帰れま10(テン)!? 王城恋人試練週間
「じゃあ今日から、あなたたちには、恋人試練週間を受けてもらうわ」
ティナの母上――王国の女王であり、「鉄面の魔導裁定者」とまで呼ばれる女傑――が、にこやかにそう告げた瞬間、俺の胃が痛み始めた。
「……恋人試練ですか?」
「ええ。王族の娘と正式に交際するなら、それ相応の覚悟と相性が求められるの。当然でしょ?」
ティナが「は、初耳なんだけど!?」と怒っていたが、女王陛下はにっこり笑ったまま。
「試練は全部で十種。毎日ひとつずつクリアして、ようやく真の恋人として認められるのよ。頑張ってね♡」
====
【一日目:同棲体験】
「はい、じゃあ今日からこの部屋で一緒に住んでねー♪」
王城の一室に、強制的にふたりきり。
「え、ちょ、ここお風呂もトイレも一緒!?」
「な、なに考えてるのよ母上ー!!(泣)」
初日は何とか無難に過ごした。
……が、ティナのパジャマ姿で心臓が爆発しかけたのは秘密だ。
【二日目:お互いの弱点を公開】
「ティナは、怒るとまゆげが八の字になるところがかわいくて……あ、これ弱点じゃなかった?」
「カケルは、寝起きのとき目が全然開かないし、口半開きでフニャフニャ言うのよ。あれはだいぶアホ」
「やめてえええええ!」
恥ずかしさに転げ回った。
【三日目:共同料理】
「……ティナ、その肉、焦げてない?」
「焦げてないわ! これは香ばしい焼きっていうの!」
「いや煙出てるから!!」
結果、俺が火消し魔法で床の焦げを処理する羽目に。
【四日目:寝起きドッキリ(公式)】
「おはよ、カケル♡」
パジャマ姿のティナが寝起きの俺の布団に侵入。
「ふぁ……ってえぇぇええ!? ちょ、顔近い顔近い!!」
「この反応、最高に面白いわね♡」
たぶん心臓の耐久テストも兼ねていた。
【五日目:恋人ケンカロールプレイ】
「カケルのバカ!他の女とイチャイチャしないでって言ったでしょ!」
「いや、ロールプレイだよね!? ねえ、これロールプレイだよね!!?」
ティナの演技がリアルすぎて泣きそうになった。
【六日目:手作りプレゼント交換】
ティナがくれたのは、小さな手編みのマフラー。
「ヘタクソだけど……あんたが寒がりだから、編んでみたの。文句はなし」
「……ありがとう。俺もこれ作った」
俺からは、手作りのアクセサリーケース。中には、彼女の好きな赤い宝石を入れて。
「……ば、バカ。こんなんで泣かないし」
そう言いつつ、ちょっと目をこするティナ。
……反則だ、それ。
====
こうして毎日、地味にハードで、でもどこか甘い試練をこなしていく俺たち。
ふとした時、ティナがぽつりと呟いた。
「ねぇ、カケル。こんな風に一緒にいると、なんか不思議な気持ちになるのよ」
「うん?」
「私、ずっと恋人ってのは、面倒くさくて、気を使って、窮屈だと思ってた。けど、今は違う。……ちょっとだけ、幸せってこういうのかなって思えてきた」
その笑顔は、試練以上に、俺にとって試練だった。