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第二章 新天地(4) 独立した村(1)

ティアを擁した一行は一月(ひとつき)ほどの旅程で目的地タンカの近くに着いた。

 その村は確かに大きく、その規模の割にはまわりの諸侯にも支配されてはいなかった。

 「いい所そうですね。」

 まずレンジャーの一人コーキーが口を開いた。

「百人あまりが押しかけるんだ、先ずは村の意向だな。我等を受け入れてくれるかどうか。」

 案内人(ガイド)の一人がラルゴとボルスの下へ呼ばれ、村中への使者として仕立てられた。

待つこと数時間、村長(むらおさ)からは会うとの返事を得た。

 「ボルス、一緒に行ってくれるか。」

 ラルゴが促し、ボルスがそれを承諾する。

 村長(むらおさ)の家、タンカの主立った者達が集まっていた。

 「お前達は戦えるか。」

 村長(むらおさ)の最初の質問がこれだった。

 「戦えるが。」

 当然というようにラルゴがそれに答えた。

 「兵士もいるようだが。」

 「約百人・・全てだ。」

 「この村のために戦ってもらえるか。」

 「ここに住むのであれば当然だろう。」

 そこまで話すと、

 「ここは何処にも支配されていない独立した村。」

 村長(むらおさ)はこの村の由来について語り出した。


×  ×  ×  ×


 この地は豊饒の地、かつては豊穣と愛の女神ウシャスに護られた地と言われた。それだけに北西の国ゴーセス侯国、北東のベーリン王国、東の公国ブラウニウス、この三国の争奪の中にあった。毎日のように何処かで戦闘があり、いつものように血が流れた。

 百数十年程前、それが突然止んだ。なんでも争いを起こすたびにこの三国が魔物に襲われだしたらしい。

 この村から歩いて五日ほど離れた所に深い森がある。木の実や野草が採れ、多くの動物も住んでいる。昔はこの森に入り自然の恵みを得ていた。それが三国の争いが止んだ頃からこの森に入った者達は帰ってこれなくなった。

 魔物が棲んでいる。誰ともなくそう噂しだし、誰もその森に入ることはなくなった。

 三国を襲ったのもそこに棲む魔物、との噂も立った。

 三国の為政者もその噂を恐れ、タンカの村に手を出さなくなった。

 なぜ魔物は戦いを止めさせようとしたのか誰も知らない。ただ、年老いた巫女が現れ、いずれタンカに光が降りる。あの村に手を出せば天罰が下る。と触れ回ったのは確からしい。

 それからこの村タンカは独自の発展を遂げた。

 村と言うには多くの人が住み、その領域も格段に広い。今は村を囲む城壁さえ造ろうとしている。


×  ×  ×  ×


 「最近、魔物が出なくなった。との噂が立っている。そうであればまた戦いが始まる。

 我々はこの村の政治は今まで通り自分達で執り行うことを希望している。

 それには戦わなければならない。

 あんた達はそれに協力できるか。」

 「応。」

 と、ラルゴが答え、

 「我等は村の外でその戦いとやらの警護に当たる。

 明日こちらから使者を出す。詳細はそいつと決めてくれ。」

 と、締めた。


 ラルゴのテントに集まったのはラルゴの他にボルスとデルフ。その二人を前に、

「さて、ああは言ったものの誰を使者に出したものやら。」

 と、頭を抱えて見せた。

 「俺は無理だぞ。」

 まずデルフが声を上げ、ボルスの顔を見た。

 「俺もだ。交渉ごとは苦手だ。」

 「俺も同じだ。だから今日は引き上げてきた。」

 行き詰まったところで、

 「ヨゼフはどうだ。腕は立たんが、弁が立つ。」

 と、ボルスが言い出した。

 「レンジャーか。弁が立つとはどれ位。」

 「昔、ブリアント王に出す報告書は殆どあいつが書いていた。それに直接の報告の時も俺はあいつを連れて行っていた。

 いつも上手く話していたよ。」

 「面白いかも知れんな。そいつを呼んでくれ。」

 ヨゼフがテントに入って来ると

 「お前をタンカへの使者にしようと思う。」

 ヨゼフはきょとんとした顔をし、生返事を返した。

 「お前が行ったら何を決めてくる。」

 たたみ掛けるラルゴにヨゼフはちょっとの間考え、

 「私が使者としていくのであればティア様も一緒に行っていただきたい。」

 「ティアを連れて行ってどうする。」

 「ティア様は臨月が近いはず。まずティア様の産屋(うぶや)を確保して貰う。」

 ラルゴの顔に喜色が浮かび、

 「使者はお前に任せるよ。すぐに準備してくれ。」

 と、即断した。

 ヨゼフがテントを出て行くと、

 「今日の村長(むらおさ)の話、色々と腑に落ちないことがある。ボルス、調べてくれないか。」

 「それなら得意だ。」

 ボルスが笑い、

 「俺と俺の部下、暫くここを離れる。」

 と、言ってテントを出て行った。


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