第四章 齟齬(44) ティアの住み処(2)
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ワーロックとアレンはレニックを連れてオベロンがいる玉座の間を訪れた。
オベロンの横にはティターニアが座り、そこにはティアとドリスト、ストラゴスも呼ばれ、ウィーゴを抱くルシールも居た。
「解ったそうだな。」
まずオベロンが口を開いた。
「このカーター・ホフの森の奥とか。」
それにティターニアが続く。
「そこは私がここに住み着く前から“霜の国”と呼ばれていました。
在るのか無いのか定かでない国・・そこに・・・」
「それ以上は止しておけ・・広まる」
と言うと、オベロンはレニックの顔をキッと睨んだ。
「口外無用・・解ったな。
破ればお前の口を塞ぎ、この森から追放する。」
その言葉にレニックは何度も頷いた。
「さてこれからどうする。」
オベロンは今度はワーロックの顔を見た。
そのワーロックはレニックを見た。
その姿にオベロンはレニックに顎をしゃくり退席を促した。
総じて妖精達はおしゃべりだ。その口を塞がれるというのは死にも勝る苦痛だろうが、それでも妖精の口には信用をおけない。
「“霜の国”は生ける者を拒む。
どうやって入るつもりだ。」
「どうにかなりますよ。」
ワーロックはオベロンの問いに微笑みで答えた。
霜の国を目指す者、ワーロック、アレン、ドリストそれにストラゴスがティアを真ん中に円陣を組んでいた。
「ここからは入れないな。」
目に見えぬある一線の前に立ち先頭を行っていたワーロックが立ち止まった。
「“霜の国”・・・か」
アレンが横から声を発する。
「どうする・・・」
アレンの不安をよそにワーロックは一人離れ鋭く口笛を吹いた。
「吾を呼ぶ者は誰だ。」
「ラタトスクか。」
ワーロックが現れた栗鼠に話しかける。
「そう言うお前は誰だ。」
「魔龍ラタトスク・・私が解らぬか。」
「人に知り合いはいない。」
「これでも。」
ワーロックは笑いながら気を発する。と彼の足下に金色の靄が立ちこめる。
「シェ・・」
「言うな。
だが分かりはしたろう。」
ラタトスクが大きく頷く。
「何の用で・・・」
「私が来たことをミーミルに取り次いでくれ。」
その時にはもう足下の靄は消えていた。
「会いたい、会って話がしたい・・とな。」
「ミーミルは・・」
「会えないと言えば押しかけるだけだ。」
ラタトスクはその場から去り、ワーロックは皆の元に帰った。
「何をしていた。」
すぐにアレンが声を掛ける。
「ミーミルに連絡を取りました。」
暫くの時が流れると辺りに白い靄が立ちこめた。
その中に眩い光りの柱が立つ。
その数は六つ。それがワーロック達を取り囲んだ。
アレンが警戒の色を見せ、背中の鬼切り丸に手を掛ける。
「ミーミルだ。」
それをワーロックが声と共に押しとどめる。
それぞれの光りの中に白髪の巨大な老人の姿が現れ、手にした長い杖でトンと地面を突く。
「お前達は今“霜の国”に入った。
カン・・」
「ワーロックです。」
ワーロックはミーミルの言葉を途中で遮り自身の名を告げた。
「それでは、ワーロック。
何用があってここに来た。」
「この女性です。」
「以前ローンが言って居った光りを無くした“光の子”か・・・」
言いながらミーミルはティアの頭上に手をかざす。
六本の手がティアの頭の上で交わる。
「話してきかせよ。」
ワーロックはティアの素性、“光の子”カミュとの関わりを話した。
「確かに感じる・・“光の欠片”を・・・」
「故に狙われています。」
「“陰”の者達にか。」
「だけではありません。
彼女を利用しようとする者達。また、彼女の存在が邪魔な者達にも。」
「それでここに匿おうとするか。」
「そうです。
“光”を護る為。」
「良かろう・・・まず調べる。
後のことはラタトスクを送る。」
六本の光が一斉に輝いてティアを取り巻き、彼女共々消えた。
「ティアは・・」
アレンが刀に手を掛ける。
「霜の国の中枢に入った。」
ワーロックは事も無げに言った。
その足下から声がする。
「人、ドゥリアード、そして・・」
猫ほどの大きさの栗鼠があわてて飛び退く。
「ダンピールだよ。
だが心配するなお前程度の者は相手にしない。」
アレンは鼻の先に人差し指を立てそれを横に振った。
「ミーミルの使いだ。」
「早いな・・ラタトスク。」
ワーロックがその栗鼠に声を掛けた。
「何言っている。もう一日経っているゾ。」
ミーミルはこの結界の中では時までを思い通りに出来るのか・・ワーロックはどんな犠牲を払ってもここにティアを匿うことを決心した。
「ティアはここに受け入れる。が、それには条件がある。
お前達がそれを全てのめるならな。」
ラタトスクは威高々と話し出した。




