王国祭、開幕! ドタバタと甘さのカウントダウン
王国最大の祭り――その名も「アルメリア王国祭」
年に一度、国中の民と王族がともに笑い合う、いわば平和の象徴だ。
「さぁさぁ、今日はカケル様とわたくしの公開カップルパレードの日よ!」
朝から全力モードのティナが、やたら豪華なドレスに身を包んで俺を引っ張り回す。
「ちょ、ちょっと待って!? 俺まだ顔洗ってな――」
「男が細かいこと気にしてちゃだめよ♡」
※この国、王族の愛人(仮)はやたらと目立つ位置に立たされる。
でも、やっぱりティナの笑顔は可愛い。
……それが余計にプレッシャーにもなるけど。
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王都中央通り。
音楽と紙吹雪、色とりどりの衣装。
そのど真ん中で俺たちは――民衆に見られながら馬車で登場していた。
「わああああっ!! ティナ様とカケル様だーー!!」
「お似合いすぎて苦しいっ!!」
「尊いしか言えない民の語彙力どうにかしてくれ!!」
まさかのティナ&カケル推し民の登場に、俺の冷や汗は止まらない。
「ど、どうする俺……!?」
「大丈夫よ。今日は私が全部リードするから♡」
そう言って、ティナは満面の笑みで俺の手を握った。
「こ、これが……公式カップルの圧力……!」
……だが、その笑顔の裏に、彼女の覚悟を見た気がした。
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一方その頃、裏路地にて。
「……ふぅん、あんなに堂々と手を繋いじゃって。やるじゃん、ティナ」
リリィが屋台のたい焼きをかじりながら、小さくため息をついた。
「……でも、勝負はまだ終わってない」
手元には――手作りの告白レター。
「今日の祭りの最後、花火の時間に告白します……って。どストレートでしょ?」
リリィは、笑いながらも手を震わせていた。
そしてその背後に、ユリシアの姿。
「……貴様もか。私も同じことを考えていた」
「うわ、びっくりした!? 盗み聞きしてたの!?」
「違う。たまたま同じ屋台を狙っていた。あと、そのたい焼き返せ。私の分だ」
「え、えぇ〜〜!? 恋の勝負もたい焼きも譲る気ゼロじゃん!」
――そして、ふたりは見つめ合った。
ライバル。でも、今は同志。
「私たち、今日で決めるわよ」
「うん。今日、全部ぶつける!」
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そして夜。
王都の空に、花火が打ち上がる。
その頃、俺は城の屋上でひとり、花火を見ていた。
「誰かと一緒に見ればよかったな……」
でも、なぜか静かにひとりになりたかった。
この数週間のいろんな想いが、胸に溜まりすぎていたから。
そんな俺の背に――ふたつの気配が近づく。
「……やっほー、花火、独り占め中?」
「静かでいい夜だな。だが……今から事件が起きるぞ」
リリィとユリシア。
ふたりは、視線もそらさず俺の前に立つと、同時にこう言った。
「私と、もう一度ちゃんと恋してください!」
ドン、と、空に大きな花火が咲く。
その光に照らされながら、ふたりは涙をこらえて、笑っていた。