転移者、ふたり目!? 謎のイケメンが現れて事態は急展開!
文化祭も終わり、俺ことカケルの平穏(と言っていいのか微妙だが)な日々が戻ってきた。
少なくとも、今日の朝まではそう思っていた。
──が。
「……うそだろ?」
俺の目の前に立っていたのは、金髪碧眼、気品あふれるスラリとした美青年。
その背には、風になびく真っ白なマント。そして剣。
「久しいな、カケル。……いや、芹沢カケル」
「お前、なんでその名前を……!?」
翔――いや、このイケメンは、俺が元の世界で知っていた、ただのクラスメイトだった。
ゲームで言えばモブ。
空気みたいな存在。
なのに、今や完全に、主人公属性を身にまとって登場してきたのだ。
「この異世界に転移したのは、何もお前だけじゃない。俺も、別ルートで召喚された」
「なんでそんな並行世界みたいな設定持ち出してくるの!?」
「王国に認められた正規の転移者として、俺は勇者の資格を与えられた。……お前とは違ってな」
「なんでそんな嫌味全開なんだよ!?」
そして事態はさらに最悪の方向へ。
「ご紹介します。本日より、特別講師としてアストリア学園に着任する、翔先生です!」
「は!? なんで教師枠なの!?」
「王国の要請です♡」
「なに王族のお墨付きでノリノリなんだよ学園長ォォォ!!」
だが、さらに追い討ちがかかったのは――
ヒロインたちの反応だった。
ティナ「……わあ、ステキ。なんだか高貴なオーラがある人♡」
ユリシア「剣筋、見せていただきたいですね。一度、手合わせを……」
リリィ「……カケルさんと違って、余計な隠し事はなさそうな方ですね」
お ま え ら ……!!!
「なんで全員、『ちょっと気になってます』みたいなオーラ出してんの!? 俺のことはどうした!?」
「だって……カケルくん、ずっと選ばないし?」
「決めるって言って、いつも逃げるしね」
「私たちも、永遠には待てませんよ?」
ちょ、おま、やめて、急に恋愛リアリティ番組みたいな空気やめて!!
しかも翔のやつ、どんどん学園に溶け込んでいく。
授業は分かりやすいわ、剣術は強いわ、性格は爽やかだわ、なぜか花の香りするわで、
もうこっちのHPは秒でゼロである。
唯一の味方・カエデ(元攻略不可キャラの毒舌メイド)に泣きつくと、
「……お似合いじゃないですか、翔様とヒロインたち。むしろあなたはそろそろ負けヒロイン側なのでは?」
「メイドなのに毒舌すぎるだろ!!!」
だが、そんな中で一つだけ、気になることがあった。
翔は、時折、何かを隠しているような顔をするのだ。
何かを知っていて、何かを言えずにいるような――
そんな目を。
そして、その日の夜。
俺は翔に呼び出された。
「……話がある。お前にだけ、伝えなきゃいけないことがある」
俺たちは、月明かりの下、人気のない学園裏の中庭で向かい合った。
「この世界はな……二人目の転移者を受け入れた瞬間から、崩壊が始まる仕組みなんだ」
「……は?」
「つまり俺が来たことで、世界はまた壊れ始めてる。お前が一度止めたあの崩壊……もう一度来る」
――まさか、またか。
また選択を迫られるのか、この世界で。
「だが今回は、俺も選ぶ。お前と違って、俺は誰かを幸せにする覚悟がある」
翔の目は、本気だった。
「……それって、ヒロインたちを、誰か選ぶってことか?」
「そうだ。俺は、お前が選べなかった分も、全力で奪いにいく」
カケルの心に、静かに灯る小さな怒り。
そう、これは――
正規の勇者 vs. 非正規の元推しの、恋と世界の奪い合い。
「いいだろ。そっちがその気なら……こっちも引かねぇよ」
こうして、
選ばなかった男と選ぶ覚悟を持った男の、恋の戦争が幕を開ける――!!




