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追放聖女ですが、白い結婚だったはずの辺境伯がなぜか距離をつめてきます。  作者: es


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06. 再び王都へ

 


「王家から救援要請が来ている。イリス、お前も手伝うように、とのことだ」


 朝食の席で、ルドヴィクは開口一番にそう言った。昨夜、遅くに勅命が届けられたらしい。


「……そうですか」


 イリスは返事をしながら、今の状況──食事を共にするようになった仮初の夫をつくづく眺めた。


 ──結婚当初、イリスは毎回ひとりで食事をとっていた。お飾りの妻だしそんなもんかと思ってたのに、最近、ルドヴィクが朝晩の食事に同席してくる。

 しかも、いっつも物言いたげで、口を開くと説教ばっかりしてくるのは何なんだろう。


 やれ、細すぎるからもっと食えだの、薄着はやめろだの、アストンと仲良くしすぎだの。


 前世の母親だってこんなに口うるさくなかった。

 放置で全然よかったんだけどなぁ……と思う日々だが、それは置いておくとして。


 王家からの要請ねえ。

 ふーんとイリスは半目になった。

 どうせ、ルシアン王子やカトリナが元凶だろう。

 イリスを追放したり、カロン領を流刑地代わりにしたり、好き勝手してたくせに、自分たちの手に負えない事態に直面したら、手のひら返してこっちを頼ってくるのか。

 ずいぶん薄っぺらいプライドだ。


「俺はともかく、お前は必ず同行しろとは言われてない。領地に残っても構わんが」


 ルドヴィクに言われて暫し考える。王家のやり方は非常に癪にさわるけれど、やっぱり答えは一つしかない。


「……色々と思うところはありますが、わたしでお役に立てるなら、同行させていただきます」


 イリスは力をこめて拳を握った。

 自分には力がある。元筆頭聖女としての意地もある。

 なすべきことをせずにいて、魔獣の犠牲が多数出たりしたら、海の底まで落ち込んで引きずってしまうだろう。


 この性格が人につけこまれやすいことも、いいように使われ、過労で倒れがちなことも、一応自覚はしている。でもこれは性分なのだ。仕方ない。

 蜂が蜜を集めるとか、蜘蛛が糸で巣を作るのと同じ。半分は自分のためである。


 やるからには頑張るぞ、と気合いを入れたイリスを、ルドヴィクは眩しいものを見るような目で見つめていた。



 ◇◇◇



 諸々の準備を済ませ、ルドヴィクやアストン、辺境伯領の騎士と共にカロン領を発ち──

 いざ、王都に降り立ったイリスは、沸き上がる怒りを抑えるのに必死だった。


「ホント、どういうことなんでしょう。カロンに向かう時は馬車で二週間かかった道のりが、魔法の転移門を使えば三日もかからない、なんて……!」

「おそらく、ルシアン王子やカトリナとやらの嫌がらせだな」

「やっぱりそうですよねえ!!?」


 転移門を使わせなかったのは、ぜったいにわざとだ。本当に陰湿である。

 座りっぱなしで痛かった尻の恨み、ぜったい忘れないからな……とプンスカしていたイリスだったが、しかしすぐにそれどころではなくなった。


 王都の転移門は、王宮にほど近い王都の東地区にある。イリスたちはそこから移動を始めたが、王宮に近づくにつれ、内臓がぞわぞわするような嫌な感覚を覚えていた。


「王都の様子もなんだかおかしいですね」


 警戒するように、アストンが周囲を見回す。

 街に活気がなく、人通りがやけに少ない。

 魔獣の襲撃が増えたからといって、こうも変わり果てるものだろうか……とイリスの胸に疑問がよぎる。


 王宮がはっきり見える距離まで来ると、イリスは隣のルドヴィクと共に、思わず息をのんだ。


「何だ、これは」

「おかしいです、こんな……」


 ──王宮から魔素が溢れている。

 イリスの目には、黒い靄で覆われているようにさえ見えた。カロンの《魔の森》よりひどいかもしれない。


「何が起こってるの……?」

「とにかく中に突入だ。隊から離れないように気をつけろ」


 イリスに注意すると、ルドヴィクはカロンの騎士団に、素早く移動するよう号令をかけた。



 ◇◇◇



 城門は固く閉ざされていた。

 呼びかけても、内側から呼応する者はいない。

 こうしている間にも、魔素はどんどん濃くなっていく。


「……これでは埒があかんな」


 苛立たしげに舌打ちしたルドヴィクは、おもむろに巨大な火球を生み出すと、「ちょっ……!」とイリスが止める暇もなく、火の塊を門に向けて盛大に放った。

 その威力たるや、凄まじいの一言。頑丈な扉の木製部分が一瞬で燃え落ち、金具は溶けてひしゃげている。

 城門にぽっかりと開いた穴を見て「よし」と頷くと、ルドヴィクは、「突入だ!」と騎士団に号令を下した。

 ──いや、よし! じゃないよね?

 過激な強行突破に目を白黒させていたイリスだったが、置いてきぼりにならないように、慌てて彼らの後について城に突入したのだった。



 ──外から見た王宮も異様だったが、中はもっと異様だった。

 濃い魔素に当てられたのか、使用人たちがそこかしこに倒れている。


「……騎士団の皆さんに守護の神術をかけておきましょう。このままでは、ミイラ取りがミイラになりますから」

「ミイラ……?その例えはよくわからないが、守護の方は頼む」


 しまった、うっかり前世の慣用句を使ってしまった。この異世界にミイラ文化はない。でも、何となく伝わったからいいだろう。

 イリスは素早く聖言を紡いだ。白い光が降りそそぎ、騎士団全員に守護がかかっていく。

 これで暫くの間は、魔素の影響を受けにくくなるはずだ。


 ルドヴィク率いる騎士団とイリスは慎重に城の中を進み、ついに謁見の間までやってきた。

 ここが一番魔素が濃い。扉の隙間から、黒煙のように魔素が吹き出ているのが、イリスにはありありと見える。

 先頭の騎士が扉に手をかけ、命令を促すように振り返った。


「……突入しろ!」


 ルドヴィクが命じると、騎士が扉を押し明け、全員で雪崩れ込む。

 そして飛び込んできた光景に、イリスは目を疑った。


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