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第四章 齟齬(60) 黄泉の森

「西の森から魔女が来ました。」

 バーローがランダに伝える。

 「魔女・・・」

 ランダが怪訝そうな貌をする。

 「サロメ・・というとか。」

 「ほう・・・

 会ってみよう。」

 男を(たぶら)かしその魂までを(くら)うという美しい鬼女サロメ。それがまたなぜ。

 薄衣を纏った半裸の女がランダの前で優雅に頭を下げる。

 「何をしに来た。」

 「頼みがあって参りました。」

 「頼み・・・」

 はいと美しい声で返事をしてサロメは続ける。

 「ここからタンカを挟んで西の森、昔から私達はそこに住んでいました。」

 ランダは顎をしゃくって話しの先を続けさせる。

 「最近その森の内懐にロジーノと言う小さな村が出来、そこから僅かではありますが結界が放たれています。

 その後ろには、多分賢者と呼ばれる者が・・・」

 「住みにくくなった。だからそれを倒す手伝いをしろって言う訳か・・・」

 ランダは暫く考え、

 「いっその事こっちに引っ越してこないか。お前の眷属も連れてな。」

 しかし・・と言いかけるサロメにランダがたたみ掛ける。

 「タンカという町、多分その賢者とやらの後ろ盾もあって大きくなったのだろう。

 そして爛熟の兆しを見せている。

 それは私にとって商売の種となる。それを潰すことは出来ん。

 それにこの館は広い・・・」

 ランダは手を回し館を指した。


 この館に一族を連れて押し寄せた時、既にネルガルは消え去っていた。

 苔生した壮大な館を配下の者達を使って自分が住めるように美麗な姿に戻させ、黒い森でしていたように魔物の配置もある程度一応済ませていた。

 ラルフには当初の予定通り農夫、狩人として七人の男が付き、クー・シーはランダのペットとして側に置き、三匹のアンシーリーコートは館の周りの警戒に、ラクシャーサは自分の配下である五体の屈強な鬼で冥界の狼犬五頭のガルムと供に広大な森全体の警戒に当たり、ユアニは森に住み空中からの警戒を怠らなかった。

 この壮大な館に住んでいるのは執事のバーロー、ランダの服を織るアリア、それらの身の回りの世話をする三人のシルキー、今はランダの女愛人となったアリスとそめ、ランダの夜の相手をするニーコダマス、将来娼館を造ることとなるサビーネとガルフィ、それに客人、バルディオールとジャンクだった。


 「ここは広いからねぇ・・お前を迎え入れても部屋には困らない。それにここ“黄泉の森”の守りもいささか手薄だ。そこにお前の眷属を使う。」

 ですが・・尚も言いかけるサロメにランダが被せる。

 「それともこのまま西の森とやらを追い出されて果てるかい。

 私はしょっちゅう人買いの旅に出る。その間のこの森の支配をお前に任せる。

 悪い条件じゃあないはずだが。」

笑うランダにサロメは遂に頷いた。

 「それにお前にいいことを聞いたよ。」

 ランダはバーローに目配せをした。

 「森に村、面白い考え方だよ・・用事を持ってここに入ってくる者達をそこで吟味する。

 もてあまし者もいるからね・・そこで使う。」

 そこにバーローに連れられたカーツが入ってきた。

 「お前、村を造んな。」

 ランダはカーツの顔を見て唐突に言った。

 「森を開いてその村までの道を造る。その為の人集めは私がする。

 村が出来たら森に入って来る者達の用をお前が聞き、それをユアニが私に取り次ぐ。その仕事さえこなせば女を抱こうが酒を喰らおうがお前の勝手にやっていい。」

 お払い箱か・・と言う顔でカーツは渋々頷いた。

 「但し、逃げようなんて気は起こすんじゃないよ。

 逃げればお前を待つのは死だけだよ。」

 ランダはカーツの顔を見てニヤリと笑った。


 サロメは西の森の館を後にした。それに付き従うのはトウコツ、ヤクシニー、ターラカという魔物だった。

 トウコツは凶獣アツユと自分と同じ怪物(モンスター)

である多くの女郎蜘蛛と凶獣アルミラージを率いて、ヤクシニーは自身の眷属ヤカーを中心にベイコク、オラクルスを、ターラカは黄泉醜女と既に警護の任に就いている黄泉戦を使って“黄泉の森”の警護の役に宛がわれる。そのターラカの副官般若がそれらを取り仕切っていた。

 東の森“黄泉の森”を目指すサロメ達の前に一人の男が目にとまった。

 「行ってごらんなさい。」

 サロメは黄泉醜女(よもつしこめ)に声を掛けた。黄泉醜女は自分の配下黄泉戦(よもついくさ)を何体か連れそれに迫っていく。

 「何をしている。」

 サロメの一行が通ると聞いて普通の人々は全て家の中に隠れている。にもかかわらずこの男は・・・

 いかにも男臭い顔をしたその男は剣を抜き、

 「魔物退治だよ。」

 と、不敵に笑った。

 黄泉醜女の貌に怒気が奔り、まず黄泉戦が手の槍を伸ばした。が、その穂先はあっさりとその男の盾に弾かれた。

 「たいしたことはなさそうだな。」

 男はあっさりと黄泉戦の一体を屠った。

 怒気を発した黄泉醜女が自分の部下と供に手を出すが、その男には通用しない。

 サロメの側からヤクシニーが前に出ようとするのを彼女が止める。

 「私が行きます。」

 男の前に薄衣を通して身体の線が全て透けて見える衣装を纏った妖艶な女が立った。

 その女に対しては男の剣も全く用をなさない。挙げ句にとろんとした眼でサロメを見た。 「名前は」

 「名は・・ラッツィオ・・・」

 夢見るような眼で男が答える。

 「私達と一緒においで。」

 サロメが柔らかく誘いかけるのに男が頷く。 「魅了(チヤーム)などでなく食い殺せば・・」

 「ランダは男が欲しいと言っていた。これは手土産だよ。」

 それからは何ごとも無くサロメ達は黄泉の森に入りそれぞれの役割に就いた。


×  ×  ×  ×


 「サロメが森を出ていきました。」

 「これでここセイン・ヴノを守るロジーノも安泰。」

 「いいえまだです。」

 「そう、空白地が出来る。」

 「森に他の魔物が棲み着けば・・・」

 「結界を・・」

 「それよりいい手が在ります。」

 七賢者はまた策謀を練り始めた。


×  ×  ×  ×


 「生きているようです、この女。

 名はティアと言います。」

 帰ってきたシャムハザがランダを前にバルディオールとジャンクにそう伝えた。

 「では・・・」

 頭を下げるバルディオールにランダが革袋を投げた。受け取った革袋はずっしりと重い。

 「礼だよ、金と銀、銅銭も入っている。」

 その日のうちにバルディオールとジャンクは黄泉の森の館を立ち去った。



第一部 完 

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