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選択肢って現実にも出るんですか?俺の人生、バグってませんか?

「ここが街……か」


 石畳の通りに、にぎやかな露店。

 香ばしいパンの香りと、行き交う人々の活気に満ちた空気。

 ようやく「異世界に来たんだな」と実感できる景色だった。


 ……が。


「おいリリィ、なに自然に腕組んでんだよ」


「護衛の一環です」


「俺、護衛されるような立場じゃないからな!? ていうか、お前前回ナイフ抜いただろ!?」


「それはそれ、これはこれです。あと、スキンシップは、好感度が上がると本に書いてありました」


「ラブゲーのやりすぎかよ!!」


 


 そんなわけで、俺とリリィは「外の情報を集める」という建前で街に来ていた。

 もちろん、命を狙ってくる他のヒロインから一時的に逃れるという裏目的もある。


 ……が。


「カケル様~~~~♡」


「もう来たああああああ!!!!」


 


 カランカラン! と鐘を鳴らしながら現れたのは、ピンクの髪をふわふわとなびかせた女神系幼なじみ、ティナ。

 なんかめっちゃ派手なラブレター風の紙束を持ってる。


「これっ、今日のデートプラン♡ 映画館(風の幻影劇場)に、観覧車(魔力浮遊装置)に、あとはね、あの丘の上で『王子様ごっこ』とか……♡」


「ごっこって何!? 俺に王子ムーブさせる気か!?」


「うん♡ さすが察しがいいね、カケルくん♡」


「褒めてない!」


 


 さらに背後から……


「カケル、私は情報収集のために、騎士団詰所へ連れて行くつもりだ」


「……はい、ユリシアまで出たあああああ!!」


 鉄壁ポニテのツンデレ姫、ユリシア。

 俺を連れ回すことに関してだけは、どこまでも積極的だ。


「異世界で生き抜くためには最低限の護身術を学ぶべきだろう? だから今日は……」


「模擬戦!? 俺が!? ユリシアと!? 騎士団で!? 今死ぬの確定してない!??」


 


 そして、ここで事件が起こる。


 


【選択肢が表示されました】


 ──1. ティナとデートに行く

 ──2. ユリシアと訓練に行く

 ──3. リリィと情報収集に専念する

 ──4. 逃げる


 


「……うわ。現実なのに選択肢出た。マジで俺の人生、乙女ゲームじゃねぇか……!」


「ふふ、どうぞ、選んでください♪」


「なぜリリィが笑ってる!? お前このシステムの黒幕か!?」


「違いますよ。これは、あなたの記憶が再構築した幻影です。選ばなければ、時間が止まる仕様です」


「嘘でしょ!? 物理的な選択強制システムとか、ただのギャルゲーじゃなくてホラーゲームだよこれ!」


 


 俺は思わず、脳内でシミュレーションする。


・ティナルート→だいたい抱きついてきて、好感度急上昇 → 最後に暴走 or 結婚申請


・ユリシアルート→訓練=拷問 → 「カケルに剣を持たせたい(意味深)」


・リリィルート→「じゃあ記憶操作して一回殺して巻き戻しますね♡」の可能性


 全部BADじゃねぇか!!!


 


「……あの、時間止まったままなんですけど」


 街の全員が静止したまま、まばたきひとつしない。まるで止まった映像。


 俺だけが、選択肢と向き合っている。


「逃げる」


 思わず、小さくつぶやいた。


 


 そして──走った。


 


「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ティナとユリシアとリリィが、同時に追ってきた。

 三人とも笑ってる。殺意しか感じない笑顔で。


「待ってぇ♡ 逃げるとか、ズルいよぉ♡」


「おとなしく私を選べ!!」


「逃げる選択肢は、バグルートですよ?」


「バグルートの説明いる!?」


 


 商店街を抜け、橋を越え、俺は必死に走る。


 けれどその背後では、三人のヒロインが

 それぞれ、好きという名の殺意を抱いて追いかけてくる。


 どうしてこうなった。俺はただ、普通に異世界で生きたかっただけなのに。


 


 でも……一瞬、胸に浮かんだ。


 選ばなかった彼女たちの涙。

 かつて、ルートを終えたあとの忘却。


 


「──お前ら、全部……覚えてたんだな」


 その言葉が口からこぼれた瞬間、時間がピタリと止まる。


 そして、街の空に浮かぶ巨大な選択肢が、静かに変化する。


 


【最終選択肢が表示されました】


 ──1. 誰かひとりを選ぶ

 ──2. 全員を傷つける

 ──3. ゲームを壊す


 


「……なにこれ」


 でも、たぶん──答えは、もう決まってる。


 このバグった世界で、唯一俺の意思で選べる道。


 


 俺は、静かに『3』を選んだ。


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