祭りと、ちょっとだけ甘い夜
王都の大通りには、色とりどりの魔灯が灯っていた。
宵闇に浮かぶ光の粒たちは、星空よりもきらびやかで――
ああ、これが異世界のお祭りなんだなぁ……と、妙に感慨深い。
「……何ぼーっとしてるのよ、カケル」
手を引いてくるティナの浴衣姿は、正直、目のやり場に困るほど綺麗だった。
紅い帯、緩やかに揺れる髪飾り。
普段とのギャップがすごい。
「ちょっと、その顔はどういう意味よ? なんか企んでる顔ね」
「いやいや、感動してただけだから!」
素直にそう言うと、ティナはふっと顔を赤くして、そっぽを向いた。
「……バカ」
それでも、手はしっかりとつないだままだった。
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屋台を巡るデートは、ある意味で予想通りのドタバタだった。
・ティナ、焼きそばの列に割り込みそうになって揉める(※王族バフで何とかなった)
・射的で本気を出して店主を泣かせる(※魔法使用は禁止)
・リンゴ飴に感動して3個買う(※ひとつは俺の分と主張)
ただ、どんなトラブルが起きても、ティナは笑っていた。
それが嬉しくて、俺もたぶん、ずっと笑ってたと思う。
「ねえ、カケル」
祭りの最後、二人で丘の上に座って、打ち上げ花火を見ていた時。
ティナがぽつりと呟いた。
「私、昔からこういうの、夢だったのよ。――誰かと手を繋いで、お祭りをまわって、花火を見るの」
「……そうなんだ」
「けど、こんなにドタバタになるとは思ってなかったけどね!」
笑う彼女の横顔は、花火の光に照らされて、どこまでもまぶしかった。
「カケル。私はまだ、あなたのこと全部分かってるわけじゃない」
「うん、俺も」
「でも、あなたの隣にいると、毎日ちょっとだけ――楽しい。びっくりして、イラッとして、それでもなんか、心が温かくなるの」
言葉が胸に沁みていく。
「だから、お願い。……これからも、ちゃんと私の隣にいてよね」
「もちろん」
そっと、彼女の手を握り返す。
「俺、ティナのこと、本気で大事にするって決めたから」
「……うん」
ほんの数秒、沈黙が流れたあと。
ティナが顔を上げて、俺の頬に――小さくキスをした。
「な、なにその反応!? びっくりしすぎでしょ!」
「いや、初めてだったから……!」
「ば、バカ。そんなに驚かれると、私まで恥ずかしくなるじゃない……」
真っ赤な顔でそっぽを向くティナ。
でも、唇の端には、小さな笑みが浮かんでいた。
打ち上がる花火が夜空を彩るなか、俺たちの距離は、たしかに一歩だけ近づいた。