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異世界の神様、やってみます

 勢いよく吹っ飛んで気絶したジョア達を横目に、少し歩いた先の、応接間のような部屋に案内された。

 円卓と椅子が5脚置かれ、外側には大きなバルコニーがついている。

 この部屋も建物も、白い石の壁と、幾何学的模様が描かれた白いタイル床の造りで、全体的に白い印象を受けた。


 こちらへ、と勧められた席は最もバルコニーに近く、開かれた窓からは、時おり風がすっと入ってきて肌に心地よい。見える空は青くて、透き通っている。


 私が座ると、続いて4人の人が着席する。私の両隣にはさっきのおばあさんと、あの性別不詳の綺麗な人が座り、眼鏡をかける白髪交じりのおじさんと、ボディビルダーみたいに大きな身体のおじさんも座った。

 後ろには側近らしい人達が控え、部屋はわりと人がいっぱいだ。


「……ナギノ様。私は大聖院で聖務官を務める、ファレンと申します。以後、お見知りおきください」


 話を切り出したのは、性別不詳の綺麗な人だ。名前の印象からして、男性なんだろうか?

「こちらは大聖院・神導のパルシーニ。その隣が統制院・院長のコレクラで、最後が騎士団・守星将のゴルジョです」

 聞き慣れない名称が一気に色々出てきて、慌てる。ぼんやりしてると聞き逃しそうだ。

 ファレンは側近へ紙とペンを用意させると、ペンを握って私を見据える。

「まず確認したいのですが、ーーサホノ様としての意識はありますか?」

「……え? 意識? 何の話ですか?」

 ふむ、とファレンがペンを動かしながら、質問を重ねる。

「では、サホノ様が持ち得ていた知識や経験に関する記憶、あるいは情報をお持ちですか?」

「な、何の話か全く分からないので、多分ないと思います……」

「そうですか。……では逆に、あなた自身に関する情報を、簡単で結構ですから、紹介してくださいますか?」

 淡々と質疑応答が続き、あわあわとしながらも、私は一生懸命答える。

「山下 梛乃です。笠山環境大学の2年生で、19、じゃなくて20才です。

 ……ほかに、何を話せばいいですか?」

「いえ、異世界に関する情報は大変興味深いのですが、詳細は後日、改めてお聞きしま……」


「ーー異世界ッ?!」


 話の途中に聞き捨てならない単語が聞こえて、私は思わず声を上げてしまう。しかしファレンは眉一つ動かさない。

「……はい。この世界は『アスレムイト』という名称です。そちらは何ですか?」

「あ、あすれ…? 『世界』は『世界』という名前と言うか……いや、そんなことより異世界って……」


 ーー漫画や小説で、主人公が異世界へ転生や転移するっていうのは、よくある話だ。私も電車の中や、寝る前とかに、時々だけどスマホで読むから多少は知っている。

 でもあれって、あくまで空想上の話じゃないの……?


「……20年前に、サホノ様がお眠りになりました。そしてサホノ様の御霊が、現在はアスレムイトより遥か遠い所で漂っている、ということが判明したのです。

 しかも、微かに感知できた空気の流れの違いから、もしかすると異世界なのかもしれない、という結論に至りました」


 ファレン以外の部屋中の人々が、固唾を呑んで話の成り行きを見守り、私もごくりと生唾を呑み込んだ。


「……異世界という初めて知る場所といい、召喚儀式自体が初めてだったので、あらゆる弊害を想定をしていました。

 しかしそもそも御霊、つまり魂がまさか別の器に入っていて、しかも本来の器である身体と対面しても、何も変化しないとは……想定外でした」


 ファレンは紙に描いて図示してくれる。


 併記される文字は読めないけど、どうも磁石のように考えられていたらしい。

 器と魂が対面すれば、より強い“磁力”を持つ器に、魂は自然と引き寄せられて、統合される……ということだと思う、多分。


「ええと、言わんとしてることは分かりました。……それで、『サホノ様』って誰ですか?」

 私が疑問を口にすると、反対隣に座るおばあさん、パルシーニが静かに微笑む。

「サホノ様は、このアスレムイトにおける神です。私達は、サホノ様の愛と御力によって、生きているのですよ」

「神……? 神様って、普通は目に見えなくて、天界みたいな所にいるんじゃないんですか?」

 ファレンがトントンとペン先を叩いて、「異世界ではそれが常識ですか。こことは異なりますね」と言って、再び紙にさらさらと何か書き込んでいる。


 話によると、この世界の神様は、人と変わらず一緒に生活しているらしい。

 ……前に観たテレビで、外国の“生きた女神“として崇められる少女が、人権問題を問われていたなぁ。あれとは違うのかな?


「我々と同じように生きていると言っても、サホノ様は神ですから、老いることはありません。神としてこの地に降臨なさった時の姿のままでおられます」


 さっき見た、棺の中に横たわる、私に似た姿の女の子の姿が頭をよぎる。


「……そのサホノ様と、私が同じ魂だというのは、何となく分かりました。

 それで、私はこれからどうしたらいいんですか? ……あの、出来れば早く家に帰りたいんですけど……」


 すると、それまでにこにこと微笑んでいたパルシーニの顔が曇り、憂いを帯びたものになる。

「……申し訳ありません。召喚するにあたり、大量の魔石を使用しました。

 同程度の魔石を再び用意すればお還しすることも可能かもしれませんが、戦の機運が高まっている今、現時点ではこれ以上の魔石の使用は避けたいのです」

  「え? じゃあ私、いつ帰れるんですか?」

「ーー我が聖サルフェリオと、ガルメザル帝国の戦争が落ち着くまでは、最低でもこちらにいていただきます。

 今は、これ以上の魔石を用意することができません」

 言いにくそうなパルシーニに対し、きっぱりと言い放つファレン。それを聞いて、私は再び声を上げる。

「えええ……!? お、落ち着くのっていつですか? どれくらいかかりますか?」

 そうですね、と前置きしたファレンは、紙の上にペンを置く。

「ガルメザルとの争いは大小含めて過去何度もありましたが、今回は完全にサホノ様の不在を狙ったものですからね。

 断言はできませんが、恐らく3ヶ月以内には、国境となる大河での前哨戦が予想されます。

 そこでナギノ様が姿と力を示せば、案外すんなりと休戦に持ち込めるかもしれません」

「……力って何ですか?」

「先ほど、ジョア達を吹き飛ばした力のことです。魔石を使用せずとも、魔力を用いた魔法の行使は、唯一サホノ様だけが使用できますから」


 ま、魔法とかあるんだ。一気にファンタジーだ。

 しかも唯一って、もしかしてこれは主人公が敵を無双しちゃう系? え、でもその場合の主人公って、私になるの?


「……あの、私、本当にただの凡人なので、その魔法とやらの使い方を教えてもらったとしても、正直なところ……あまり期待しないでください。

 それでも、もし私が協力することで、少しでも早く終わって……終わったら、本当にちゃんと“帰れる”って約束してもらえますか?」


 私の言葉を聞いたファレンが、片微笑む。

「ええ。お約束します」


 ……映画でも観ているような気分だ。現実感がなくて、にわかに自分の話であるとは思えない。何だろう、さっきジョア達に引きずられた時とはまた違った緊張状態だ。

 私はしばらく口を閉ざした後、唇を結び、ぐっと顔を上げる。


「分かりました。

 ……やります、私。ーー神様、やってみます」



王道というか、ド定番だなあと思いつつ、やっぱり定番が好きなので。

早く帰るためにも、神様として頑張ります。

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