第四章 齟齬(50) 新たな宗教の栄え(2)
婚礼の式はアファリが言ったとおり三百人ほどに膨れあがった村人総出で行われた。
“永久の館”に入り切れぬ者達はその庭まで溢れ、庭までが祝福の色一色に被われていた。
「ここが新居になるのね。」
腕を組み合って躍るカトリンにフェイが笑いかける。
「いいえ、ディアスも私もここには住みません。あの部屋は今後“永久の館”の貴賓室になります。」
「じゃあ、あの狭い家に・・・」
フェイが曇った目を見せると、
「いいえ、今のディアスの家でもありません。村人の好意で応接室を備えた新しい家が建っています。
明日はそこに招待します。」
祝福の夜が明け、ディアスとカトリンが待つ家に村の主立った者達が集った。そこへイシューとフェイが入ってくる。
そこに居る者達皆をディアスが改めて紹介する。
「ドリストとストラゴスは。」
イシューがそこに居るべき二人が居ないのに気付いた。
「他の地に行った。」
ディアスはそうとだけ言った。
「そうか・・別れたか・・・」
イシューは残念そうな顔をした。
「ところでネル・・・」
ディアスはその話を断ち切りアシュラ族出身の女性の顔を見る。
「招待客をメアリ女王に目通り願えないだろうか・・イシューと俺、二人で。」
「会えると思いますが。
今日の午後には帰ると仰ってましたからそれ程長くは・・」
「すぐに使いに行ってくれないか。」
ネルはすぐにディアスの家を出た。
「イシューから申し出があった。」
ディアスはこの村にエルフ族を受け入れること。それにアシュラ族の男児の面倒をルミアスが見ること。この二つを皆に話した。
二つ目の提案にカトリンが目を輝かせた。が、
「エルフ族は生殖能力が弱いと聞きます。その国に男を迎え入れれば・・・」
「十五歳までと思っています。
その年に成ったら成人の儀式をし、国を出て貰う。」
「捨てるのですか。」
「いいえ、ルミアスの西の台地にはヤフー人の村が散在します。その台地の東に村を造らせます。」
「なぜ。」
「自立を促す為です。それによって外敵の脅威にも備えることになり、あの辺りが安定します。」
その後もイシューはルミアス近辺の事情を話した。
「お会いになるそうです。」
そこへネルが帰ってきた。
昨日から貴賓室となったカトリンの部屋にディアス、イシュー、それにネルが入っていく。
「何か提案があるとか。」
アシュラ族の女王メアリがそれに声を掛ける。
イシューがアシュラ族の男児のことを話し出す。と、それをメアリが遮った。
「そのようなことであれば・・・
アファリを呼んでおいで。あの娘にも聞かせる必要がある。」
メアリはネルに指示した。
アファリが来るまで沈黙の時が流れた。
「何・・何・・・」
アファリが明るい声と共に騒々しく飛び込んでくる。
「静かに。」
それをメアリが一喝し、アファリが首を竦めた。
メアリはイシューの提案を聞かせ、そして続ける。
「我が国にとって男児の売買も経済の一環です。
その金によって武器防具、それに農具を買い込んでいる。」
「人身売買・・良くはありませんね。」
イシューはメアリの言に苦い貌を見せた。
「そこでです・・」
イシューの提案は続いた。
男児は貰い受ける。その対価という訳ではなく、武器防具、農具の類いをルミアスが援助する。
「如何ですか。」
イシューは強い目の光でメアリを見た。
「エルフ族は魔物を倒す特殊な鋼が作れるとか・・それの供給は。」
「宜しいでしょう。一部には成りますがそれも請け合います。」
ここにアシュラ族とルミアスの提携は成った。




