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4/6

俺、修道女の家で同棲スタートってマジですか。

「……で、なんで俺、寝起きでお粥作ってんの?」


 朝、聖堂。陽の差し込むステンドグラスが、神秘的な光を放つ中――

 俺はなぜか、エプロン姿でキッチンに立っていた。


 ちなみに後ろでは、銀髪の修道女――リリィが神妙な顔で座っている。

 理由は簡単。熱を出して倒れたからだ。


「……あの、すみません。昨日、ちょっと、張り切りすぎました」


「張り切って短剣抜いた人がよく言うよ。俺、まだ肩震えてるからな?」


「だって、嬉しかったんです。記憶を持ったあなたが……ちゃんと戻ってきたってわかって……」


 ぽそ、と漏らされたその一言は、妙にリアルだった。


 こんな世界がバグっていようと、

 攻略ヒロインたちが全員ヤンデレ化していようと、

 リリィのその「嬉しい」の声だけは、確かに心に響いた。


 ……ああ、俺、またこの子を裏切ったんだな。


「ほら、とりあえず食えよ」


「はい……いただきます」


 リリィは小さく頷き、俺が差し出したお粥をすする。

 そして、ぱぁっと表情を緩めた。


「……美味しい」


「そりゃよかった」


 


 少しだけ、穏やかな空気が流れる。

 ようやく、異世界っぽい癒しパートかと思いきや――


 


「──そこにいるんでしょう、リリィ=ノクス!!」


 バアァァン!! と扉が爆音で開かれた。

 ……まさかの来訪者。ていうか、このタイミングで!?


「ユリシア……!! なんで場所バレてるの!?」


「聖堂で魔力を探知するのは簡単です。あなたが、彼を隠した場所など、すぐにわかります」


 続いて、脇から飛び込んでくるもう一人。


「いたぁ~っ! カケル! 探したよぉ!!」


「ティナ!? お前もかよ!! GPSでも埋め込まれてんのか俺は!」


 


 ふたりのヒロインが、再び俺の前に立ちはだかる。

 しかも、よりにもよって、このリリィのホームで。


「カケル! やっぱりリリィなんかに攫われてたんだ! だいじょーぶ!? なにもされてない!?」


「ひどい言い方ですね。私はただ、彼を正しい記憶に導こうと――」


「はいストップ! その導くって言い方がもう怪しい!!」


「うるさいですね。あなたこそ、無断で婚約を宣言した上に、鉄剣持って襲撃するなんて常軌を逸してます」


「はぁ!? あんなに情熱的なプロポーズしといて、今さら記憶失くしたフリ!? 男ってみんなそう!」


「してないしてないしてない! してねぇって言ってんだろがあああああ!!!」


 


 修道院の朝は、こうして地獄のように始まった。


 


 テーブルを挟んでにらみ合う三人のヒロイン。

 その中心で、俺は胃痛に耐えながら、黙々と追加のお粥を作っていた。


「もー、じゃあさ、順番にお試し交際でよくない? 一週間交代とかで?」


「採用するかバカ!!」


「ふむ。では、まず私から七日間ということで」


「いや、早ぇよ!! なんで合意寸前なんだよ!? せめて俺の同意取ってくれ!!!」


 


 俺の異世界生活は、どこかで道を踏み外してしまったのかもしれない。

 いや、そもそも最初から道などなかったのか。


 この世界で、俺は「推し」たちに命を狙われながら生きていくしかないのだ。


 


 そんな中、リリィがふと、こう呟いた。


「でも……どの選択肢も、すでに記録されているんです」


「え……?」


「この世界は、あなたの選択の後。

 私たちはみんな、あなたと過ごした記憶を持ちながら、それでもあなたを選ぶんです」


「それって……」


「はい。全ルート、既読済み。つまり、あなたは全員に、フラグを立てっぱなしにしたままリセットしたってことですよ、カケルさん♪」


「ごめんなさい土下座するから命だけは……!!」


 


 こうして俺の命がけの恋愛ADVは、ますますドタバタしていくのだった。


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