異世界の護衛騎士と侍女
(2025.8.2 一部修正しました)
頭を抱えてうんうんと悩んでいると、私の様子をじっと黙って見ていたファレンが、小さく息を吐いた。
「……魔法の使用方法については、ご自身で徐々に見つけていただく必要がありますね。魔石の使用については明確ですから、後日お教えします」
「はい、すみません……」
私は肩を落とし、項垂れる。
「サホノ様はいつでも魔法の行使が可能でしたので、特段の警備は必要なかったのですが……。ナギノ様がそういうご事情なのであれば、護衛騎士をつけた方が良いですね。
……こちらも侍女と同じく、一人だけの方がよろしいのですか?」
「そうですね。なるべく少ない方がいいので、一人だけで十分です」
ふむ、とファレンは側近から紙束を受け取る。
「聖務に特化した暁騎士か、選抜された光騎士か。
同性がいれば最良でしょうが……あいにく女性騎士はそもそも少ないので、この身分に該当する者はおりませんね」
ぱらぱらと紙束をめくる。どうやら騎士の候補リストらしい。
「……ああ、まだ衛騎士の身分ですが、非常に優秀なルーリという者がいます。近々、光騎士の試験を受ける予定です。
昨日、ナギノ様もお会いになりましたよ。棺の間の、扉の前に立っていた女性騎士です」
ああ、私を捕まえようとしてきたベリーショートの人か、と思い当たる。
「……その、我が儘なのは百も承知なんですが……別の方でも、いいですか?」
確かに同じ女性だし、優秀なのだろうけど……クールというか、すごく冷たい印象だった。それに私を捕まえようとしてきた時、めちゃめちゃ怖かったし……。
「ナギノ様の希望が最優先なので、構いません。ただ、他に同性の候補はおりませんね。
もし男性でも良ければ、例えばこのような者とか……」
そう言いながら、ファレンの後ろに控える護衛騎士を指差す。いかにも強そうで、眼光が鋭い。失態を見せたら斬られそうだ。
その後も何人かのリストを見せたりしてくれたけれど、私はそもそも文字が読めないので、添付された写真を見るしかない。
写真は全身が写った証明写真のようで、どの人も強そうだ。全体的にマッチョ率が高い。
……この人は歴戦の戦士っぽい。この人は顔だけ見たら悪人っぽいな……いや、失礼ですみません。
資料をめくっていく中、ふと手が止まる。そこに、見慣れた顔があった。
「……あの、この人はどうでしょうか?」
リストの1枚を摘まみ、ファレンに手渡す。
「……イオ・フィメウ、ですか。
衛騎士ですが、ルーリと同じく光騎士の試験を受ける予定です。実力も家柄も申し分ないですね。
……ですが男性でも良いのであれば、より優秀な者は他にもおりますよ?」
資料越しに、ファレンは私を窺うような視線を送ってくる。
ーー騎士として身分も優秀さも、私にはよく分からない。
でも……昨日、確かに私を助けてくれた。
心の底から私を心配してくれたのが分かったし、恐らく身分の壁も憚らず、ジョアに立ちはだかってくれた。
あれは命令に反した行動だったかもしれない。
それでもーーあの時の彼は、私にとってまさに“神様“のようだった。
「……この人がいいです。彼で、お願いします」
ファレンは少し眉根を寄せたが、すぐに「承知しました」と表情を戻し、資料を片付け始めた。
「では、後ほど呼び出しておきますので、以後は彼が護衛任務に就きます。
そういえば、部屋に置く侍女についても、ご希望がありますか?」
トントンと紙束をまとめ、側近に手渡すと、ファレンは部屋の中にいる侍女達をぐるりと見回す。
護衛については明確な希望があったが、侍女達はみんなベテランで良い人達だ。
ただ、ちょっと歳の差があるから気を遣うところがあるというかーーあ。
「あの、昨日、私の髪を乾かしてくれた赤毛の若い子がいたんです。歳も近そうですし、彼女がいいです」
他の侍女達が駄目とか、決してそういうことじゃなくて……!と慌てて補足する私を横目に、ファレンは白髪交じりの侍女を呼び寄せた。
その侍女は穏やかに微笑んだまま、「エフィナのことでございますね」と教えてくれる。
「彼女はまだ17歳ですが、よく気配りもできて、覚えも良い子です。
一通りの身の回りのお世話なら、こなせるでしょう」
すると部屋の隅に控えていた赤毛の少女ーーエフィナが呼ばれた。彼女が近付いてくると、ラベンダーのような香りがした。
「この者でよろしいですか?」
「はい。……いいですか?」
一方的に指名して嫌じゃないかと不安になる私とは対照的に、目を丸くしていたエフィナは、ぱぁっと顔を明るくする。
「ありがとうございます! もちろんお引き受けいたします。
精一杯、努めさせていただきますね!」
そう言って、エフィナはくしゃっと笑う。
その笑顔を見て、私は自然と笑い返した。
やっと護衛騎士が出せそうです。侍女も決まりました。
次は顔合わせです。




