第四章 齟齬(51) 新たな宗教の栄え(3)
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「一度ポルペウスに斥候隊を送るか。」
ポルペウス奥の院の噂はハーディの元へも当然報告として入っていた。
「誰をやります。」
ミズールの建設から帰ってきていたナザルが訊ねる。
「誰が適任だと思う」
今やリュビーが居ない時の相談相手となったナザルにハーディが問う。
「キーンが適任かと。」
「良し、キーンを呼べ。」
ハーディは従者に声を掛けた。
「その間に報告を一つとお願いを一つ、宜しいですか。」
ナザルの声にハーディが頷く。
「まずミズール。
砦の構築はほぼ終わり、今はグロックが村の整備を進めています。」
「大きくなったか。」
「あの地には元々石造りの古い遺跡がありました。それを整備し砦となし、その周りに広く環濠を掘っています。
兵はグロックの三百人、人民は七百を超えました。そこを護る為にイーラスが千の兵士を連れフレンツ川の西岸に展開しています。」
「ミズールを核の一つにしたい。
頼むぞ、ナザル。」
「そこで先ほど言ったお願いです。」
何だ。とハーディが先を促す。
「私が本格的にミズールに座るとあなたの相談相手が居なくなる。」
それにハーディが、確かに。と頷く。
「ロブロをログヌスに呼び戻してください。
あいつは戦いには不向き、ですが王佐の才はあると思います。あの男をあなたの側に置けば、私もリュビーも安心して動けると思います。」
ハーディは暫く考え、解った。と答えた。
ロブロの帰着と入れ替えにナザルはミズールに発った。
ロブロは預かってきたリュビーの書簡をハーディに手渡した。
「どうだザクセン辺りは。」
ハーディはその書簡を紐解く前にまずロブロに聞いた。
「私の力が足りぬばかりに荒れに荒れています。」
そうか。と言い、ハーディは徐にリュビーの書簡を開いた。
「ですが、白の司祭の一派を名乗る者達がそこに現れ、徐々にではありますが落ち着こうとしています。」
「白の司祭か・・」
ハーディは困り顔を見せながらリュビーの書簡を読んだ。
「お前はこの任にあらず。」
書簡を読み終えたハーディがロブロの眼を見た。
「ナザルが言い、リュビーもこの書簡に書いている。」
ロブロが不安げな貌を見せる。
「二人の意見は同じ、ロブロお前はここに残れ。
ここに残って俺と一緒に建設の為の政略を練る。戦いはナザルとリュビーに任せてな。」
「それは・・」
「お前を俺の側近に取り立てる。
学べ、そして励めよ。」
ロブロの顔に喜色が走った。
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「お手伝いに参りました。」
大道の建設を進めるリュビーの元に多くの人夫を従えた大男が現れた。
「リューク様の命によりこの建設のお手伝いに参りました。」
男はもう一度同じ事を言った。
「リューク・・・」
リュビーは怪訝な顔をした。
「私達を束ねる白の司祭リューク様。」
「ああ、あれか・・平等とやらの宗教の・・・」
そうです。と大男は頷いた。
男の名はグラウス、その男と一緒に来た人夫達はよく働いた。その働きもあって徐々に大道は延びていった。が、それによって工事の範囲が広がり、それを護る軍は間延びし、兵力は薄くなっていった。その間隙を食と金を求めるならず者達に襲われる。
くそっ・・リュビーが机を叩く。兵の数が絶対的に足りない。いや、どれだけの兵でも無理だろう。奴等は神出鬼没、根絶やしには出来ない。それを叩き潰すには兵の数もだが、隊を無数に分けて捜索し、一つ一つを叩くしかない。が、それには危険も伴う。もし相手の一団が大きければ・・・それに工事自体を護る兵を裂くことにもなる。
どうすれば・・頭を悩ますリュビーの前にグラウスが立っていた。
「私の仲間を紹介します。」
彼は屈強そうな男を連れていた
「ダルスと言い、兵を使います。」
「兵・・・」
「リューク様の兵です。
その兵達は死をも恐れずに闘います。
ならず者狩りには打って付けかと。」
「見返りは。」
「この地まで我等が宗教、アイクアリー教の拡がりを認めて頂ければ・・・」
手詰まりに陥っていたリュビーは渋々その提案に頷いた。




