三人の推しに囲まれて、俺の胃が死ぬ
王族認定カップルになってからというもの、
俺の日常は「スイート地獄」と化していた。
朝、目が覚めると――
「おはよう、カケル。朝のスキンシップ、忘れてないわよね?」
ティナが俺の布団にダイブしてくる。
ふわふわの髪と甘い香り。……目覚めのショックで心臓がバクバクだ。
「ま、待って待って、せめて口をゆす――」
「その前に愛のキスよ。覚悟なさい♡」
「いや! この人、段階をすっ飛ばしすぎィィ!!」
そしてそのまま、強制的に、朝チュン未遂をやり過ごした直後――
「お邪魔しまーす。ふたりきりだなんて、ずるくなぁい?」
リリィがキラキラ笑顔で、窓から侵入してきた。
「え? どうやって!? 王城って普通、警備厳しいんじゃ――」
「恋の力はすべてを超えるのだよ、少年!」
「それ不審者理論ッ!!」
そしてさらにドアがノックされ――
「入るぞ。ふたりの時間だと分かっていて、あえてな」
ユリシアが腕組みして登場。しかもバッチリ決め服で。
「今日は王国間の親善会議があるはずでは……?」
「サボった」
「堂々と!? それ外交問題になるのでは!?」
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朝からカオスだったが、午後にはもっとやばいことになった。
王城主催の恋愛理解促進プログラムとかいう謎の名目で、
俺はなんと――三人娘と同室でお茶会という罠に放り込まれる。
「カケル、今日のお茶は私がいれたのよ。香りと味、どっちも特別だから♡」
ティナが注ぐ紅茶は、確かに香りがいい。
が――
「ちなみに、さっきリリィがこっそり蜂蜜を足してたわよ」
「ちょっ、それ言わないでよティナ~!? 好きな人の味覚チェック、重要なんだから!」
「お前ら、俺の内臓で実験すなあああ!!」
その後も――
・リリィの「膝枕 vs ティナの肩枕」対決
・ユリシアの「私が一番彼のことを理解している」宣言からの心理テストバトル
・なぜかカケルの寝言録音で勝手に盛り上がる会
と、息つく暇もない争奪戦が続く。
「胃薬……胃薬をください……」
俺はソファに倒れ込みながらつぶやいた。
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そんな中、夜。
ふたりきりになった瞬間、ティナがふと静かに言った。
「カケル……私、少し怖いの」
「え?」
「私が王女だから、あなたが選んだんじゃないかって。……本当の意味で、あなたの一番になれてるのかって」
彼女は笑っていた。でもその笑顔は、どこか震えていた。
「私、いつも強がってるけど……独りになるの、すごく怖いのよ」
だからこそ、俺ははっきり答えた。
「違うよ、ティナ。俺が惹かれたのは、王女としてじゃなく――ティナそのものだから」
「……うそつき」
「ほんとだよ。俺、ちゃんと好きだから。ティナの全部が」
数秒の沈黙のあと。
ティナは、俺の胸に小さく額を預けた。
「……じゃあ、ずっとそばにいて」
「もちろん」
その夜、彼女ははじめて自分から俺の手を握ってきた。
震えていた手は、少しずつ温かくなっていた。




