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家族との過ごし方

「やっと帰って来たの?お姉様」

 リオナが帰ると出迎えたのは異母妹のローラだった。

「ほんとぐずでのろまね。私だって馬車を使いたいのに。もっと早く帰すことはできんたじゃないの?」

「ローラが使うのを知っていたら私は使わなかったわ。ルリバーラに迎えに来てもらえばいいから」

 リオナの言葉にローラがムッとしたのがわかる。

「そんなに上位貴族と親しいのを自慢したいの?みっともない。お姉様には釣り合わないんだから早く会うのを止めなさいよ」

 リオナが出かけるといつもローラはこうやって文句を言って来る。リオナに上位貴族の友人がいるのが嫌なのだろう。

「それは私とルリバーラたちとで決めることでローラが口を出すことではないわ」

「うるっさいわね!あんたなんか本当はうちに置いておきたくないのに、あんたの伯父さんが怒るからお父様が仕方なく住まわしてあげているんじゃない!」

 それは仕方なくではないだろう。リオナだって伯父の家に行っても良かったのだ。実際、前に一度そういった話が出たことがある。しかしそうなればアクリオン公爵家からの援助を打ち切られると思った父が断ったのだ。リオナは大切な娘だと。取り上げるなと言ったのだ。

 伯父たちは詭弁だと思ったが、外傷もなく、虐待を疑われることはないと言って父は反論し、そんな父親の了承もなくリオナを引き取ることは法律上できないため、伯父は様子を見ることにしたのだ。

 外聞が悪くならない程度のお金は家令から渡されていたが、それ以上に伯父は色々としてくれた。それもローラが気に入らない点の一つである。

 リオナが不幸であれば不幸であるほど喜ぶ。だから食事の時間は大好きな時間なのだ。リオナを居ないものとして好き勝手できるから。

 時にはリオナだけパンのみだったり、時にはスープだけだったり。それを見てにまにまと笑って楽しんでいる姿は、折角の父親譲りの美貌を台無しにしていた。

「そう。お父様に感謝するわ」

 リオナはローラの横を通り自室へと戻った。後ろでまだローラが何か言っているがいつものことなので気にしない。

 リオナは部屋に戻るとソファーに腰掛けた。

「また、ベッドカバーがなくなっているわ」

 リオナは独り言ちると目を閉じた。

 

 リオナの両親の出会いは、母が社交界デビューした日だ。母はアクリオン公爵家の娘でその日の舞踏会では注目を浴びていた。そしてたくさんいる男性の中で、リオナの母が見初めたのは父であるコユール伯爵家の長男だった。

 人波に疲れてバルコニーで夜風に当たっていた母を気遣ってくれたそうで、箱入り娘だった母は、スッキリとした爽やかさのある顔立ちで人当たりの良い話し方をする父に好意を抱いた。

 母は帰って父親、つまりリオナの祖父にそのことを告げると、愛娘の恋を実らせたいと、祖父はコユール伯爵家に婚約の打診をした。当時のコユール伯爵家当主は評判も良く、祖父は安心して嫁がせることができると判断したそうだ。

 コユール伯爵家当主、リオナのもう一人の祖父は、堅実な領地経営と優しい人柄で社交界に友人も多かった。そして、息子の結婚相手を探していたこともあって、公爵家と縁ができるとその話を受諾した。そして父も、公爵家と縁組できると乗り気だったらしい。

 祖父は新しい事業をしたいとアクリオン公爵家に援助を申し込んだ。これで領民の暮らしがより楽になると。

 そんな二人が出会って婚約をし、3年後結婚した二人の間に直ぐにリオナが生まれた。

 しかしリオナの母が幸せだったのは初めの2年だけ。実は父親には外に女性がいた。子爵家の娘で、祖父に内緒でそちらと隠れて会い、結婚の約束までしていたにも関わらず、公爵家との縁組を聞いて傾いて母と結婚した。しかし、結婚後2年も経たずに二人の関係は再燃し、そのうち父は家にあまり帰らなくなったのだ。

 その頃には既に祖父が他界し、祖母は領地で隠居生活を送っていて、その為代わりに母が自然と領地経営を任されるようになっていった。祖父は母にすまないと謝ってから眠るように息を引き取ったのだ。その時父はいなかった。

 祖父は知っていたのだろう。父に浮気相手がいることを。祖父は母にもリオナにも優しい人だったので、きっとリオナたちが知らないところで父を注意していたのかもしれない。祖母もリオナを大切にしてくれていて、一緒に遊んでくれていたのだが、祖父が亡くなった後、父に領地へ追いやられたのだ。

 母はリオナを育てながら仕事をしていたが、愛する夫が帰って来ないことにとうとう不安を抑えられなくなって、実家に相談し事態が判明したのだ。アクリオン公爵家から父に説明を求めると、魔が差しただけで別れると釈明し、結局そしてまた隠れて会い帰って来ないを繰り返す。

 アクリオン公爵家当主である祖父と跡継ぎである伯父は、リオナの母とリオナを守るために、コユール伯爵家を援助し続けていた。

 母は懸命に仕事をし、リオナを育て、使用人たちにも好かれており、その頃は様々なことで父を除く全ての伯爵家の皆が一緒に頑張っていた。

 そんなリオナは母と二人の祖父母と伯父一家に愛されて育ち、父と中々会えなくても不自由のない生活をしていた。

 しかし、リオナが8歳の時、疲労の為か母が急な病で他界したことで生活が一変した。母が亡くなって間もないというのに、後妻として浮気相手の子爵家の娘が子連れで引っ越して来たのだ。父には義母になるのだから、「お義母様」と呼ぶようにと言われ戸惑った。

 しかしそれより驚いたのは、自分に妹がいたことだ。妹は2歳下。父の実子だという。突然できた義母と異母妹。心が追いつかないまま一緒に生活をすることになったのだ。

 使用人たちはリオナを心配し、何かと気を使ってくれていたが、それを知った義母が次々とリオナを心配し声をかける使用人たちを解雇した。その為、残った使用人たちにはリオナが自分に声をかけないようにと伝えるしかなった。

 新しく入って来た使用人たちはおかしいと気付きながらも、雇い主である義母に逆らうことはしなかった。

 しかも、母の使っていた部屋はあっという間に改装され義母の部屋になった。残された母の宝飾品などは売りに出され、それを売ったお金で義母は新しい宝飾品を買い漁る始末。

 リオナの部屋もローラの部屋にされ、リオナは別の部屋へと移動させられた。元々のリオナの部屋は、白と水色を基調とした部屋だったのだが、塗り替えられ、水色とピンクの部屋になった。

 与えられたリオナの部屋は、元々祖父が使っていた部屋で、落ち着いた調度品が揃っていて、リオナは大好きな祖父の部屋だからと我慢した。

 本当は義母はこの部屋でさえリオナに渡したくなかったようだ。邸の隅とは言え、祖父の部屋だからリオナが使っていた部屋よりも広いのだ。それを父は伯父たちが来た時によく見えるようにと選んだのだと言い、その説得で義母は床を音が鳴る程蹴り飛ばし去って行った。

 そしてリオナの持っていた髪飾りや服のほとんどがローラの物になった。リオナに渡されたのは、元々の量の半分にも満たなかった。そしてその内訳のほとんどが伯父からもらった物という有様で、伯父一家に会う時はそれを着るように言われたのだ。

 父は母の実家であるアクリオン公爵家からの援助がなくなるのは困るので、リオナを粗末に扱うことはなかったがそれは表向きだけ。伯父たちに知られないようリオナに口止めをし、最低限見た目を取り繕っただけ。

 直ぐに後妻が入ったことは伯父たちの知ることとなったが法律上は問題ない上、リオナのことも大切にすると約束をし、伯父たちはその言葉を違えるなと言って、時々リオナと会う機会を与えるようにと約束し認めた。

 リオナは義母たちが来てから、アクリオン公爵家に行く以外は外出を控えるようになった。付き人もつけてもらえないので、そもそも8歳という年齢で一人で伯父の邸以外に行くことはできなかった。

 伯父たちはリオナを心配し、何かと呼んでくれるのだが、それが叶うのは3回のうち1回ほど。色々と理由を付けて義母はリオナの邪魔をした。一緒に買い物に行くだとか、ダンスの講師が来るだとか。そんなことは一度もなくて、ただただリオナの邪魔をするのを楽しみにしているようだった。

 食堂で一緒に食事をしても、リオナは空気と同じだった。時には出て来る食事が違うこともあり、食事をして部屋まで帰る。この作業がより辛く感じた。無視をするのだから、それだけリオナの顔を見たくないのだろうと、リオナは一度食事を部屋に持ってきてもらったことがある。

 しかしその結果、義母から2日間食事を禁止された。部屋でじっと時間が過ぎるのを待ち、空腹と戦う。そして夜中に厨房へ行き、そのまま食べられる野菜を食べて飢えをしのいだ。料理長は食料が減っていても義母に報告はしなかったのが救いだった。

 当然、料理長はリオナが食事を禁止されているのを知っているので、黙って見過ごしてくれたのだ。数少ないリオナの幼少期を知る使用人だから。

 結果、リオナは嫌でも食堂で食事をしなくてはならなくなった。どんな料理を出されても黙って食べ、自分だけデザートがないのなんていつものことと我慢する日々。

 伯父に言えば怒りに来てくれるかもしれないが、その後もっと辛い目に合わされるのがわかっているのでリオナは耐えるしかなかった。

 例えば、リオナが大切にしていた母からもらったリボンをローラに取られた時に泣きながら伯父に言ったことがある。伯父は父と義母を注意し、一旦はリオナの元に返って来たのだが、数日後に目の前で義母にハサミで切り刻まれてしまった。

 こんなものがあるから揉めるのだと言って。伯父に言えば、他も同じようにするぞという脅しに感じたリオナは、残り少ない母との思い出を守る為に黙るしかなかった。

 伯父の手前、最低限の講師は付けてもらえたので伯爵家令嬢としても品位は保つことができたは幸いだ

 後は、一人部屋にこもって母から習った刺繍をする日々。

 そんな暮らしを約2年間していたリオナを変えたのは、やはり伯父だった。リオナが刺繍が得意だと知っていた伯父が、父たちに内緒でこっそり刺繍大会に申し込んでくれたのだ。10歳から参加できる大会で、リオナが部屋に飾っていた大作を見てその出来栄えに驚き、これなら大丈夫と申し込んでくれたのだ。

 そして数日後。刺繍大会の実行部門から、リオナの作品が2位に選ばれたと連絡が来たのだ。義母は激高し辞退しろと言ってきたが、伯父のしたことなので父は授賞式に参加することを許可した。

 入賞しなかった作品も美術館で展示されるため、リオナが辞退すれば伯父に知られることになるのを懸念したのだろう。

 そして授賞式でルリバーラたちに出会ったのだが、お茶会に誘われても義母たちの目があり、中々出かけることはできなかった。しかし、公爵家の令嬢や侯爵家の令嬢の誘いを断り続けるのは逆におかしく見えると判断した父が時々なら言っても良いと許可をした。

 それで漸くリオナは外出ができるようなったが、初めは伯父と同じで3回の誘いに1回くらいしか応えることができなかった。

 こういった貴族家の話はよく耳にするようで、ルリバーラたちは同年代の令嬢らしく、リオナの置かれた状況を察っしたのか、シルフィアを筆頭に何度も断るのは失礼じゃないか、事前に連絡してあるにも関わらず、こんなにしょっちゅう参加できないのは公爵家の娘であるシルフィアのことを蔑ろにしているのか、と言った感じで父に書面を送り、あちらこちらの公爵家に問題視されたくないと言って、リオナが自由に外出できるよう許可してくれたのだが、今度は馬車が何時間もないのは不便だと言って義母が怒りだした。

 何時間と言っても3時間ほどで、邸には他に2台馬車がある。もちろん御者もいるので、父が外出中でも、1台は余っていることになる。それなのに義母の怒りはリオナだけではなく、帰って来ない御者にまで及ぶようになり、申し訳なく思ったリオナは、馬車を行きだけ使い、帰りは貸し馬車を使うことにしたのだが、それを知ったルリバーラたちがリオナを送ってくれるようになった。

 リオナの邸の馬車より豪奢な馬車で送られて来るリオナを気に入らない義母は、毎回リオナを罵った。そして全ての元凶は刺繍だと言って、リオナが次の年の刺繍大会に参加することを禁止したのだ。

 参加すれば今残っている昔からいる使用人は全員辞めさせると言って。その為リオナは伯父たちに、大作を作るのは疲れるからもう出ないと言って出なかった。

 そしてリオナが出かける時はいつも同じ服を着るように言われていた。伯父からは可愛らしい服をたくさんもらっていたが、それらを来てルリバーラたちに会いに行くのを禁止したのだ。そんなことをすれば虐待を疑われるだろうに、義母にとってはリオナが可愛い服を着て出かけることの方が余程苦痛だったのだろう。伯父に会いに行く時以外はいつも同じ服。丈が短くなっても同じ服。リオナは黙って従った。

 しかしルリバーラたちに言われてからは他の服も着るようになった。そんなリオナを義母は叱ったが、公爵家に行くのにいつも同じなのはおかしいと言い返した。

 この時初めて義母に反抗したかもしれない。義母はそれならと言ってリオナの服の半分をローラの物にした。それでも僅かにあるので我慢するしかなかった。お金は渡されている。四季ごとに2着くらいなら服を買えるし、伯父もくれるのでなんとかリオナは体裁を保てた。

 ローラが10歳になった時、刺繍大会に参加し惨敗した。審査員に義伯母がいた為だと言って義母は怒りリオナを罵った。だが、リオナはローラの作品を見て、これでは入賞はできないだろうという出来栄えだったので、義伯母は忖度無しで審査したのだろうと思っている。

 ただ義母の怒りも少しはわからないでもない。父と義母との間だけの同意だったとしても、結婚を約束していたのに、母が父を見初めたことによって結婚はなくなり、父は母と結婚した。その間も父を愛し続け、父にもう一度振り向いてもらい、愛人関係になる。そして子を身籠り出産した。

 本当は自分が伯爵家夫人になるはずだったのにと、ずっと思っていたのだろう。それが実現した結果、リオナは憎い女の娘でしかないのだ。リオナを愛せるわけがない。リオナは容姿も母にそっくりなのだから。

 もちろんだからといって、このようなことをされる覚えもないのだが。家では黙って過ごし、刺繍したものは養護施設などに寄贈して過ごす。学院にも通えたので、ある程度の勉強はできる。しかも、前々から領地経営についても伯父から習っている。

 伯父はとっくの前からわかっていたのだ。母が経営しなくなってから領地の経営が滞っていることを。その為、領民の生活がかかっているので、リオナに領地経営を教え、リオナは家令と共に領地経営をしていた。家令だけでは判断できないものがあるからだ。

 本来家令は管理を任されているとはいえ、最終決定は領主家の誰かの指示で動かなくてはならない。それなのに父は仕事をほとんどせず、決定の判断は先送りにされてばかりいた。その為、父たちには気付かれないよう伯父の教えの元リオナに判断をさせ、領地はなんとか回っていた。

 いや、父は気づいていただろう。だが放っておいたのだ。仕事をするより義母と遊びに出かける方が良いから。家令がリオナにさせているならさせておけば良いと思っていたのだろう。

 祖父が始めた事業についてもそんな有様だった。父は家令に丸投げだったから。リオナの部屋に家令が持ってきた書類を確認し署名をする。そしてわからないことは伯父に聞く。

 そうやって伯爵家は回っていたが、それ以上にローラと義母の浪費の方が多い為、家令が何度か控えるように頼んだのだが、それくらいの財力はあるはずだと言ってより浪費する。

 その為家令は何も言えなくなってしまった。父にも言ったらしいが、そちらも上手くは行かなかったらしい。

 これ以上のものを奪われたくなかったリオナは父と義母とローラの好きにさせながら、自分の将来をどうするかで悩んでいた。

 伯爵家は当然ローラが継ぐだろう。そしてリオナにも縁談は来ているが、全て義母によってないものにされているのが現状だ。リオナが幸せになるのは許せないようで、普段は届く郵便物など目にも止めないのに、釣書きや絵姿のみは察知して中身を確認してリオナの分は勝手に断っている。

 伯父が持ってきた縁談でさえも、まだ早いと言って父も義母も了承しなかった。早いなんてことはないのだが、まだまだ勉強させたいとか色々言っていた。リオナが家を継ぐのだからこちらで決めるとも。

 でも、ローラに継がせるのは分かり切っている。義母が許すはずがないからだ。リオナを生殺し状態にして、そのうち領地にでも追いやるつもりなのかもしれない。

 リオナは漠然とした不安と期待を抱いていた。未来が見えないのは苦痛だ。しかしこの家から解放されるならどこでも行ける。そんな気がしていた。例え、金持ちの後妻でも、領地で軟禁でも父たちの顔を見ないで過ごせるならそれで良い。だがそれでは伯父たちが黙っていないだろう。

 いつも他力本願な自分に嫌気がするが、リオナが今できる最良のことは、静かに父たちの言うことを聞くこと。ルリバーラの結婚式に出席するのも既に了承は得ている。ブレーセン公爵家とハンバー侯爵家の名で出された招待状が届いた以上、断るわけにはいかないからだ。

 久しぶりに既製品ではないドレスを自分で作る為に既に洋品店に依頼している。シルフィアの結婚式の時は伯父が用意してくれたが、今回は自分で行って採寸をしてデザインも決めたのだ。

 本来なら邸に出入りしている洋品店に頼むのだが、その洋品店は義母の息がかかっている。そんなところに頼めば碌なことにはならない。ルリバーラの家に行くと言って出掛け、御者をいつも通りに帰して自分で選んだ店で決めたのだ。御者はいつも駄賃を渡しているのもあってか義母たちには黙っていてくれた。ドレスは結婚式当日まで店で預かってもらうことにもなっている。

 リオナを支えてくれた友人たちの幸せな姿を見るのは嬉しい。そんなリオナの幸せは家から出ること。伯父には王宮勤めをしたいと相談したこともある。伯爵家の娘であれば王宮勤めも容易にできるからだ。もちろんそれ相応の勉強をしなくてはならないが、挑戦してみるのも良いと思ったのだ。

 しかし伯父は反対した。伯爵家を継ぐのはリオナだと言って。それは無理だと伝えたが、それなら別の道を用意するから待って欲しいと言われた。もしどうにもならなければ、18歳になれば公爵家で生活をしてそこから嫁ぐこともできるからと。

 伯父もむきになっていたのだろう。可愛い妹の残した姪を幸せにしたいと。そしてそれは伯爵家を継がせること。それができなくても、ローラより幸せな将来にすること。伯父は父が許せないのだ。母を裏切ったことも、リオナを蔑ろにしていることも。

 それでも法の壁は高い。父がリオナをいらないと言ってくれれば簡単な話だったのだが、父は世間体と援助の為にそれを言わないから。

 リオナが18歳になり、学院を卒業した時に父に伯父のところに行きたいと伝えたら絶対にダメだと言ってきかなかった。もうある程度自由にできるのにリオナがさっさと行動にできなかったのは伯爵家の領民の為だ。

 リオナがいなくなれば確実に傾くのではないか?ずっとそんな心配をしていたのだが、20歳になった今、そろそろそれも終わりにしなくてはならない。最近思うのだ。リオナがいるから父が何もしないのではないかと。リオナがいなくても領地は回るだろう。家令だってリオナがいなければ父に頼るしかないのだ。

 いつまでもこの家にしがみついているのはリオナの方ではないか?言葉に出しても結局実行しない。それはリオナ自身がこの家に必要な存在であって欲しいと願っているからではないか?援助だってリオナがいなくなりなくなったとしても、事業を縮小すればやっていけるのではないか?

 それなりに収益はあるのだ。無理をしなければやっていける。実際ここ数年の援助も知識や顧客の伝手がほとんどで、お金が大きく動くわけではない。

 リオナがこの家を出るのが先か、追い出されるのが先か。もうどちらが先でもおかしくない状況だ。決断しなくてはならない。

 リオナは立ち上がるとクローゼットルームへと向かった。剝ぎ取られたベッドカバーの代わりなんていくらでもある。リオナがたくさん作ったのだから。

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