かつて悪役令嬢だった私は学校の王子様と別れたい
たまには逆な転生パターンも、と思って書いてみました。短いです。
私はその日、長い夢を見た。
私は公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者で。
でもある日平民の女の子が聖女として覚醒して、私はその子を虐げたと冤罪をかけられ婚約破棄され、更には修道院に送られる事となった。でもその途中で事故に見せかけ殺されてしまった。
私は最期に思った。私が何をしたと言うのだろうか。私は王太子殿下をお慕いしていたけれど、国の為にと婚約破棄も受け入れた。冤罪も下手に何処かに嫁がせられるよりかは修道院で殿下を一生想って暮らしたいと敢えて否定しなかった。
もし来世があるのなら、私は平凡な女の子になりたい。恋なんかしなくていい。一生独りで生きていけるくらい強い女性になりたい。いっそ男性に生まれたい。
そうだ、私はそう思っていた。
なのになんで、学校の王子様と呼ばれる人と恋人同士になんてなっているのだろうか。
朝目覚めた私は、もう彼と、春原秀二くんと別れる事しか考えていなかった。
あんなに大好きだった彼。でも分かるのだ。彼は、ハルマール王太子殿下だ、と。
嫌だ、絶対嫌だ。きっと彼は幸せに暮らしたのだろう、聖女と共に。私だけだ、惨めに独りで死んだのは。
きっと前世の私はいわゆる悪役令嬢だったのだろう。だから、私はもう、悪役令嬢にはならない!!
学校に着くと校門で秀二くんが待っていた。私を見るとにっこり笑う。私はそんな彼の前を素通りした。早歩きで校舎に急ぐ。
「香澄!」
彼は走って私を追いかけて来た。私の腕を掴むとどうかしたの?と心配そうに聞いて来る。
「もう、別れたいの」
それに周りがザワッと騒いだのが分かった。秀二くんは目を見開いている。でもそれは一瞬で、彼は笑った。
「絶対嫌だ」
目は、笑っていなかった。壮絶に怒っている。こんな顔は前世で一度見たきりだ。
「絶対別れる」
「死んでもごめんだ」
まさかそこまで言われると思っていなかった私は驚いてしまった。
「別れるって言うなら俺を殺してよ」
「嫌よ。私に殺人犯になれって言うの」
「じゃあ別れない」
「強情!!」
「香澄程じゃないと思うけど。いきなりどうしたの?」
「……言いたくない」
「理由も聞けないで俺に別れろって言うの?随分と残酷だね」
「残酷だったのは貴方の方じゃない!!」
咄嗟に出た言葉にハッと口元を手で覆う。でも言った言葉は返らない。秀二くんはなるほど、と呟いた。
そしてとても小さな声で私の耳元で囁いた。
「ようやく君も思い出したんだねリリアンナ」
リリアンナは前世の私の名前だ。スッと秀二くんが私の手を取ると小指の根本を指で摩った。そこを見ると昨日までには無かった赤い糸の様な跡がぐるりと指の付け根を回っていた。
「こっち」
秀二くんが私の手を握って歩き出す。
「え、授業…」
「君は昔から真面目過ぎるよ。私より大事なことなんて無いくせに」
そうよ、私、貴方より大事なものなんて無かったわ。だから、婚約破棄して欲しいと言われても納得したのに。何で、今、こうして私の傍に居るの?
「気付かなかったかな、君は、最期まで。私にだって君より大事なことなんて無かったんだよ」
涙が溢れた。嘘だ、なら何故私は独り殺されたの?
「説明させて。最初から最期と今になるまでのこと」
私達は人目を忍ぶように河原までやって来た。
「…本当に貴方にも記憶があるの?」
「俺はこの世界に生まれた時から記憶があるよ。そう言う秘術を前世で使ったからね」
じゃあ彼は私を殺した記憶がある状態でこの世界で私に告白して来たってこと!?
「私を馬鹿にしているの!?それともまた私を殺したいの!?」
「どちらも違う。俺は君を馬鹿にしたことなんて無いし、私はリリアンナを殺していない」
「私は修道院に行く途中で賊に殺されたわ!最期まで独りぼっちだったの!貴方は幸せに暮らしたでしょうけれど、私は、最期まで!」
「違う!!」
いつも温厚な彼が、冷静であったあの方が必死になって否定しようと私に縋りついた。
「私はあの後直ぐに君の後を追った。だから今此処に居られる」
「後を、追った?」
「君は本当は隣国に向かっていたはずだった。私は君を追いかけていた。王太子の身分を捨て、君と隣国で密やかに暮らすつもりでいた。でも…追いついた君は既に事切れていた!」
嗚咽をもらして彼は訴えてくる。嘘をついているようには見えなかった。
「あの聖女の身をした悪魔が君を殺した。許せなかった。そうまでして手に入れたかっただろう私を一欠片だってくれてやる気は無かった」
だから王家に伝わる秘術を使ったんだ、と彼は私の指と自分の指を絡めてそう言った。よく見ると彼の小指の根本にも赤い糸の様な跡がある。
「来世でリリアンナ、君にまた出逢えるように。そして君が私のリリアンナだと分かるように。代償は私の命と身体だ。だから私の身は一欠片もあの女には残らなかっただろう」
ザマァみろと彼は何処か狂ったように笑った。私がぎゅっと指に力をこめると彼は幸せそうに微笑んだ。
「俺にはね、この指と君の指を繋ぐ赤い糸が見える。高校の入学式、君を見つけた時俺がどれほど嬉しかったか香澄には分からないかな」
入学式の日、私と目が合った時の彼を思い出す。何処か泣き出しそうで、でも凄く嬉しそうで、私に笑いかけた秀二を。
「ハルマール殿下」
「うん」
「春原秀二くん」
「なぁに俺の香澄」
「ごめんなさい」
私は秀二くんに抱き付いた。もう二度と離れないようにと強く。秀二くんも私の肩に顎を置いてぎゅうっと強く私を抱き締めた。
「もう別れるなんて言わないでね」
「言わない」
「一生言わないでね」
「今度こそ、お嫁さんになれるかな…?」
「するよ。今度こそ。俺のお嫁さんに」
悪役令嬢だった私は、普通の女の子に生まれ変わって、今度こそ、幸せになるんだ。
その後二人は幸せに暮らしましたとさ、になるまでが長かった悪役令嬢のお話でした。
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