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第四章 齟齬(43) ティアの住み処(1)

 「解ったよ・・・」

 疲れ切った顔のヴァン・アレンがワーロックの前に立っていた。

 この数ヶ月アレンは寝る間も惜しんで走り回っていた。その横にはこれも疲れきった妖精達が立っている。

 「すぐ側だった。」

 「側・・・」

 ワーロックがアレンの言葉を聞き返す。

 「ここカーター・ホフのすぐ近くだ。」


×  ×  ×  ×


 アレンは陽の因子を持つ妖精達の尻を叩き、死にものぐるいで働かせた。

 元々妖精とは気儘に生き、必要以上の努力をしない者達、それをアレンはこき使った。日常ともなりつつ在ったそんな生活から一人のローンが逃げた。その逃げた先は昔から伝わる在るともないとも知れぬカーター・ホフの森の奥の湖。

 ローンとは元々アザラシの精。その(さが)が安らぎの為の水を求めたのだろう。若く美しい姿を採っていたローンが疲れのあまり元のアザラシの姿に戻っていた。そのローンの鼻に微かな水の臭い・・アザラシの姿に戻っていなければそれには気付かなかったかも知れない。

 ローンはその臭いの元を目指した。その臭いは自身が求める塩水のにおいではなかったが疲れ切ったローンを誘うには充分だった。だがアザラシの姿で地を這うのには限界が在った。長い時間の移動で膚は水気を亡くし、力尽き倒れ伏したローンは祈るような気持ちで前足のヒレで土を掘った。

 暫くその土をかき分けると僅かばかりの水が湧き出た。その湧き出る水は一筋の道を指し示していた。

 それをたどる・・すると大きく美しい湖が目の前に拡がった。ローンはそれに喜々として飛び込んだ。腹を満たす魚、喉を潤す水、何よりもその水はローンの疲れを癒やした。何匹目かの魚を口にした時ローンの身体はその水から引き上げられた。

 ローンの目に飛び込んできたのは五メートルはあろうかという真っ直ぐな長い銀髪を持った巨人。

 「生けるものの命を奪ってはならぬ・・特にこの湖のな・・・」

 巨人は静かだが太い声を発した。

 「名は・・・」

 「レニック。」

 恐怖に駆られたローンは思わず答えた。

 「何の為にここに来た。」

 「使われるのに疲れて・・・」

 「だれに・・何の為に・・・」

 「ヴァン・アレンというダンピールに・・」

 「聞いたことがない。

 そいつの属性は陽か陰か。」

 「私には解りませんが、そのどちらでもないそうです。」

 「そいつは何を欲している。」

 「彼が信奉する女性の住み処です。」

 「信奉する者の住み処・・・

 その女とは。。」

 「光の子ティアと・・」

「“光の子”・・・」

 巨人は一瞬眼を険しくする。

 「とは言っても既にその光は失われたとか・・・」

 レニックはその巨人の目に対する恐怖からかそう付け加えた。

 「光が失われたのであれば“光の子”ではあるまい・・

 お前の話は分からん。」

 巨人は首を傾げ、

 「ラタトスク、後は聞いておけ。」

 と森の木に向けを声を掛けた。

 栗鼠・・猫ほどの大きさの栗鼠。

 巨人が消えた後その栗鼠が口を開く。

 「吾は偉大なる龍、ラタトスク。」

 レニックはその姿と口ぶりの大いなる相違にクスッと笑った。

 「何を笑う・・笑わば吾が部下ニーズヘッグに喰わせるぞ。」

 「誰がお前の部下だと。」

 野太い声が地面から聞こえる。

 「部下ですと・・誰がそんな事を、偉大なるニーズヘッグ様に対して・・。

 あの憎っくきフレイスベルグ以外、誰がそんなことを言いましょう。」

 ラタトスクはその声に対し急に言葉を変えた。

 「お前ではないのだな。」

 「私であろうはずはありません。」

 「フレイスベルグ・・あいつが・・・」

 「あやつは貴方様の絶大なる力を狙っております。

 お気をつけあそばすように・・」

 「お前の言葉はいつも儂を助ける。お前の忠誠心に免じその妖精のこと、今回は許してやろう。」

 野太い声を吐く気配はその場から消えた。

 「見えるか・・この湖の底に漂う屍体が。」

 ラタトスクの声にレニックが湖面を注視する。と、湖の奥深い所から青白い人の霊が浮かび上がってくる。

 「ここは死者の国ニヴルヘイム。

 この湖はフヴェルゲルミルの泉と呼ばれている。

 この地に迷い込んだ命ある者はさっきの声の主ニーズヘッグに命を奪われ、その魂は全てこの泉に投げ込まれる。

 その精を吸った泉は命無き者に恵みを与える。

 回復したろう・・お前の失われた精が・・・」

 頷くレニックにラタトスクが尚も続ける。

 「魂のなくなった肉体をついばみに来るのがこれも吾が部下フレイスベルグだ。」

 そう言いながらラタトスクは辺りをちらっと見た。

 「その先にあるのがミーミルが住む“智恵の泉”・・・」

 「ミーミル。」

 即座にレニックが反応する。

 「そうミーミルの住み処だ。」

 「助かりました。」

 レニックは人の姿に戻りその場を去ろうとした。

 「待て。吾はミーミルにお前の話を聞くように言われた。

 吾が話すばかりでまだお前の話を聞いていないぞ。」

 「さっきの方がミーミルですか。

 ありがとう。おかげで私の目的が果たせ、鼻高々で帰れます。」

 「お前の用とは。」

 「ミーミルを探すことでした。」


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