あの人は可愛いものが好きらしい
(2025.8.2 一部修正しました)
部屋の中に常時控える侍女としてエフィナがいて、それ以外の人はエフィナ一人では出来ない作業や、交代要員としてサポートする形で、部屋の外に控えてもらうことになった。
「ではそのように。また何かあれば仰ってください。
面談は以上です。ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
一瞬だけ私立高校の面接を思い出し、どきどきする私を知るよしもなく、ファレンは退室して行った。
侍女達もエフィナへの引き継ぎ等を終えたのか、一旦部屋の外へ出ていく。
扉がぱたんと閉まり、部屋の中は私とエフィナの2人だけになった。
「……突然一人だけ、専属みたいな侍女に指名しちゃってすみません。
教えてもらったり、色々ご迷惑をかけますが、これからよろしくお願いします」
私は席から立ち上がり、エフィナに頭を下げる。
「とっ、とんでもありませんナギノ様! 頭を上げてください!
あたしはむしろ、ナギノ様にご指名いただけて、もう嬉しくて踊り出しそうなんですから!」
“踊り出す“という言葉が唐突すぎて、思わずその通り想像してしまい、私はぷはっ!と笑いがこぼれる。
「ほ、本当ですよ! あたし、子どもの頃から神様に憧れてたんです!
少しでもお手伝いがしたかったから、大聖院に入って……。だから今、とっても感激しているんですよ!」
エフィナは身振り手振りで感動を伝えようとしてくれる。それがとても微笑ましくて、気持ちが和んでくる。
「あははっ、エフィナさんがそう思ってくれてるなら、良かったです」
そう言うと、エフィナがムッとしたような顔になる。ころころ表情が変わって可愛い。
「ナギノ様、あたしにそんな丁寧な言葉遣いは必要ありません。名前も呼び捨てで結構です」
「あー……じゃあ、タメ口でもいいかな?……エフィナ」
「はい! ナギノ様、どうぞよろしくお願いいたします」
私は「エフィナもタメ口でいいよ」と伝えてみたものの、「業務に支障が出るので!」と大反対されてしまった。仕方ないので、せめて部屋の中では、多少砕けた態度で接するということで妥協してもらった。
そうやってエフィナとわいわい話していると、チリンと鈴の音が響いた。エフィナが扉の所へ確認しに行く。
「イオ様が到着されたそうです。お通ししてよろしいですか?」
はい、と返事しかけて、私は何となく身だしなみが気になり、前髪や服のしわを確認する。
それを見たエフィナは笑って、ぱっぱと身だしなみを整えてくれると、「じゃあお呼びしますね」と扉へ向かって行った。
「ーーご用命により、参上しました。この度は、護衛騎士に任命してくださりましたこと、この上ない光栄に存じます。
この命に代えて、ナギノ様の御身をお守りいたします」
イオは私の正面に両膝をついて、右手を胸に添える。
私は慌てて「よ、よろしくお願いします」と応えると、彼に立ち上がってもらうよう伝える。
「イオさん、今更になるんですが……昨日は突然呼び出してしまって、すみませんでした。
そのうえ突然、護衛にも指名しちゃって。……最初に会った時から、本当にご迷惑ばかりおかけして、ごめんなさい」
私が頭を下げようとすると、イオは手で遮り、首を横に振る。
「いいえ、迷惑なんて一切かかっておりません。昨日だって、結局俺はナギノ様の御力によって助けられただけでなく、癒しまでいただきました。
護衛の任命も感謝こそすれ、迷惑だなんて一かけらも思っていません」
そう言って、穏やかに微笑みかけてくれる。その姿に、なぜか胸の奥がきゅっとなった。
私は「ありがとうございます」とお礼を言いながら、目を伏せる。
「……昨日の魔法は、本当にたまたま使えただけなんです。
何で使えたのか、どうやって使うのか、私まだ全然分からなくて……」
このままじゃ私、家に帰れないかもしれないーーそう思うと、心に陰りが落ちる。
「……よくご事情は分からないのですが……そう焦らなくても、いいんじゃないでしょうか?」
わずかな沈黙のあと、私の気持ちを汲み取ったように、イオは言葉を続けた。
「まだ昨日の召喚から、丸1日も経っておりません。
どのような説明を受けたのかは分かりませんが……まずは、ナギノ様ご自身のお身体を、お大事になさった方が良いと思います」
……身体を大事にって、そういえば昨日も別れ際に言ってたなと思い、「どうしてですか?」と尋ねる。
「昨日のご様子からして、ナギノ様はこちらについて、何も知らないまま召喚されたのでしょう?
何も分からない状況で、追いかけられたり、勝手に物事が進んでいくのは……とても、怖いと思いますので」
そう言うと、イオは憂いを帯びた目で私を見つめた。
……もしかすると、彼は私が昨夜泣いていたことに気付いているのだろうか?
私の顔はまだ、むくんでいるのかな……?
「……お気遣い、ありがとうございます。
正直……よく分からないです。怖かったのは本当ですけど、今はそれより、早く帰りたいです」
本音と弱音がこぼれる。
一夜明けても全く現実感が湧かず、未だに映画でも観てる気分だ。
「……ナギノ様が早くお帰りできるように、俺も何かお力になれることがあれば、お手伝いいたします」
イオは慰めるように、優しく語りかけてくれる。
ーー俺も手伝うから、一緒に考えよう。
だから、そんな暗い顔しないで。一緒なら、何とかなるだろ?
そんな伊織の声が聞こえた気がして、喉の奥に熱いものがこみ上げてきた。
だが私は精一杯それをぐっと呑み込み、顔を上げーーちょっと落ち込みそうになる自分を内心で叱咤しつつ、唇を噛み締める。
私を見て、イオが口を開こうとする。が、それよりも先にエフィナが私の両手を、ぱしっ!と掴んだ。
「イオ様のおっしゃる通りです! ナギノ様、あたしにもお手伝いできそうなことがあれば、掃除だって何だってやりますよ!
……来たばかりで帰っちゃうのは、正直ちょっと寂しいですけど」
元気いっぱいなエフィナの、最後に漏れた心の声に、私は思わず笑った。
「ありがとう、エフィナ。イオさんも、ありがとうございます。
……神様なのに魔法の使い方が分からないとか、急いで使えるようにならなきゃ、もう家に帰れないかもしれないって、焦ってました。……でも私、まだ昨日来たばかりでしたね。
ちょっとずつ、向き合っていきます」
あんまりゆっくりしてるとファレンさんに怒られそうですけど、と私が言葉を続けると、イオとエフィナは顔を合わせて苦笑した。
「まぁ……ファレン様は冷静というか、底が知れないというか……少し怖い印象を受けるところがありますね」
ぎこちなく同意するイオに続き、エフィナはぶんぶんと首を大きく縦に振る。
「ナギノ様にこそ多少マシですけど、本当に淡々としてて、冷たい方ですもの。
神導に次ぐ聖務官としては尊敬してますが、何だかすぐに切り捨てられそうで、あたしはちょっと怖いです」
内緒ですよ! と口の前で指を立てて見せる。ひとつひとつの動作が可愛くて、私はくすくす微笑んだ。
「あの年齢で聖務官まで上り詰めた方ですから、有能さに周囲が付いていくのが大変なんだと思います。
でもああ見えて、普段は刺繍や可愛い物がお好きな、意外と女性らしい方で……」
イオが苦笑しながら話すと、私は目を見開いた。
「えっ、ファレンさんって女性だったんですか!?
わ、私てっきり男性だとばかり……」
背もすらりと高くて、ハスキーがかった落ち着いた声だし、それに男性みたいな口調と仕草というか……。性別なんて別にどっちでも良いことなんだけど、私の中では男性だと断定してしまっていた。
そうすると、ファレンはものすごく格好いい女性だ。男役として舞台出演してても、全然違和感がないと思う。ちなみに年齢は40代半ばらしい、全くそうは見えないけど。
「男社会で舐められないように、影で相当努力されたそうですから。
今や肩で風を切っておられますので、間違えても仕方ないと思います」
「……イオさんは、ファレンさんのことをよくご存知なんですね?」
ふと湧いた疑問を口にすると、彼はちょっと困ったような顔をする。
「個人的に、昔からお世話になっているので、少し知っているだけです。それよりもーー」
すぐに話を変えようとするイオを見てーー何となくこれ以上は聞かない方がいいのかな、と私は口を閉ざした。
前話、文字数カウントをうっかり間違えてしまって、えらく短くなりました。編集しようか迷ったんですが、もうそのままにしました。
次は魔石やらのお話。




