文化祭イベント突入! 異世界でもテンプレ爆発フラグ回収回
「……文化祭、だと?」
朝、目覚めて開口一番にリリィが放ったその一言で、俺の平穏な一日はあっさり終了した。
「ええ、異世界でも学園祭の概念はあるんです。ここは王立アストリア学園、名門中の名門ですから」
「いや待て、まず俺が学園に所属してる設定いつできた!?」
「転移特典です。『全ヒロインルートを開放済みの元攻略対象』として、特別入学枠が用意されてました」
「それ呪われてるやつじゃねぇか!?」
──そう。
異世界に飛ばされ、ヒロイン全員から命を狙われ、ようやく世界崩壊を回避したと思ったら、今度は文化祭イベントが発生したのである。
ここアストリア学園では、年に一度「文化魔術祭」というド派手なイベントが開催されるらしく、
街全体を巻き込んで開催されるのだとか。
「というわけで、カケルは演劇部に参加です」
「は!? 聞いてないぞ!?」
「配役:王子です」
「もうその設定やめようぜ!?」
そんなこんなで、気づけば俺は「演劇部」に強制配属されていた。
脚本は、なんとティナによるオリジナル。
「タイトルはね~、『姫と騎士と亡国の王子 ~運命は、恋と共に~』♡」
え、なんか地雷の香りするんだけど?
「もちろんヒロイン役はわたし♡ そしてユリシアは騎士役。リリィは……うーん、元暗殺者の役?」
「キャラまんまだな!? おい、ちょっと待て、これ絶対俺が選ばれるやつだろ!?」
しかもティナはノリノリで衣装まで用意済み。
「はいカケルくん♡ 王子様の衣装だよ♪」
「このマント、なんかやたらキラキラしてない?てか、刺繍で愛とか書いてあるんだけど!?」
「気づいた? ふふっ、愛の証だから♡」
「やべぇ、もう舞台に立つ前から爆発フラグ立ってる……!!」
──そして当日。
学園の講堂には、魔法によるホログラムや風演出が舞い踊り、超本格的な舞台装置が完成していた。
「まさかこんな本格的だとは……! 予算どこから出てんだよ……」
「魔王城の遺産を活用しました。演劇部OBが王族だったので」
「異世界、予想の遥か上をいくな!!」
開演直前、舞台袖で三人のヒロインたちが、それぞれの衣装をまとってスタンバイしていた。
ティナはふわふわのドレス姿、
ユリシアは銀色の騎士甲冑、
リリィは漆黒のローブに短剣を忍ばせていた。
「今日は演技ですから。刺しませんよ?」
「演技じゃなかったら刺すって言ってるよね!?」
そして幕が上がる。
観客の歓声が響く中、俺の脳内ではただ一言、
(死ぬほど帰りたい)
がループしていた。
しかし──始まってみると、意外にも順調だった。
セリフも覚えていたし、ティナのアドリブもまあ、想定内だったし。
けれど──終盤のクライマックス。
「王子様、わたしを選んで……!」
姫役のティナが、俺に手を伸ばす。
「違うわ。王子を守ってきたのは、この私よ!」
騎士役のユリシアが、剣を抜いて前に出る。
「……どちらでもない。王子が選ぶべきは真実です」
リリィが、ローブの中から光の玉を差し出す。
──ん?
なんかこれ、演劇の脚本にあったか?
【新たな選択肢が表示されました】
──1. 姫を選ぶ
──2. 騎士を選ぶ
──3. 暗殺者を選ぶ
──4. 会場から逃げる
「また出たあああああ!!!」
俺は思わず叫んでいた。
そして会場の観客は、「アドリブか!? すげえ!」と拍手喝采。
「選んで、カケルくん♡」
「ここで選ばなきゃ、本物にはなれないぞ」
「選べないなら、暗がりへ連れて行きますよ?」
……くっそ。どれも怖ぇ!!
けど、もう逃げられない。
だから、俺は──
「今は……選べない!!」
そう叫んだ。
次の瞬間、舞台が爆発した。
マジで。
「爆発エフェクト使うって言ってなかっただろティナアアア!!」
「感情表現が足りないって言われて、火薬増やしちゃった♡」
「演劇で死人が出るところだったわバカアアアア!!」
──こうして文化祭は無事(?)に終了。
観客は大満足だったらしいが、
俺のHPはゼロを通り越してマイナスに突入していた。
そして、舞台裏。
「カケルくん。今日の演技、本気だった?」
「……は?」
「選べないって、本心?」
ティナの瞳が揺れていた。
俺は、何も答えられなかった。




