選択の扉、開かれるのは誰のルートか!?
「選べないことが優しさなんて、嘘だったんだな……」
夜明け直前の空は、ますます不穏だった。
空の裂け目は王都全域に広がり、魔力の流れが乱れ、街の灯りすら不安定にちらついている。
このままでは、3つの物語世界が同時に走り出す。
分岐した世界に、それぞれのヒロインが、正史として閉じ込められてしまうという。
それは、誰も救えないエンドだ。
「……選ぶしかないんだな、やっぱり」
俺は小さくつぶやいた。
背負いきれないはずだったはずの重みが、少しだけ軽く感じられたのは──
ティナ、ユリシア、リリィの覚悟に触れたからだった。
彼女たちは、俺に選ばれたいんじゃない。
俺の意志で、誰かを選んでほしいと願ってくれていた。
「おーい!カケル様!」
階段を駆け上がってくる足音。現れたのは、毒舌メイド・カエデ。
「緊急事態です!リリィ様が、禁書庫に侵入しました!」
「……は?」
嫌な予感しかしない。
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禁書庫──王宮地下の奥深く、かつて魔王戦争時に封印された真実の記録が眠る場所。
物語の因果、世界の構造、存在の核心に触れる危険地帯だ。
俺とカエデが現場に駆けつけたとき、すでに内部は魔力の渦に包まれていた。
「リリィ!!無事か!?」
「来たんですね……カケルさん」
リリィは禁書の魔道書を手に、静かにこちらを見た。
その表情は、いつものふわふわ笑顔ではなく、覚悟に満ちた告白の顔だった。
「もう……全部知ってしまったんです。私たちが、物語のピースにすぎないってこと」
彼女の足元には、広がる魔法陣。
そして、天井には空間転写の裂け目――
それは、「選ばれなかった世界」が分岐を開始した証だった。
「このままじゃ、物語は私たちを切り捨てる。だから私は――自分で終わらせます」
リリィは、禁書の力で、物語の分岐そのものを断ち切ろうとしていた。
「待て、それをやったらお前……!」
「私は、ただの登場人物かもしれない。でも、それでも、あなたに選ばれないことを受け入れたくなかったんです」
その涙に、嘘はなかった。
「でもね……それでも、私は最後にあなたに言いたかった」
リリィは、ほんの一瞬だけ笑って、言った。
「――私は、あなたが好きでした。ずっと、ずっと」
魔法陣が起動する。
分岐と消滅の狭間で、世界が軋む。
「待ってくれ!お前が消えるなんて、そんなの……選択じゃない!」
「だったら――選んでください。ここで、私を選ぶかどうかを」
運命のカウントダウンが始まる。
ティナも、ユリシアも、リリィも。
誰かが選ばれなければ、誰かが消える。
優しさという名の逃避は、もう許されない。
「俺は……」
声を出しかけた、その瞬間。
「待ちなさい、リリィ!」
現れたのは、ティナとユリシア。
光と風を切って、二人が間に割って入る。
「あなた一人で終わらせるなんて、許しません」
「私たちは、あの人を信じたんです。最後の最後まで」
リリィは驚きに目を見開いた。
そして、三人が俺を見た。
――選んで。どんな結果でも、私たちはもう、逃げないから。
俺は深呼吸をし、ゆっくりと目を閉じた。
そして、開いた。
「……分かった。答えを出す」
世界が静まり返る。
分岐が一瞬だけ停止し、物語が息をのんで見守っていた。
俺は、口を開いた。
「俺が選ぶのは――」
その瞬間、頭上の空間が崩れた。
そこから現れたのは――
真っ黒な服を着たもう一人のカケルだった。
「──選ばなくて、よかったのに。お前が選ばなければ、ずっと続けられたのにさ」
まさかの、もう一人の俺の登場。
それは、かつて選ぶことを拒み続け、別の世界線で狂ってしまった俺だった。
「物語の崩壊は止まらないよ。君が誰を選んでも、誰かは壊れる。だったら――全部、壊しちゃえば楽になる」
新たな敵。
そして、選択の正念場。