選べない男、モテすぎた結果命の危機再来!?
告白祭から数日。
学園内には、ある意味、台風が通り過ぎたあとの静けさが広がっていた。
翔の告白、ティナの保留、そして俺・カケルの飛び入り爆弾発言。
あれだけの騒ぎを巻き起こしておいて、何事もなかったような平常運転……には、ならなかった。
「……最近、なんか冷たくない?」
俺は思わず、ヒロインたちの背中に向かって呟いた。
ティナは以前より口数が減り、
ユリシアは剣の稽古に集中しすぎて目を合わせてくれず、
リリィに至っては、気配を消すスキルを習得したのかと思うほど姿を見かけない。
──これが、全方位に手を出さずにいた男の末路か……!
「おはようございます、カケル様」
唯一、今でもフラットな態度で接してくれるのは、毒舌メイド・カエデだけだった。
「おはよう……カエデ。あのさ、俺、なんかやらかした?」
「今さらですか? 全部では?」
「お前はもうちょっと慰めとかを学べ!!」
そんなある日の放課後。
俺はまたしても、呼び出しを受けた。
しかも今回は──三人同時。
ティナ、ユリシア、リリィ。
三人が、それぞれ別の場所に俺を呼び出してきたのだ。
「これ、もしかして……三択フラグ?」
いや違う、むしろこれは、
──死の宣告では?
「さて、どこから片付けようか」
恐怖で震える足を引きずりながら、俺は最初の呼び出し場所、中庭へ向かった。
待っていたのは、ティナ。
金色の髪を風になびかせながら、じっとこちらを見ていた。
「……来てくれて、ありがとう。カケル」
「お、おう」
「聞かせて。あなたがどうして、誰も選べないって言ったのか。その理由、ちゃんと知りたい」
真剣なまなざし。
逃げられない。逃げちゃダメだ。
俺は深呼吸して、言った。
「俺は……怖かったんだ。誰かを選ぶってことは、他の誰かを選ばないってことだろ?」
「…………うん」
「それが、あまりに残酷すぎて……俺にはその資格、ないと思った」
ティナは、少しだけ目を伏せ、そして静かに笑った。
「やっぱり、優しいね。カケルは。でも、それってずるいとも思う」
バシィッ。
心にダメージ。
「だから私は、答えを急がない。でも、いつかまた聞かせて。そのときは、ちゃんと選んで」
「……わかった」
別れ際、ティナはそっと俺の手を取った。
「ちなみに、翔さんの告白は、断るつもり。私は……好きな人から告白されたいから」
残された俺は、やっぱりこう思うのだ。
生きててよかった。
が、まだ終わっていない。
二人目、剣道場へ。
待ち構えていたのは、ユリシア。
彼女は無言で一本木刀を投げてきた。
「……どういうこと?」
「語るよりも、打ち合いましょう」
「なんで!? 話そうよ!言葉って大事だよ!?」
「心をぶつけるには、まず腕からです」
そして、始まる恋の打ち合い稽古。
木刀が激しく交わされる中、彼女の一撃が、俺の肩をかすめた。
「痛っ!? それ本気じゃない!?」
「あなたの迷いに、私も惑わされていた。だから確かめたい。今のあなたに、剣を交える資格があるのかを!」
物理で愛を量る女、強し。
しかし、10分後には俺は床に転がり、彼女は微笑んで言った。
「カケルさんは、逃げなかった。だから、私はもう……迷わない」
「え、つまり……?」
「もう少しだけ、信じてみます。あなたが選ぶ日を」
そして、最後。
三人目の指定場所、図書塔。
待っていたのはリリィ。
開口一番、こう言った。
「……さっき、翔さんに会ったんです」
「え?」
「『君はカケルにはもったいない』って言われました」
「うわぁ、めっちゃ言いそう……」
リリィは淡々と続ける。
「でも、そう言われて気づいたんです。私は、カケルさんに、もったいなくされてるのが好きだったって」
「お、おう……?」
「ちゃんと迷って、ちゃんと私を見てくれる。そこが……ズルくて、でも、好きなんです」
そう言って、リリィは俺の手を握った。
「でも、これが最後の猶予。次に逃げたら、私はあなたを……毒で眠らせてでも連れ去りますからね?」
「めっちゃ重い脅迫じゃない!?」
こうして、三者三様の思いを受け止めた俺は、ベッドに倒れ込む夜。
「……選ばなきゃな、本当に。いつかは」
──そしてその夜。
不穏な地鳴りが、遠くの空で鳴り始めたことに、俺はまだ気づいていなかった。
それは、かつて止めたはずの世界崩壊の再起動。
そして、俺の選択がこの世界の運命を左右することになるという、残酷な現実だった。