は吹き出したアリオンに反射的に怒鳴りつけていた。
「いやwすまないw、立場が…ププ…いつもと逆転しててな…フハハ!!」
アリオンは我慢できなくなり、その場に崩れ落ちて笑いだした。
「全く…呑気なやつ…平和ボケしすぎよ!」
その時、俺はエリーゼの記憶を脳裏に思い浮かべて顔を赤面して反射的にツンデレっぽく言ってしまった。
「とにかく!お姉ちゃんはすぐに怒らないこと!私はどんな事があってもお姉ちゃんを頼るし諦めないからね!わかった!?」
俺は再度ライムを叱りつけて釘を刺した、アリオンは笑い転げている。
「わ、わかったわ…ごめんね…エリーゼ…」
ライムは落ちこんだ顔をしながら俺に謝罪をしてきた。
「とりあえず…もう部屋に戻るから…お姉ちゃんはアリオン兄様にちゃんと謝罪してね…」
俺は顔を赤くしてそう言って、自室に戻り始めた。
ライムはアリオンに軽く謝罪したが、アリオンはまだ笑いを堪えきれない状態で、謝罪を受け入れて、またもやその場で笑い転げている。




