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第二章 新天地(3) 再会

 そのイシュー。港町ラフィンウエルをディアス達が着く前に発ち、そこから遥か北東の山地を目指していた。

 父からの書簡に依れば深い山中の広い谷間に国を興すとあった。

 その地は周囲を岩山に挟まれ、東の断崖から清浄な水が蕩々と落ち、西に向け開かれた月の谷より遥かに広い谷・・と言うより盆地。

 滝の水は泉を成し、そこから流れる清水を引き、それを中心とした王宮を造っているという。

 人族とは一線を画し、エルフ族が創る平和に暮らせる国、新しいルミアス王国がそこにあると。

 旅の日数約二ヶ月、もう少しでその地に着くはず。兵士達は家族との再会を楽しみに、思わず足が急ぐ。

 前方に賊あり。・・・のんびりとした気持ちを引き裂く、先遣隊からの使者の声が響く。

 「人数は。」

 「二、三十人。武装しています。」

 イシューは案内人(ガイド)を呼びここいらに住む者のことを尋ねる。

 「アッティラ族の野盗でしょう。野蛮な部族です。」

「迂回する。」

 イシューが全軍に指令を出す。

 「叩き潰せば・・・」

 誰かが言う。

 「もう血は見飽きた。」

 イシューが苦い顔をする。

 「あとの旅人の災いになるぞ。」

 馬を飛ばし追いついてきていたダイクの声がそれを咎める。

 「お前はあまり人との戦闘に参加してないからな。

 もう殺戮はたくさんだ。」

 エルフの軍は大きく迂回した。それをどう勘違いしたのか野盗の一団が追いすがってくる。

 「放っておけ、こちらから手を出す必要は無い。」

 「後ろ、追いつかれます。」

 そう言う端から後方が乱れだした。

 「足が速いな。

 後方、陣を敷け。中間部は散開、ダイク指揮を頼む。前方の我等は迂回して敵を包む。

 なるべく殺傷はするな。」

 戦い慣れた軍はあっと言う間に賊を槍衾(やりぶすま)で囲んだ。

 その中で三十人近い賊が手を合わせる。

 「命だけは助ける、追ってくるなよ。」

 イシューは賊の武器のうち短剣を除き全てを取り上げた。


 それから二十日ほど、イシュー達は山地の麓に拡がる台地の下に着いた。

 「台地に炊煙が上がっている。斥候を出す。」

 案内人(ガイド)の目には見えないものがイシュー達エルフの目には見えている。

 「ここらに住む部族は・・・」

 「たぶんヤフー人です。未開の部族でつい最近、火を使うことを覚えたらしい。」

 「最近・・

 この地にはどれ位の部族がいるのだ。」

 「俺が知っているだけで十数種。ラフィンウエルの近辺は発達した国がありますが。そこから離れると国と言うほどの規模はありません。しかも北に行けば未開の部族が多くいます。ヤフー人もそんな人種の一つです。」

 「人種・・・」

 「そうです。部族というのではなく、人そのものが違います。」

 「そのヤフー人は最近火を使うようになったと言ったが・・・」

 「はい、つい最近だと聞いています。」

 「なぜ突然。」

 「それは私にも判りませんが、彼らはなんでも、“白い神”が舞い降りたと言っているらしいです。」

 「白い神・・・」

 「薄く輝くような白い衣をまとい、肌の色も透き通るように白い人種らしいです。」

 「そうか・・・」

 イシューは暫く考え、

 「案内ご苦労でした、ここまでで結構です。」

 と、報酬を案内人(ガイド)に手渡した。

 「鳩はいるか。」

 「これが最後です。」

 ミッドランドの港町ルキアスにルミアス王ブリアントが残していった連絡用の鳩は三羽。それをその地で旅立つ前に放し、ラフィンウエルを発つときに放した。そして最後の一羽が大空に舞い上がり東へと飛んでいく。

 「なにを考えている。」

 「白い神・・それはたぶん父達。ヤフー人に文明を教えることと引き替えに、ここらに安住の地を得たはず。

 暫くここで連絡を待つ。もし連絡が無ければ新たな国を興すだけのこと。」

 「野営の準備をさせろ。見張りは四直。」

 イシューと話していたダイクが従者に声を掛けた。

 「半月だけ待つ、それで連絡が無ければ、ここを去り、国が創れそうな場所を探す。」

 それからは近くの森に入り、木の実や野草を集め、狩りもした。そんな生活が過ぎて十日以上、台地の上にエルフらしき影が見えた。

 その人影が台地を下りてくる。

 「イシュー。」

 声が届く所まで来た。

 「ラファルか。」

 ダイクやティルトと同じ幼なじみの友。いつ以来か・・・ダイクも走り出し、三人が強く抱き合う。

 「ティルトは。」

 「月の谷に残った。」

 ラファルの声にイシューが答える。

 「戦いはどうなった。」

 「ディアスと共に戦い、勝った。

 多大な犠牲は払ったが・・・」

 サムソンの死。

 そしてカミュは邪神との闘いに命を落とした。

 その他にも名も無い戦士の絶叫、怒号、そして・・・。

 敵であれ味方であれ、思い出せば幾つの命を犠牲にしたか。

 ディアスの気持ちも解る。

 自分も・・・もう血は見たくない。

 その気持ちはイシューも同じ。

 だが・・自分は国を引き継ぐ者。ディアスのように世を捨てるわけにはいかない。

 色々な感傷が一気に胸にこみ上げてくる。

「父は・・王は達者か。」

 「お年は召されましたが、お元気です。」

 「では案内して貰おうか。」

 イシューは王子の顔を取り戻した。

 広々とした台地に登るとそこにいたのは・・・

 人種・・確かに人種が違うのだろう。

 大きな体は浅黒い肌に覆われ、男も女も皮の腰巻き一つ。顔を見ればドングリ(まなこ)にひしゃげた鼻、厚い唇の大きな口でニヤニヤ笑っている。そんな人々がイシュー達の姿を見て大地に平伏(ひれふ)す。

「ヤフー人です。

 私達を神だと思っています。

 今は幾つもの集落を造り、新しい月の谷の入り口を守ってくれています。」

 新しい月の谷、その入り口は広くその中も広々としている。谷と言うより盆地、その表現の方があっているかも知れない。

 入り口の両側の山にはまがいなりにも砦がありその奥にも砦造りの館、王宮までは三つの砦を越し、四日を要した。


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