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旅の途中

 宿泊先に着いたのは午後4時だった。天気も良く順調な道のりで、途中休憩はしたものの予定より早くに着いた為、ここまで乗せて来てくれた御者に契約額より少し多めにお金を渡すと良い情報をくれた。

 夕食は宿泊先で摂らず、近くにある公園の前のお店で買って食べるのがおすすめらしい。その店は地元の人気店で、小麦粉と卵と水を混ぜた生地を薄く焼き、それに肉や野菜を巻いたものを売っていて、持ち帰り専門店とのこと。

 野菜や肉、ソースは自分好みで選ぶことができ、バリエーションが多いので飽きが来ない上、中身を果物にすることができるらしく、そちらも美味しいと人気だから、デザートにする為に二種類買うことを勧められた。

 リオナは感謝を伝えるとトランクを持って宿泊先の扉をくぐった。

 

「こちらへどうぞ」

 丁寧な応対で案内された部屋は邸のリオナの部屋程の広さだった。

「ご入浴の際は、近くにおりますメイドにお伝えください。浴槽には湯もはれますのでおっしゃってくださいませ。ではごゆっくりお寛ぎください」

 店員が去って行くとリオナはトランクを置いた。

 家令が宿泊先は自分が手配すると言っていたが、かなり気を使ってくれたのか、豪奢な作りの宿泊施設だった。ふかふかのソファーに天蓋付きのベッド。机に置かれた透明な瓶には飴玉が入っている上、花が生けられており甘い香りが漂っている。それにベルを鳴らせば誰かが来てくれるのだろう。

 部屋の中にある扉を開けると一つは広い浴室だった。確かに大きな浴槽があり、ゆっくり旅の疲れが取れそうだ。

 リオナはここで休んでしまっては寝てしまうと思い鞄を持つと部屋を後にした。

 まず向かったのは銀行だ。持っていたお金のほとんどは御者に渡したのだ。もし出立の時に義母たちが来たら、鞄の中身を調べられる可能性があることを危惧したのだ。大金を持っていれば何かと言い訳をして持って行ってしまうのが容易に想像できたからだが、まあ実際は来なかったので余計な心配だった。しかしそれくらしかねないのが義母たちなのだ。

 銀行で当面必要な額を下ろすと次は宝飾店に向かった。控えめな髪飾りとブレスレットなどを数点購入し、最後に御者に教えてもらった店へと向う。

 近づくと食欲をそそる良い香りが漂ってくる。数人が列についており、リオナもその列に並んだ。側の公園には人々が各々ベンチに座ったり散歩をしたりと利用しているようだ。

 リオナが勧められた店の隣はパン屋のようだ。明日の朝食用に買っていくのも良いかもしれない。そうすれば早めに出ることができる。

 グランバール辺境伯の邸に着くのは午後となっている。早くに着けばゆっくり服を選べると算段したリオナは、明日乗る予定の貸し馬車屋にも寄ろうと考えた。

 リオナの番になり、ガラスケースの中の具材を見ると、本当にたくさんの種類がある。とりあえず一つ目はこんがり焼いた鶏肉を切ってあるものと玉ねぎのスライス、香味野菜を少し加えて更にパセリを入れてもらう。そこにバターの香りがする亜麻色のソースをかけてもらった。

 もう一つは色とりどりのベリーを入れてもらい、蜂蜜をかけてもらう。それぞれ袋に入れてもらうと次は隣のパン屋。

 バゲットにチーズが挟んであるものを選ぶと、店員がもう夕方だからと言って、一つおまけにくれた。パンの中に苺のジャムが入っているそうで、こちらも美味しそうだ。

 その後貸し馬車屋で予定より早めの出立を頼むとすんなり通ったので助かった。前払いとして少し渡したのも良かったのだろう。

 リオナは宿泊施設に戻ると受付でお茶を頼んでから部屋へ戻り、お茶を飲んでいる間に湯を張ってもらう。こんな贅沢はもう何年もしたことがない。

 リオナは入れ替わりやってくる3人のメイドに駄賃を渡すと一冊の本を取り出した。グランバール領について書かれているもので、この2週間に3度読んだ。やはり辺境を守護する領としての役目が一番多いが、養蚕が盛んなのも大きい。領としての収入源の三割を占めている。その他にも農産物はあるが、育てているものは多岐にわたる。更に一部が高原地帯なのもあって酪農も盛んだ。

 辺境を守護する為の費用を国から渡されている分を合わせると相当な収入があるだろう。リオナは美しい絹布を想像し楽しみになって来た。

 ルリバーラに似合いそうな布があれ買ってば送るのも良いかもしれない。自分で稼いだお金で買うのなら誰も文句を言わないのだから。

 久しぶりにゆっくり湯に浸かると体の芯から温かくなってきた。メイドが薔薇のオイルを入れてくれたのもあって、その香りを楽しみながら肌を撫でる。

 明日はいよいよグランバール辺境伯に会うことになる。次の日から直ぐに仕事だろうか?邸の人たちと上手くできるだろうか?そんな不安が頭を過る。リオナに会ってやはり雇うのは止めたと言われるのも困る。もう後には引けない。やると決めたのだからやるしかないのだ。戻って来ても良いと伯父たちは言ってくれたが、それに甘えて帰るつもりはない。

 湯から上がると柔らかいタオルが体を包んでくれる。

「良いタオルね。近くに売ってないかしら?」

 リオナはタオルを見つめて呟いた。リオナがこれまで使っていたタオルより格段に触り心地の良いタオルで顔を埋めたいくらいだ。リオナのタオルはいつも古びたものだった。新しいものを買っても洗濯に出して戻って来る時には全部古い物に変えられる。その為リオナは新しいタオルを買うのを止めたのだ。

 そのことを思い出しリオナはこれからの生活にまた楽しみを覚えた。生活を邪魔されないのは嬉しい。それに自分で稼いだお金をどう使おうが誰も何も言わないのだ。

 もちろんそれ以外もリオナのお金はある。毎月一定額をリオナの分としてもらっていたのだが、全額使い切ったことは一度もない。それをコツコツと溜めていた分がある。リオナよりたくさんもらっているローラはいつも足りないと言って家令を困らせていたが。

 しかしそれとこれはまた違って、使い道が楽しみで仕方がない。無駄遣いをするつもりもないが、失うことを恐れずに買い物ができるのは嬉しい。義母と妹はもういないのだ。奪われることは今後ない。

 リオナはもう一度お茶を淹れてもらうと買って来た食事を口にした。鶏肉もさることながら、玉ねぎはシャキシャキとしていて瑞々しいし、香味野菜がアクセントになっていて食欲をそそる。ペロリと平らげたリオナはベリーの方を手にした。

 口の中に甘酸っぱい香りが広がると同時に蜂蜜の甘さが押し寄せてくる。これは美味しいとリオナは顔をほころばせた。そしてあの御者は良い店を教えてくれたと嬉しくなった。

 これからこうやって新しい出会いがあるのだろう。買って来た袋の中のパンが気になるが、これ以上は止めておこうと我慢した。


 二日目も朝から天気が良い。迎えに来てくれた馬車に乗り込むとリオナはグランバール領へと向かった。

 日が上り始めた頃グランバール領に入り、しばらく走った後山道に差し掛かったところで御者が話しかけてきた。

「この先少し急な上りの山道が続くんですが、安全に通る為の道が整備されているので安心してください」

「わかりました」

「グランバール辺境伯様が整備してくれたんですよ。前より良くなりました。私らにしたら助かりますよ。馬車の速度を抑えずに走れるんでね。以前も整備されてましたけど、今の方が格段に良いです」

「そうなんですね」

 リオナは登道に備えて宿泊施設で買った果実水が入った瓶に蓋をした。

 ガタガタと揺れるものの酔うほどではなく、三頭立ての馬車の為か走る速度もそれほど落ちなかった。肩に圧はかかるが苦しい程でもないし、外を見れば道の橋に木で作られた柵があり、道に迷うこともなさそうだ。

 そのうち深い森の視界が晴れてきて、横が崖になっているのがわかった。そして開けた場所で馬車が止まる。

「お客様。ここで少し休憩を取ります」

「はい。わかりました」

 御者の声に応えると、リオナは自分で扉を開けて外に出た。

 少し肌寒い風が体を撫でる。そして、すぐそこから濃い緑の匂いがする。胸高さ程の柵に手をかけると眼下に街並みが広がっていた。街並みの向こうに城が見える。

「もしかしてグランバール辺境伯様のお邸ってあれかしら?」

 馬たちに水を飲ませている御者に尋ねた。

「はい。邸っていうより城ですよ。城塞とでも言うんでしょうか。グランバール領とクレメンタール王国の国境は全て高い壁になっているんですよ。グランバール辺境伯様の居城も兼ねた城塞は街に繋がる道の側にあるんですけど結構大きいですよ。中は相当広いと聞いてます。

 グランバール辺境伯様のところに行かれるんですか?」

「いいえ。見えたから聞いてみたの。国境を守られているんだから凄いなあって」

 リオナはグランバール領の中心地に向かってもらうことになっていて、グランバール領の関係者と思われないようにしていた。もし道中何かあればグランバール辺境伯に迷惑をかけてしまう。それは避けたかった。万が一のことがあれば、リオナが来ているワンピースにアクリオン公爵家の家紋を刺繍してあるので、そういった時は伯父に連絡がいくことになる。

「先代辺境伯様も素晴らしい方でしたが、現グランバール辺境伯様も素晴らしい方だと聞いてますよ。実際にお目にかかったことはありませんが。こうやって私たちみたいに領地を行き来していると色々な噂が入って来ますからね。

 道を整備してくれただけでも感謝ですよ。お客様は観光ですか?」

「ええ。絹布を買いに来たんです。大切な友人に贈りたくて」

「そうなんですね。王都からはわりかし近いですからね。でも帰りは気をつけてくださいよ。かなり減りましたがまだ山賊はいますから。今日は天気が良いから多分大丈夫です」

「何故天気が関係するんですか?」

「私たちみたいにこの山を行き来して商売している人間は皆信号弾を持っているんです。それを打ち上げると直ぐに麓に常駐している騎馬隊が来ることになっているんです。そのおかげで山賊がかなり減りました。襲われても命が助かることも多いんです。もし人を殺せば徹底的に捜索されるんで。

 身包み剝がされてしまっては困るなんて人もいますが、命あってこそですからね」

「騎馬隊なら馬車より圧倒的に早いし、もたもたしていると捕まるってことね」

「そうです。だから目ぼしいものを獲ったら逃げる。人を殺せばどこまでも追って来る。そして捕まれば死刑ですからね」

「そう。グランバール領は安全ってことね」

「ですが、雨だと信号弾が見えにくいってこともありますから晴れていると安全ってことです」

「そう。良かったわ」

 リオナは街並みを見下ろし安堵の息を吐いた。無事にグランバール辺境伯のところに着けそうだ。

 麓の手前には牧草地帯が広がり小さく動物が見えている。冬は少し冷えるが雪はほとんど降らないらしい。快適に過ごせそうだとリオナは安心した。何年ここに住むことになるかはわからない。だが好きな場所になりそうだと感じた。


 グランバール領の中心地で馬車を降りたリオナは買い物をする為に荷物預り所に来ていた。

「お嬢様は観光ですか?」 

 受付の若い女性に聞かれた。

「ええ。買い物に。素敵な街ですね」

「そう言ってくださると嬉しいです。歴代辺境伯様が守ってくださってますから。そうだ、お嬢様みたいな若い女性に良い店をいくつかご紹介します」

 リオナは女性から店名が書かれた紙をもらうと街を散策し始めた。

 時刻は12時。

「まずは昼食にしようかな」

 リオナは辺りを散策しながら目ぼしい店を探していく。1本裏に入ってみても荒んだ感じはなく、街全体が清潔だ。しばらく歩きふと目に入ったのは小さなカフェだった。店頭の看板を見ると軽食ができるようなので入ってみることにする。

 カランカランと音を立ててドアが開き店内を見ると、20人入ることができるかどうかの店だった。丁度空いていた窓辺の席に座ると可愛い制服を着た女性がやってきた。

「いらっしゃいませ。こちらメニューです。お決まりになられたらお呼びください」

 そう言って水を出してくれた。水資源が豊富なのだろう。こんな風に頼んでもいないのに水が出て来るとは。王都でも見かけるが、こういった小さな店では珍しい。

 メニューを見るとどれも美味しそうで首を捻る。

「お嬢さん、観光かい?」

 一人の年配の女性が話しかけて来た。

「買い物に。おすすめはありますか?」

「グランバール領はチーズが美味しいからチーズを使った料理にすると良いよ。ジャガイモは好きかい?」

「はい。それに好き嫌いはあまりないので」

「だったらジャガイモとベーコンのチーズ焼きにすると良いよ。近くの店の美味しいパンとキャベツのスープが付いて来るよ」

「美味しそうですね。じゃあそれにします」

 リオナは言われた通りに注文すると女性に話しかけた。

「グランバール領の他に美味しい食べ物ってなんですか?」

「そうだねえ。乳製品を使ったものはどれも美味しいよ。バターが良いから焼き菓子とかも美味しいし、そのままパンに塗っても美味しいね。

 それから、リンゴも美味しいよ。まだ時節じゃないけどジャムとか干しリンゴなら今も手に入るし。リンゴを入れたお茶も美味しいから買って帰ると良いよ。お土産に丁度いい」

「リンゴのお茶って初めて聞きました。是非飲んでみたいです」

「美味しいよ。楽しみにしておくといい。それからサクランボも美味しいよ。でもこれもまだ時節じゃないわねえ。

 グランバール領はパイが美味しいんだよ。バターも良いし、果物の種類も多いからね。色んな種類のパイがあるんだけど、もう少し遅い時期に来たら良かったね。その方が果物の種類が増えるから」

「そうなんですね。教えてくださりありがとうございます」

「律儀な子だねぇ。良いとこのお嬢さんだろ?私ら庶民にそんな丁寧に言わなくても構わないよ」

「いえ。素敵な情報を教えてくださったので」

「はは。じゃあ私からお嬢さんに贈り物をしようかね。マスター、私と同じものを出してあげて」

 同じものとはなんだろう?とリオナは首を傾げた。しばらくして頼んだ料理と一緒に黄色い飲み物が出てきた。

「かぼちゃ牛乳だよ。かぼちゃのスープってあるだろ?」

「はい。飲んだことがあります」

「それの冷たくて甘いものだ。地元ではかぼちゃの季節になるとみんなこれ目当てであちこちのカフェに行くんだよ。家で作るには面倒だからね」

 リオナは一口飲んでみた。かぼちゃと牛乳の甘み、口当たりの良い適度な濃厚さ。丁寧に裏漉しされているのだろう。ザラザラしたものを感じない。

「美味しいですね!」

「だろ?甘みは自然の甘さのみでね、かぼちゃと牛乳しか使ってないんだよ」

「えっ!」

 リオナが驚くと女性は満足げに笑った。

「美味しいだろ?ここら辺りで獲れるかぼちゃはオレンジ色の皮でね、甘くて美味しいんだよ。皮ごと作るから体にも良いんだ。さあ、冷めないうちに食事をしなね」

 リオナは促されてフォークを手にした。ジャガイモのホクホクさと燻製の香りがするベーコンの塩味、たっぷりかかったチーズが合わさり美味しい。

 焼かれたチーズは食欲をそそり、パンに乗せて食べてみると抜群に相性が良かった。キャベツのスープも絶品だ。キャベツの甘みがあり、そこに塩味が加わることでキャベツの美味しさを引き立てている。

 あっという間に食べたリオナは、名残惜しそうにかぼちゃ牛乳を飲む。でもこれからしばらくはこれを飲むことができるのか、と嬉しくなり笑みが浮かんだ。

「満足したようだね」

「はい。とても美味しかったです。しばらく滞在するので、時々ここに来ます」

「マスター、良かったね。こんなキレイな常連ができたよ」

 寡黙なマスターは少し口角を上げると嬉しそうにリオナを見た。

「またお越しください」

「はい。また来ます」

 リオナは代金を支払うと女性とマスターにお礼を言って店を出た。

 お腹が満たされ幸せを感じる。この店の名前を忘れないようにと、周囲の景色も合わせて頭に刻む。

 リオナが次に向かったのは洋品店だ。預り所で教えてもらった安めの絹布を使った服が置いてある店で、リオナは店内を見て回り、紺色のワンピースと若草色のワンピース、白いブラウス4点に水色のスカートとベージュのスカートを選んだ。

 どれも安めとは言え肌触りが良く着やすそうだ。ブラウスも全てデザインが違うのでスカートと合わせれば着回しができる。季節が変わればまたその時に買えばいい。

 店員がキレイに紙袋に入れてくれたのを手に、リオは次に靴屋へと向かった。

 靴屋では既製品の茶色の靴を2足買ったがどれもとても履きやすい。踵を低めにしたので、仕事がしやすいだろう。その次は下着の店。この際全て買いなおそうとほとんど捨てて来たのだ。

 肌触りの良い綿の下着や亜麻布の下着を選び、更にタイツや靴下も追加で選ぶ。ガーターベルトも合わせて購入し、荷物はどんどん増えて行く。夜着も5着選ぶと紙袋は両手いっぱいになった。

 そして最後に向かったのは鞄屋だ。そこでトランクを2つ購入し、1つにはその場で買ってきたものを詰めさせてもらう。

 義母から渡されたトランクと比べて革の光沢があり美しい。

 リオナは新しいトランクを両手に荷物預かり所に戻った。

「お帰りなさいませ。楽しまれしたか?」

「ええ。とてもいい買い物ができました。さっき預けた荷物をこちらのトランクに入れ替えたいんですけど」

「ではこちらの奥の部屋をお使いください。いらないトランクはこちらで廃棄させていただきますよ」

「良いんですか?これから捨てられるところを探そうと思っていたんですけど」

「もちろんお任せください。たまにいらっしゃるんです。トランクに詰めすぎて壊れたから新しいのに入れ替えるとか。そういったことにも対応してますから」

「ありがとうございます。助かります」

 リオナは奥の部屋で荷物を詰め替えるとお礼を言って預かり所を後にした。

 これからグランバール辺境伯の城に向かわなければならないが、辻馬車を探そうとしても中々見つからない。歩いて行ける距離だろうか?さっき預り所で聞けばよかったと頭を悩ませる。

 悩んだリオナは近くの警備隊の駐屯所に向かった。ここなら、行き方を聞けるだろう。

 リオナが駐屯所の中に入ると警備隊数人が書類整理をしていた。

「すみません。グランバール辺境伯様のお邸に行きたいのですが、ここから歩いて行ける距離ですか?」

 警備隊の一人が立ち上がりリオナの元にやってきた。

「ご令嬢。グランバール辺境伯にご用事ですか?」

 どこか少し疑われているのを感じる。確かに両手にトランクを持った女性が一人で行く場所ではないのだろう。更に奥から一人やってきた。

「はい。お昼から面会予定なんです」

「面会?ご令嬢がですか?」

 更に疑わしい目で見て来る警備隊に対応すべく、リオナはトランクを床に置くと鞄から封筒を取り出した。

「こちらです」

「これは!失礼いたしました」

 ビシッと敬礼した警備隊にリオナは笑いかけた。

「いいえ。一人で行けなかった私が悪いんです。歩いて行けますか?それか、どこから馬車に乗れば良いか教えていただけますでしょうか?」

 リオナが見せた封筒にはグランバール辺境伯の封蝋がされている。それだけでグランバール辺境伯に用があるのがわかったのだろう。

「馬車を呼びますのでお待ちください」

「いえ、教えてもらえれば行けますから」

「そうは参りません。それにご令嬢の足では歩いて行ける距離ではありません。しばしお待ちを」

 警備隊の一人が走り出て行くのをリオナは見送った。

「お仕事の邪魔をしてしまってすみません」

「そんなことはありませんよ。道に迷われた方の案内をするのも我々の仕事ですから」

 椅子を勧められ待つこと数分。馬車がやってきた。

「ご令嬢。お持ちします」

 警備隊の一人がトランクを持ち上げ荷台に乗せてくれる。

「ありがとうございます」

「ではお気をつけて」

 警備隊に見送られながらリオナは馬車に乗り込んだ。

 新しい人との出会い。初めての仕事。これからがリオナの真剣勝負だ。

 リオナは幸多きことを願いながら、一路グランバール辺境伯の城へと向かった。

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