恋と嫉妬と魔導警察
翌朝。
俺の名は、国王直属魔導調査局のブラックリストに登録された。
理由:「複数の王族級女性との交際・接近が原因で、公的秩序を揺るがす恐れあり」
なんだこれ。マジで意味がわからない。
「芹沢カケル。君に特別聴取を命じる」
厳めしい鎧姿の魔導警察官が、俺の前に現れたのは、朝の食堂。
ティナと優雅な朝食を楽しんでいたその時だった。
「……特別聴取?」
「本件は、王城内外の三名の上級貴族女性の感情動揺、並びに都市構造被害(橋1本、花壇3基)を誘発した一件として記録されている」
完全に俺のせいじゃない。いや、一部あるけど。
「王の命令だ。素直に同行してもらおう」
そう言って差し出されたのは、魔封じの手枷だった。
「……え、待って。これって、犯罪者用じゃね?」
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王国中央魔導庁──その地下に設けられた、通称「静謐室」
無魔力空間で構成された尋問部屋に、俺はポツンと座っていた。
そこに現れたのは、調査局長・アグニ=ザーベル。
顔に十字傷の入った厳ついおじさんだ。
「芹沢カケル君。正直に言ってもらおうか。……どっちの女が本命だ?」
「えっ、えぇ!? その尋問で合ってます!?」
「我々調査局の任務は、王国の安定と平和の維持。三名の姫君が取り合いを始め、街が物理的に吹き飛び始めたら、それはもう災害だ」
言い分はわからなくもないけど、おかしい。すべてのバランスが狂ってる。
「で、答えは?」
「……ティナです。正式に付き合ってます」
「なるほど。では、なぜ他の二人と水辺デートや、爆発騒ぎにまで発展したのか?」
「俺にも聞きたいよ!!」
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数時間後、釈放された俺は、ティナの部屋へと連行(いや、連れていかれた)
扉を開けた瞬間――
「ようやく帰ってきたわね、裏切り者♡」
ティナは、完璧な笑顔を浮かべながら、手に恋愛罰則集なる重たい本を持っていた。
「えっと……ただいま?」
「あなたの罪状、国法じゃ裁けないらしいから、この私が愛をもって裁いてあげるわ♡」
バタン!
扉が閉まった。
俺の悲鳴と、ティナのやや楽しげな叱責が、しばらく響き続けたという。
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翌日。
俺はティナの隣で、王都のお祭り会場に立っていた。
「さあカケル、今日はこの私とちゃんと、恋人らしい一日を過ごすのよ。余計な女の影は禁止」
「……は、はい。光栄です」
ただ、視線を横に向けると、露店の影からこっそりこちらを覗くユリシアとリリィの姿が見えた。
(こいつら絶対、諦めてない……!)
だが、俺の手は、確かにティナの手を握っている。
そのぬくもりを、手放さないと、決めたから。