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幼馴染みにそっくりな騎士

(2025.8.2 一部誤字訂正しました)

 私が”神様宣言”をした後、ファレンを中心にあれこれと指示が飛び交い、場が一気に騒がしくなった。


 私はさらに別室に連れて行かれ、女医さんによる問診や診察を受けた後、大勢の侍女っぽい人たちが現れて、浴室へ案内される。

 そこは中庭が見える大きなシャワールームで、汗を流せること自体は有り難かったけど、初対面の他人に裸を見せるうえに、身体まで洗われるという行為は、正直言って恥ずかしすぎて苦痛だった。

 でも、これだけ手厚くお世話してもらっているのに、文句なんて言っていいのかも分からず、結局「私は石だ」と念じ、何とか乗り越えた。


 全身さっぱりした後、鏡の前に座ると、ワイヤレスのドライヤーのような器具を持った若い侍女がやって来る。

 全体的に大ベテランそうな貫禄のある侍女ばかりの中で唯一若く、私より年下だと思う。赤毛の三つ編みを左右に垂らしていて、目元にはそばかす。何となく、赤毛のアンってこんな感じかな、と思った。

「では、お髪を乾かしますね」

 そう言って、私の知っているドライヤーよりもずっと静かな器具を使って、髪を梳かしながら丁寧に乾かしてくれる。

「ナギノ様は綺麗なお髪ですね。スルスルとしていて、羨ましいです」

 私は髪がごわつくので、結んでいないと大変なんですよ、と若い侍女はくしゃっと笑った。


 その笑い方を見てーーあ、この子、陽菜が笑った時に似てるな、と思った。


 陽菜は大学で出来た友達で、私と同じ総合環境学部・環境文化共生学科。

 私と同じくスイーツが大好きだし、ウェーブがかったショートボブがよく似合う、優しくて可愛い、大好きな友達だ。

 明日のスイーツバイキング楽しみだな。……あ、でももう、明日は行けないのか。いつ行けるんだろう。

 そもそも私、本当に、ちゃんと帰れるのかな……?


 早く、家に帰りたい。お母さんに会いたい。お父さんにも、お姉ちゃんにも会いたい。

 陽菜にも会いたいし、伊織にだってーー


「ーーあ!!

 い、伊織はどこですか……!?」


 そこまで考えて、唐突に伊織の存在を思い出した。


 どうして、伊織もこの世界にいるの?

 なんで、そんな騎士みたいな格好してるの?

 さっき殴られたのは……大丈夫だった?


 聞きたいことがたくさんある。そう思うと、少し緩みかけた涙腺を、ぎゅっと引き締めた。


「……いおり? ええと……衛騎士の、イオ様のことでしょうか?」

「……イオ? いおり、じゃなくて?」

「はい。イオ様でしたら、騎士団員ですから、騎士棟に居るかと。……あ、身支度が整い次第、すぐにこちらへお呼び出来るか確認しましょうか?」

 若い侍女は困ったように眉を下げながら、にっこり微笑んでくれた。

「はい。……すみませんが、お願いします」

 一人の侍女が部屋の外へ出ていき、私は再び髪を乾かしてもらい始めた。


 身だしなみを整え、白いローブ服に着替えさせてもらった後、”謁見の間”のような部屋に案内された。

 謁見というと、玉座から王様が見下ろしてくるイメージだけど、それよりは日本の城みたいに、上座は下座より一段高いだけだ。ちょっとイメージと違うなと思いながら、上座の椅子に座る。

 チリン、と鈴の音が響いた。


「ーーご用命により、参上しました」


 一人の騎士が入室し、私の正面で両膝をつく。


「先ほどは、恥ずかしい姿を見せてしまい、誠に申し訳ありません。

 俺ごとお守りくださったこと、神の愛と御力に感謝いたします」


 右手を胸に当てて頭を下げ、うやうやしい態度で挨拶をする、騎士姿の伊織――


「……伊織だよね?」


 私がそう問いかけると、伊織は頭を上げて私を見つめ、目を瞬かせた。

「……俺の名前は、イオ・フィメウです。……あの、間違えて参上してしまったでしょうか?」

「えええ? 田畠 伊織じゃなくて? 冗談とかではなく、本当に伊織じゃないの?」

 彼はとても困ったように眉を寄せ、言いにくそうに口を開いた。

「……はい。俺はフィメウ家の子、イオといいます。

 ナギノ様のおっしゃる”伊織”という方は、騎士団に所属している方ですか? 特徴を教えていただければ、お探ししてまいります」

「特徴と言われても……むしろあなたそのものと言うか、何と言うか……」


 当惑しながら、私は彼を正面からよくよく観察し直す。


 ……確かに私の知っている伊織より、日焼けしていて、身体もがっちりしている。

 顔は瓜二つだけど、よく見たら左目の下にホクロがある。伊織には、そんなホクロは無い。

 そう思って見れば、眉目も少し精悍に見えるような……?


 顔も、名前も、限りなく似ている。

 でも、どうやら彼は”伊織”じゃなくてーー”イオ”という人らしい。


 伊織だと思った人物は、驚くほど伊織にそっくりな……別人でした。



家族でも何でもない赤の他人で、私も自分そっくりな人を見たことがあります。

とても不思議でした。

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