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第四章 齟齬(57) 人買い再び(3)

 ジャンクはその躰に似合わず小食だった。朝は一番に起き、まず自分の杖を使い棒術の稽古をした。たまにその相手をする者もいたがジャンクの前に長く立てる者はいなかった。

 「俺達はアルカイには入れない。」

 バルディオールの言葉にランダはその理由を訊いた。

 「ガーディアンというあそこの兵士を叩きのめした。」

 そうかい・・とランダは頷きジャンクが持つ似顔絵の複写を何枚か造った。

 「シャムハザ、調べておいで。」

 ランダは三人の男と供に紳士風の男シャムハザを送り出した。

 「私達はここから北に向かうよ。」

 目指すは魔王が棲むという北の深い森。

 「力を借りるよ。」

 ランダはバルディオールに軽く片目をつぶってみせた。

 森に踏み入ると辺り彼処(あたりかしこ)と人と言わず動物と言わず、その骨が散乱していた。

 「まるであの世ですね。」

 侍女の一人アリアの言葉に、

 「あの世・・黄泉の国・・・“黄泉の森”だねここは・・

 私が住むにはふさわしいかもね。」

 ランダが笑いながら続けた。

 その笑いに誘われたのか木々の枝がガサゴソと動く。

 「グレムリンかい。」

 ランダが笑い。

 「ガルフィ、三人を連れてお行き。

 カーツ、お前は自分の部下。」

 ランダの声に老婆と戦士が飛び出す。

 「お前達はそのまま斥候だよ。」

 ランダは次々と指示を出し、

 「あんたらは勝手に動いていいよ。」

 と、バルディオールとジャンクを見、

 だけど弱い者の相手はしないでいいよ・・とも付け加えた。

 老婆の本来の姿は鬼女ハッグ。彼女の階位(レヴェル)はグレムリンを相手にしない。そしてランダの(ジン)を受け妖力を持ったカーツもまた。更にそこに魔力を持つアリスも参加した。かたが付くのに長い時間は掛からなかった。

 それからも低級な魔物が現れたが斥候と成ったガルフィとカーツの隊で片付いた。

 「歯ごたえがないねぇ・・私の部下になりそうな者もいないし。」

 そこに老婆の悲鳴。駆けつけるランダの眼に飛び込んできたのは背に小さな五つの六角太鼓を背負い、手には薙刀を持った美女、夜叉。その周りには夜叉が引き連れる般若が数体控えている。

 般若の形相は恐ろしい。大きな目は鋭い眼光を放ち、口は耳まで裂けている。その口からは鋭い牙が見え隠れし、今にも生ける者を食い殺しそうに見える。

 「これはこれは・・夜叉様のご降臨かい。」

 ランダは般若の姿を見ても笑っていた。

 夜叉はそれに怒りを覚えたのか見る見るその形相が変わっていく。

 眼光は血の色に爛々と輝き、牙を剥き出しにした口は裂け上がっていった。

 「いい獲物だねぇ。」

 その姿を見てランダが更に笑う。

 「どうだい・・私の配下に成らないか。」

 そう言うランダの横に二人の男が悠然と立っていた。

 「どっちを指名する。」

 ランダは尚も笑いかける。

 「俺が行く。」

 夜叉の返事を待たず、バルディオールがズイッと前に出る。

 「斃せるのか。」

 「多分な。」

 ジャンクが問いかけるのにバルディオールは笑って頷いた。

 「殺すんじゃないよ。」

 それにランダも笑いかける。

 怒りのあまり夜叉の廻りで妖気が渦巻く。

 「いいねぇ・・気に入ったよ。」

 ランダがズイッと前に出る。

 「お前は般若を相手してくれ。」

 ランダはバルディオールに顎をしゃくった。

 「この女の相手は私だよ。」

 ランダは夜叉に正対した・

 「もう一度言うよ・・私の配下に成らないか。」

 ランダは笑いながら夜叉を睨んだ。

 暫くの睨み合いの後、

 「解った。」

 ランダの眼の力に圧された夜叉が項垂(うなだ)れた。

 「それじゃあ般若達も戻しな。」

 夜叉が両手を拡げると般若達は次々と消えていった。

 「闘わないのか。」

 バルディオールが残念がるような、ホッとしたような複雑な表情を見せた。

 「お前、魔物とは・・・」

 「まともには闘ったことはない。」

 ランダの声に、と、バルディオールが答えた。

 「この先、魔族も出るだろうから、そいつ等で腕試ししてみな。」

 そしてランダはまた笑った。

 「魔族は配下にしないのか。」

 「バーローとシャムハザで十分だよ、あんな汚らしい奴等・・美しい人の姿を採れるサビーネみたいな奴なら歓迎するけどね。」

 ランダは良く笑う。その笑顔は妖艶な時もあれば、凄愴な時もある。その笑いに騙される男や女もいれば、その顔を見ただけで服従する魔物もいる。夜叉は後者だった。

 「名前は。」

 「そめ・・・」

 今は人の姿に戻った夜叉がか細い声で答えた。

 「お前ががなぜそんな風に成ったのかは訊かないよ。

 これからはずっと私に仕えることだね。」

 そめはそれに首を縦に振った。

 「さて、では質問だ・・ここにはどんな魔物が居る。」

 「魔族が多いです。

 その首領が魔王ネルガル。そいつの配下が辺り構わず出没します。その為、私達鬼族、それに獣族は隅に追いやられました。」

 「お前の他に鬼族は。」

 「邪鬼ラクシャーサとラケー。」

 「私の眷属みたいな者か・・獣族は。」

 「ストーンカ・・その他にも・・・」

 「弱いのはいらない。

 トウテツが斃されたという、黒い森のラミアの所に送るか。」

 ランダは思惑げに言った。

 「案内しろ。」

 「ですが・・・」

 「確かにな・・お前ではラクシャーサに斃されるか・・

 あんた達・・・」

 ランダはバルディオールとジャンクを見た。

 「そめと一緒に先に立ってくれ。」

 その言葉にカーツは俺が・・と言う顔をしたが、無理だよ。とランダは軽く一蹴した。


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