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しばしのお別れ

 急なグランバール領行きの話をする為にまず訪れたのはアクリオン公爵家だ。家令が急ぎで手紙を出してくれたようで、その日のうちに明日来るようにと連絡があった。

 リオナは朝早くに伯父からもらったワンピースを着て、アクリオン公爵家からの迎えの馬車で向かったのだった。

 出迎えてくれたのは伯父たちだ。

「リオナ。どうしたんだい?急に会いたいって珍しいじゃないか」

「伯父様。今日はしばしのお別れを言いに来たんです」

「ちょっと待て。別れ?どういうこだ?」

 伯父の眉間に皺が寄っている。

「リオナ。まさかおかしなことを父親に言われたんじゃないだろうね?」

 一歳年上の従兄マッケンも同じように眉間に皺を寄せているのだが、その顔は伯父にそっくりだ。そんなマッケンは10歳の時に4歳下の令嬢と婚約していて、二人を見ていると仲の良い兄妹のようだと言われるのが目下の悩みらしい。

「そうよ。リオナ姉様が急に来るなんておかしいわ」

 2歳下の従妹はミレーユ。リオナと似ているので一緒に出掛ければ姉妹に見えるとよく言われる。慕ってくれる可愛い従妹だ。

「2週間後にグランバール辺境伯様のところに行くことが決まったの」

「グランバール辺境伯?まさか辺境伯と結婚が決まったのか?!」

 マッケンが身を乗り出してくる。

「いや、そんな話は聞いたことがない。それにグランバール辺境伯は・・・」

「結婚じゃないわ。秘書になるの」

「はあ?????何なんだそれは!」

「あいつが決めて来たのか!?」

 伯父もマッケンも立ち上がって怒っている。

「そうなの。急な話なんだけど、グランバール辺境伯様が秘書を募集している話を聞いた父が私にって話を進めていたみたい」

「リオナ姉様!それを受けたの!?」

「ええ」

「何を言っているんだ!!リオナを跡継ぎにする約束も守らなかったばかりか、更に結婚もさせないとは!!どれだけあいつはリオナをバカにするんだ!!そんな話は直ぐに断ろう。私が辺境伯に連絡するから安心しなさい。

 リオナは伯爵家を出てうちで暮らすんだ。その方が良い」

「そうだ!リオナはうちに引っ越せば良い。前々から言っていただろ?父上に任せれば問題ない。リオナ。そうしよう」

「落ち着いてみんな。私は自分で受けるって決めたの」

「何を言っているんだ!あいつはリオナを裏切り続けているんだぞ!たくさん縁談が来ているはずなのに全部あの女が握り潰しているのもわかっているんだ!リオナならいくらでも良縁があるのにも関わらずにな!

 私が探すと言っていただろ?あんな奴の話なんて聞かなくて良い!あいつめ!私に相談なく勝手に決めやがって!!許さん!!」

「リオナ!もう今日からここで暮らせ。伯爵家に帰る必要はない!良いですよね?父上!」

「もちろんだ。もっと早くに無理を言ってでも連れて来るべきだった。まだあいつに少しは良心があると思っていた私が悪い!リオナ。ここで暮らせ」

「そうよ!だから言ったでしょ!あんな奴に良心なんてないって!」

「三人とも落ち着いて。とにかく座って。お願い。話を聞いて欲しいの」

 リオナの声に母に似た面影の伯父は情けない顔でリオナを見ている。三人を宥めて全員が腰掛けると一人ずつその目を見て言った。

「うちに新しく援助をしてくれるという商会が出てきたそうよ。だからアクリオン公爵家からの援助はもういらないってことね。だから私を遠くに追い出したかったのよ。

 アクリオン公爵家からの援助がなくてもやっていけるなら私を手元に置いておく必要はないもの」

「それならうちに引っ越せば良いだろ?もう20歳なんだ。リオナの判断で行動できるんだぞ?」

「私も初めはその方が良いかなって思ったんだけど、やっぱりこのお話を受けようかなって。私は伯父様たちがいたからこれまでやってこれたの。それには本当に感謝しているのよ。

 いつも伯父様が守ってくれたからあの家で暮らせていたの。でも本当にそのまま甘えてばかりで良いのかなって思ったの。私は助けてもらうばかりで一人で歩くことを一度もしていないんじゃないかって」

「リオナ・・・・・。そんなことを言うな。リオナは大切な家族なんだよ。いくらでも私を頼れば良いんだ」

「そうだよ。リオナ。もっと頼ってくれて良いんだ」

 リオナは首を振って伯父を真っ直ぐ見つめた。

「伯父様。これからも頼ることはあると思うんだけど、今回は私の決断を見守って欲しいの。私は自分の力で新しい場所で新しく出会った人たちと信頼関係を築いて歩いてみたいの。

 自分を試したいのよ。私にはまだまだやれることがあるって。それに辺境伯様はお忙しいでしょうからその手助けができれば陛下たちも安心なさるわ。きっと」

「しかしな。辺境伯と結婚ならまだしも秘書というのはいくらなんでも」

「辺境伯様にはご結婚される意思はないでしょ?甥御様を跡継ぎにするから結婚はしないって公言されてるし」

「それはそうだが、リオナが秘書になる必要はないだろ?リオナが自分でしたいことをすれば良いんだ」

「だから、私が決めたのよ。あの家を出たかったのもあるし、でもそれより王都を出て自分がどれだけできるか試す良い機会かなって。私だって誰かを助けることができるかもしれないじゃない」

「リオナ・・・」

 伯父が目元を覆った。マッケンも俯いている。

「リオナ姉様。戻って来てくれるわよね?」

「私にはもう帰る場所はここしかないの。だから長期休暇をいただいたらここに来ても良い?」

「もちろんだ。いつでも帰って来い。頼むから辺境伯と合わなければ直ぐに帰って来ると約束してくれ」

「ありがとう。マッケンお兄様」

「リオナ。一つ間違っている。リオナは頼ってばかりではない。それに自分で決めることがきちんとできる子だ。リオナが頑張ったから領地が上手くいっているのだし、最近では私の助言がなくてもやれていただろ?」

「全部伯父様から教えてもらった通りにやっていただけよ」

「それは誰でもできることではないんだよ」

「そうよ。私なんて領地経営なんてちっともわからないわ」

「おまえはちょっとは勉強しろよ。婚約者が泣くぞ」

「あら良いのよ。側にいてくれるだけで良いって言ってくれてるもの」

「そんなことばかり言って・・・。実際結婚したら知らないぞ。仲違いしても」

 いつもの兄妹喧嘩が始まりリオナは笑った。

「その笑い方、母親にそっくりだ。はあ。私はリリアーヌになんて言えば良いんだ。病床のリリアーヌと約束したんだよ。リオナを守るって」

 深い溜息とともに伯父が項垂れている。

「ずっと守ってくれているわ。これからも守ってもらうつもりだし。ちょっと自分で頑張ってみるだけ。直ぐにできなくて泣いて戻って来るかもしれないから、その時はよろしくお願いします」

「いつでも戻って来ていいんだぞ。迎えに行っても良い」

 伯父の言葉はいつも優しくリオナを甘やかしてくれる。

「伯父様たちがいてくれるから私は挑戦しようって思ったの。これまでありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

 リオナがお辞儀をするとまた溜息が聞こえた。

「そんなところも母親そっくりだ。決断が早い。覚悟を決めるのも早い。そして言い出したら聞かない。本当に可愛い姪なんだよ。リオナは。私たちは家族だ。いくらでも頼りなさい」

「ええ。早速お願いがあるの。ルリバーラの結婚式に着る予定で仕立てているドレスがあるんだけど、出来上がったらこの邸に運んでもらっても良い?」

「もちろんだ。ルリバーラ嬢の結婚式の時はここに帰って来るってことだろ?」

「ええ。その時は休みがいただけるようお願いしてみるわ」

「ああ。そうしなさい。もし駄目だと言われたら、辺境伯に私が直接言いに行く」

「もう。過保護過ぎると思うわ」

「お父様の気が済むようにさせてあげて。でも、もしお父様がグランバール領に行くなら私も付いて行こうかしら?だって確か絹の産地でしょ?王都にないような布があるかもしれないわ」

「じゃあそれまでに案内できるようにしておくわね。その頃にはミレーユは学院を卒業しているだろうし。もちろん結婚式には呼んでね」

「もちろん。でもまだ3年先ね。あっちが学院を卒業しないと結婚なんて考えられないわ」

 ミレーユの婚約者は2歳下なのだ。

「それまでに婚約破棄されないようにしろよ」

「されないわよ。いつも愛してるって言ってくれるもの」

「そうかそうか。お兄様は嬉しいよ」

「何よ、その言い方!」

「静かになさい」

 これまで黙っていた義伯母が二人を制止した。

「リオナ。あなたが決断したことだから、私はやってみると良いと思うの。でも、無理はしないでちょうだい。直ぐに私たちが駆けつけることができない場所に行くのだから。あと、定期的に手紙を送ってね。

 それから、コユール伯爵家に新しく援助してくれる人が出てきたのなら、私たちは遠慮なくあちらとは縁を切ってあなたを我が家に迎えられるわ。あなたは私の娘も同然だもの」

 義伯母は母の幼馴染だ。二人で他愛もない話をして笑っていたのを思い出す。

「義伯母様。では義伯母様宛に手紙を書きます。それからそんな風に思ってくれてありがとうございます」

「思っているだけじゃないの。いざという時はあなたを私の義娘として迎えると言っているのよ」

「義伯母様・・・・・」

 リオナは義伯母の優しさに涙を堪えた。母が亡くなってから、リオナの母代わりをしてくれたのは義伯母なのだ。大人へと変わって行く体に戸惑った時も義伯母に相談し、義母に髪を切られた時も義伯母が抱きしめ慰めてくれた。

 リオナの輝く金色の髪は母を思い出させるらしく、一度押さえつけられ短く切られたのだ。義伯母は伸びるまでの間と言って帽子を買ってくれ、幼いリオナは邸の中でもその帽子を被って生活をしていた時期がある。

 自分の髪はおかしいのか?と問うたリオナに、義伯母は美しい髪だから心配しなくて良いと言ってくれた。ある意味一番の心の支えは義伯母だったのかもしれない。

「ほら、泣かないで。これから一人で頑張ってみるんでしょ?でもね、きっとどこへ行ってもリオナは一人じゃないわ。きっと助けてくれる人がいるはずよ。

 リオナが誰かの助けになったなら、自ずとリオナのことを助けてくれる人が出てくるものなの。それにいつでもここに帰って来なさい」

「うん、うん。ありがとうございます・・・」

 リオナは義伯母に抱きつくとその胸に顔を埋めた。優しく頭を撫でてくれる手がリオナを安心させてくれる。

「そうだな。リオナならきっとできるよ。帰って来る時は連絡しなさい。リオナの大好きなアップルパイを用意しよう」

 伯父の言葉にリオナは頷くと、大切な家族との別れを惜しんだ。



 リオナがアクリオン公爵家から自邸に戻るとローラが部屋の中で待っていた。リオナの部屋なのに、自分の部屋の様に優雅にお茶を飲んでいる。

「また大好きな伯父様に会って来たの?」

「ええ。王都を離れるから挨拶をしてきたの」

「ふーん。その割に何も言って来ないわね。お姉様の伯父様は」

「伯父様が何か言って来ることはないわ。グランバール辺境伯様の秘書になることは私が決めたことだもの」

「何が私が決めたこと、よ。お父様が見つけてくれたんじゃない」

「それでも嫌なら嫌って言うわ」

「何よ、強がっちゃって。この家を継ぐのは私。お姉様は遠くで秘書になるなるの。所謂使用人よね。公爵家の血が入っているのに使用人だなんて惨めね」

「そう?でもね、前からローラがこの家を継げば良いって思っていたの。お義母様も喜ぶでしょうし」

 リオナは扉の側に立ったまま会話を続けた。この部屋ももう直ぐリオナのものではなくなる。出ていく時は祖父が使っていた時の状態に戻すつもりだ。

「ホント、お姉様って可哀想。一生懸命跡継ぎになる為に仕事を覚えたのにね。でも安心して。私がちゃんとした素敵なお婿さんをもらってこれからはやっていくから。お姉様はもう用無しよ。

 っていうか、ずっと用無しだったのかもしれないわね。だって、私ずっと前にお父様に言われたもの。この家を継ぐのはローラだよって。だからお姉様が勉強をしているのを見て不思議だなって思ってたの。私のものなのにって」

 あーおもしろいといってローラが笑っている。

「そうね。私もそう思ってた。だってさっきも言ったけど私もローラが跡継ぎになれば良いって思っていたもの。だから私が勉強する必要はあるのかしら?って」

 リオナの言葉にローラが怒りの目を向けて来る。自分が想像していた様にリオナが悲しんでいないことが腹立たしいのだろう。リオナだって学んだのだ。ローラの発言を否定すればするほど怒り出すのだから、如何に肯定しながら否定するかということを。

 ローラは否定の中に肯定を入れると言い返すことができずに睨むだけなのだ。半分だけとはいえ血が繋がっている姉なのだからそれくらいは理解している。

 ローラが無言で睨んでくるのを正面から受けその目を見つめる。

「つまらない時間を過ごしたわ。じゃあ、これはもらっていくから」

 立ち上がったローラの指にはキラキラしたものが巻きついている。棚の引き出しに入れてあったブレスレットだ。細い金の鎖に一粒の小さなエメラルドがついているもので、リオナが旅立つまでに残っていたら着けて行こうと思っていたものだ。それでもあくまでも残っていたらということで、出ていくまでにリオナの部屋に何もなければ怒りだしそうなローラの為に、わざわざわかる場所に置いておいたのだ。

 他にもまだいくつか置いてある。それらはどれもリオナが自身で買ったもので、どれも値の張るものではなない。大切な物は全てグランバール領に送った。

「これじゃ、出ていくまでに何も残らなさそうね。道中何か買わないと、逆に変に思われちゃうわ」

 リオナは棚を開けて溜息を吐いた。貴族家の令嬢が宝飾品を一つも身に着けていないなどありえないのだ。裕福でなくても、一つくらいは身だしなみの一環として着けているものだ。

 リオナはグランバール領に向かう前に銀行と宝飾店に寄る為の道程を考えた。



「はあ?!何でリオナがそんなところに行かないとならないのよ!」

 そう言ったのはルリバーラだ。アクリオン公爵家に行った翌日、リオナはルリバーラに会いに来ていた。

「そんなところなんて言っちゃダメよ。辺境伯様はこの国を守ってくださっているんだから」

「そう言う意味じゃないの!だって、秘書でしょ?信じらんない!リオナに良い人を見付けようって一昨日イザーク様と話していたのよ!イザーク様のご学友から探そうかって。それなのに、何でこんな急にグランバール領に行くことになっているのよ!もう!」

 ルリバーラは悔しそうに拳を握っている。

「ありがとう。心配してくれて。でもね、私は前向きにこの話を捉えているの。自分を試す良い機会だなって。私を外の世界に連れ出してくれたのはルリバーラとシルフィアよ。二人のおかげで私は色んなところに行けて楽しかったわ。

 これは伯父様たちにも言ったんだけど、私はみんなに助けられてばかりいると思うの。だから、その分今度は誰かを助けたいって。それがグランバール領に行くことならそこで頑張ってみようって」

「リオナ・・・。私だってリオナに助けられているわ。リオナの優しい声を聞くだけで癒されていたの。それにリオナは私の話をいつも聞いてくれるし。時々しゃべり過ぎたかなって思うほどしゃべっちゃうのよ。リオナ相手だと。だからリオナには幸せになって欲しいのよ」

「ありがとう。お互い忙しくなるかもしれないけど、私もたまには王都に帰省するし、ルリバーラが良ければグランバール領に遊びに来てよ。グランバール領からクレメンタール王国の王都までは近いから、一緒にシルフィアに会いに行くのも良いと思わない?丁度二人の間に私がいるって思って」

「何でそんなちょっと楽しそうなことをいうのよ!私は怒っているのに!!」

 ルリバーラが拳で膝を叩き始めた。ちょっと怒り方が子どもっぽいのもルリバーラらしい。

「ね?楽しそうでしょ?私を真ん中に行き来すれば良いと思うの。だから、そんなに怒らないで」

「わかっているわ!リオナは案外頑固だって。普段は大人しいのにこれって決めたら考えを変えない!わかっているの。そんなところもリオナの良いところだって。

 だけど、悔しいじゃない!伯爵たちの思う壺になっちゃうでしょ?リオナを散々苦しめて来たのに、またこんな仕打ち!」

「良いのよ。それに私は一度王都を出て自分で頑張ってみるのも良いと思ったの。あの家から完全に離れたいのよ。伯父様たちもいつでも戻って来て良いって言ってくれているし、グランバール領に向かった後は、二度とあの邸に戻ることはないわ。領地のおばあ様に会いに行くことはあっても」

 リオナはこの気持ちに嘘はないとルリバーラにわかって欲しくて丁寧に説明した。

「そっか。そこまで決心しているなら私は見守るわ。戻って来たら、私にも会いに来てよ。もちろん、グランバール領にも行くわ。一緒にシルフィアに会いに行こうね。

 あー。寂しくなっちゃう。二人ともいなくなっちゃって私は誰とお茶をしたら良いのよ」

「ルリバーラは公爵夫人になるんだからどんどん交流も増えるわよ」

「ダメよ。そんなんじゃ。それはそれ。これはこれ。全く違うの!社交界のお茶会なんて気を使っちゃってちっとも楽しめないわ。あんなの腹の探り合いじゃない。仲が良い友人とするお茶会だから意義があるのよ」

 全くもう、と呟きながらお茶を飲むルリバーラはフィナンシェをリオナに渡して来た。リオナが好きだからと毎回用意してくれるのだ。

「ありがとう。でもしばらくこれも食べられないわね。残念だわ」

「王都を出る前にうちに寄ってちょうだい。たくさん作って持たせるわ。道中食べたら良いわよ」

「ありがとう。楽しみだわ。茶葉を入れたのも食べたいわ」

 リオナはフィナンシェを頬張りながら希望を伝える。遠慮なく言えるのが嬉しい。

「わかった。任せておいて。って私が作るわけじゃないんだけど。でも、グランバール辺境伯様の邸に腕の良い料理人がいると良いわね」

「そうね。ちょっと楽しみだわ。お休みの日は好きに外出もできるだろうし。時間を気にしなくて良いって思うとそれだけで気持ちが楽になるわ」

「そうだ。今日はこの後時間はあるの?」

「今日は何も。もう荷づくりもほとんど終わっているし」

「じゃあ、うちに泊まっていきなさいよ。久しぶりに果実酒を飲みながらおしゃべりしましょう。当分会えなくなるんだから」

 いきなりの提案にリオナは迷った。

「でも、準備をしてきていないから」

「私がまだ使っていない着替えを使って。それで、そのままグランバール領に持って行ってよ。私からの餞別って感じ」

「ルリバーラ・・・。ありがとう。じゃあお言葉に甘えてそうするわ。連絡しないと」

「うちの執事にさせるから気にしないで。そうと決まれば色々準備しないとね。果実酒は今どんなのがあったかしら?見て来ないと。ちょっと待ってて」

 ルリバーラが急いで部屋を出ていく。友人の優しさにリオナは改めて感謝した。

 中々会えなくなるのはリオナだって寂しい。でも大人になるってこういうことなんだとも思う。それでも自分たちの絆は強い。立場や住む環境が変わっても、心は変わらずに一緒に過ごしていける。

 リオナはお茶を飲みながらそう願った。

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