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第四章 齟齬(55) 人買い再び(1)

 「何処かないもんかねぇ、安定して住める所が・・・

 森が深いと聞いてカーター・ホフの森に行ってみれば妖精共が先に住んでいやがる。」

 「昔のように・・・」

三十過ぎくらい、黒いドレスの妖艶な女に農夫のような男が言った。

 「ぶんどるってか。・・無理だよ。

 その為にはあの森の後ろの奴と戦わねばならなくなる。」

 「何が住んでいるんだ。」

 小さな男がそれに重ねて言う。

 「まあ、そこに住んでいる奴は斃せる。だが強いんだよ、その仲間が・・・そいつには私でもなかなか勝てないよ。」

 「有尾人なんかが住んでる森ではどうだったんです。」

 「貧しすぎて金にならない。」

 自分よりも若そうな、これも妖美な女に首領格の女が答える。

 「人買いだけでも・・・」

 言いかけた老婆をその女が睨む。

 「私ともあろうものがこんな垢じみた服を着て暮らしていけると思うのかい。」

 老婆はビクッと肩を潜めた。

 「一カ所いい所がありましたよ。」

 そこへ執事風の燕尾服の男が駆けつけて来た。

 「どこだ。」

 「新しく興ったアルカイ何とかという国の近く。」

 「ああ・・あそこかい。

 駄目だよ、そこも。

 私も調べたんだが“光の子”とかで大騒ぎしている。

 とてもじゃないがやりにくいよ。」

 「そうでもありませんよ。

 どうも“光の子”を利用して爛熟に向かっています。」

 首領格の女の眼がギラッと輝く。

 「近くに森は。」

 「在ります・・しかもお誂え向きに苔むしてはいますが大きな館もあります。」

 「何が住んでいる。」

 「館の主は魔族のようです。」

 「そうかい・・・」

 首領格の女は長い舌で舌なめずりをする。

 「面白い。

 向かうよ・・そこに。」


 彼女らは隊商のように三台の幌馬車と大きな檻車を一台連ねていた。

 下僕の男達十人は一応武装している。

 それを狙う者達もまた同じ様に動き出した。

 「明日の日の出と供にやるよ。夜の内に取り囲みな。」

 そこの首領も女だった。

 巨大な犬の声がみんなを叩き起こす。

 「囲まれたようだね。

 闘いの準備をしな。だが本性は現すんじゃないよ。」

 「魔術は。」

 執事風の男に首領格の女は即座に答える。

 「使っても良い。」

 男達は闘いの準備を始め、その周りを取り囲む犬たちも唸り声を上げた。

 「私も征きます。」

 その中に妖美な美女が一人加わった。

 それでも闘える者は下僕も含めて十五人、取り囲んだ者達は五十人はいそうだった。

 「随分お困りのようで・・お手伝いしましょうか。」

 そこへ粗末な林の陰から全身を鎧兜に身を包んだ戦士が現れた。

 「人の男かい。

 久しぶりだねぇ。」

 その状況にも係わらず何を思うのか人買いの女はニヤリと笑い、舌なめずりをした。

 「見返りは。」

 「あんたの身体・・美味(うま)そうだ。」

 「商談成立だね。」

 そうしている間にも賊はおめき掛かってきた。

 まずそれに対抗するのは良く訓練された大中あわせて九頭の犬たち。

 三頭の中型犬は素早く動き駆け寄せてくる者達の手や足に喰い付き、同じ様な体躯の狼犬は喉笛を噛み切る。雄牛ほどもある巨大な犬はその体躯自体が脅威になる。

 「戦闘犬か・・」

 「そうかもね。」

 戦士の声に首領の女が笑って応える。

 「怯むんじゃないよ・・多寡が犬程度に。」

 敵の女の声に煽られ猛獣の間を縫って賊が駆け寄せてくる。その相手をするのは武装した下僕達。

 「私の身体が欲しいならお前も働きな。」

 女首領は戦士を焚き付ける。

 「なるべく殺すんじゃないよ。使える者が居れば連れて行く・・檻車も空のことだしね。」

 そう言って首領の女は笑った。

 盾と剣を使いこなし、戦士が下僕達と斬り結ぶ賊を倒して行く。

 「他愛ない・・」

 笑おうとした瞬間二本の剣が飛んできた。危うくそれを盾で受ける。

 「強い。」

 思わずそう洩らす。

 「あの女・・剣もだが魔術を使うぞ。

 助けてやれ。」

 首領の女が執事風の男を送り出す。

 二本の剣を使う女の回りの空気がうなり、辺りの小石が宙に浮く。

 瞬間、執事風の男が戦士の前に障壁(バリアー)を張った。跳び来る石礫は全てそれに阻止された。

 「その女・・相手は私がするよ。」

 女首領は女剣士に鷹揚に近づいて行った。

 女剣士の側の大石が宙に浮く。

 「念動力かい。」

 その大石が女首領にもの凄い速さで跳び来る。

 それを女首領は片手で軽く弾いた。

 弾かれた大石が粉々に砕け散る。

 「だが、私には効かないんだよ。」

 女首領は女剣士の目の前に立ち、その乳房をむんずと掴んだ。

 「私の所に来ないか。」

 愛撫するように乳房を揉む。

 クッと息を詰めた女剣士の顎が上ずる。

 「決まったようだね。」

 女首領は女剣士に口づけをし、

 「闘いを止めな。」

 と、声を上げた。


 ランダ・・隊商の首領はそう名乗った。

 「お前の配下は何人残った。」

 「無傷の者は二十人足らず。」

 アリスと名乗った魔術を使う女剣士はそう答えた。

 「バーロー・・」

 ランダのその呼びかけに執事風の男は、ハイ。と答えた。

 「ウチの方の残りは四人です。」

 「弱いねぇ・・残った者達をみんな並ばせな。」

 怪我人もあわせて三十数人、並んだ男達をランダが選別していく。

 「こいつ等は屋敷の下働き要員。」

 ランダは最初の三人の頭に手を置きバーローを見た。

 「こいつ等はお前に預ける。農耕や狩りに仕え・・それ位の能しかないよ。」

 ラルフと呼ばれた農夫風の大男がそれに頷き、その七人を自分の元に呼んだ。

 「カーツだったかね・・こいつ等はお前が鍛えてやりな。

 屋敷の守りに使う。」

 戦士の元には五人の男達が集まった。

 「サビーネ、あんたはこいつ等。」

 妖美な女の所に九人の男が行く。

 「行く行くはまた娼館を造る。その時の用心棒や下働きに使う。

 シャムハザ、ガルフィ、いいな。」

 華麗な衣装に身を包んだ男と異様に鼻の高い老婆が、ハイ。と返事をした。

 そしてランダの横にいた小人はニーコダマスといった。

 その他に女が五人。中には空を飛べる者さえいた。

 「後は売り払うよ。」

 そう言った後、ランダはみんなを見廻した。

 「それにしても汚れたねぇ。」

 ランダは自分と配下の者を見渡し一つ大きな溜息をついた。


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