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第四章 齟齬(47) タンカ・・今(1)

 タンカ・・殷賑を極めようとする町。壮大な宮城(パレス)は既に出来上がり、その奥深い所でティアとカミュの娘セイラは育てられていた。

 その一の乳母の名はメーレ。彼女はティアとの約束通り甲斐甲斐しくセイラに(かしず)いていた。

 セイラが居る場を裏とすればその表に当たるのが政治を行う所、十二人の枢機卿が集まる枢密院。その中心に居るのはホンボイとヨゼフ。そして周囲の国との戦いに明け暮れるラルゴ。

 遠征軍(クルセイダー)の長ラルゴの活躍と“光の子”の威光で徐々に領土が拡がっていった。

 “光の子”を神の御使いと崇める宗教をメシアン教となし、タンカは遂に国を興し、アルカイ神聖共和国と名乗った。その首都は当然タンカであった。

 その傘下に入った近隣の集落にはすぐさまメシアン教の教会を造り、布教の為の神父とその集落を護る為の守護者(ガーディアン)と呼ばれる教会付きの戦士達を送り込んだ。

 当然周りの三国との軋轢は深くなり、あちらこちらと戦いの炎が上がっていた。


 ラルゴ将軍凱旋・・衛兵の声が上がり街城の門が開けられた。

 門を入ったラルゴは元々の村があった小高い丘に建つ宮城(パレス)を見上げた。

 大きくなった・・大きすぎるかもな・・・

 小高い丘と言ってもほぼ平地に立つ宮城(パレス)はその防御の為、古いタンカの村全体を丘の裾野で城壁によって囲んでいる。

 それが町造りの始まりだった。内城の内側は広く、当初はそこでも農耕を行い村全体を囲い込んでいた。だが、そこは今、壮大な宮城(パレス)が建ち、それに連なる者達の住居だけがその中にあった。

 ラルゴは内城の城壁の外を巡る環濠に懸かる橋を騎馬のまま渡った。その先は広場。ここでは町人を集め処刑までが行われることがある。それを取り囲むように石造りの家々が並ぶ。それを通り過ぎた所に宮城(パレス)が在る。

 宮城(パレス)・・一つの建物で在りながらそこは三つの部位に別れていた。まず誰でもが立ち入れる荘厳な教会。それでもまだ建設の途中だという。そこには地下牢が在り政治犯、宗教犯等はそこに収容されている。

 その横にもう一つ大きな鉄扉。その前でラルゴは馬を下りた。教会の脇を通り抜ける長い回廊を歩き、奥の枢密院を中心とした政治所へ向かう。

 「お帰りで。」

 枢機卿に連なる僧が頭を下げる。

 「皆様、お待ちです。」

 「まずはセイラ様に挨拶だ。」

 ラルゴは僧を後ろに足を進めた。

 政治所の一画を通り抜けると広く美しい庭がある。

 「メーレ、セイラは元気か。」

 バルコニーに見える乳母に声を掛ける。その顔は微笑みを湛え、さっきまでの険しい表情はそこにはもう無かった。

 「元気に遊んでますよ。」

 ラルゴは館に入り、セイラが暮らす二階を目指した。

 大きな扉を開ける。歩き始めたセイラがその姿に走り寄る。おぼつかぬ足取りが転びそうになるのを、大手を広げたラルゴが抱き留める。

 頬擦りするラルゴの髭にくすぐられたセイラがキャッキャと笑う。

 メーレは側に立ちその様子を微笑みながら見ていた。

 「ラルゴ将軍、お迎えです。」

 小一時間もセイラと遊んだラルゴを他の侍女が呼びに来た。

 (また奴らの話か・・・)

 政治的な駆け引き、一つの宗教にまで育った“光”。セイラを含めたそれを利用しようとしか考えてないような計画立案。

 それにたまに助言者として現れる老人、女。の話し。

 ラルゴはそんな話しが嫌いだった。

 それでも行かぬ訳にはいかなかった。

 セイラの館の庭を出る。

 その後ろで門扉が閉まる音が聞こえるとすぐに自分の副官を呼んだ。

 「デルフ、話しは任せる。」

 「あなたは・・・」

 「報告だけはする。」

 十二人の枢機卿に今日は女が一人。

 「ご苦労様です。」

 まずその女が口を開いた。

 枢密院の長はホンボイのはず。それがいつも助言者で在る者がまず口を開く。

 ラルゴは苦虫をかみつぶしたような表情になる。

 「一ヶ月・・長かったな。ご苦労をかけた。」

 女の声にホンボイの声が続いた。

 「して首尾は・・・」

 「今回は町の北側で西から東と転戦した。

 相手はベーリン王国とゴーセス侯国。戦力はそれぞれこちらと同じ程度の数。」

 ラルゴは敵とは言わなかった。

 「両方面とも相手を破った。

 逃げ遅れた捕虜は両方面合わせて五十。

 以上だ。」

 そこまで言うとラルゴは椅子を鳴らして立ち上がった。

 「デルフ、後は任せる。結果だけの報告で良い。」

 立ち去るラルゴに枢機卿達は苦い顔をした。

 「宜しいではありませんか。

 ラルゴ将軍は武人、私にはかえって頼もしく思えます。」

 ヨゼフは他の者の感情をそう言って取りなした。


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