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第四章 齟齬(38) 新しいルミアス(7)

    ×  ×  ×  ×


 残るは北の像のみ。が、さすがのルキフ・ロフォカルもこの騒ぎには黙っていられなくなった。ホールに巣くっていた餓鬼共が大挙して階段を降りてくる。

 階段に並べるのは五匹、それをケプリとヒトコトヌシが倒していく。が、その数はあまりに多い。二体の間を通り抜けた餓鬼が階段下に降りてくる。それを相手するのはキンマモン。が、それをもすり抜ける者達がいる。それを遠くはフェイの矢が、近くはイシューの剣が斃していく。

 「数が多すぎる。」

 イシューの唇が歪む。その横を青白い光が奔る。その光りにふれた餓鬼がボロボロと崩れていく。

 「月の光・・浄化の力です。餓鬼は私に任せてください。

 ですがルキフ・ロフォカレが動きます。それにヘカーテにも既にこの事が知れ、彼女も帰ってきましょう。

 残る邪像は一つ・・急がねばなりません。」

 「ヘカーテ・・“遠くから働きかける者”ですね。」

 「そうです。

 彼女は直接あなた方の脳に語りかけ、その精神を壊し、心を支配します。

 ですが()の者の魔力と私の神力・・我が力の方が上。その力であなた方を護ります。」

 貝からの声を聞きながらホールに上がるとそこに餓鬼共を相手に大暴れしている女がいた。

 「アラストール。」

 フェイがその姿に呼びかける。

 「餓鬼共は私がやっつける、先を急いで。」

 その姿は結界が弱まったことによってここに入ってきたアラストール。餓鬼は彼女の敵とはなり得ない。次々と消し飛んでいく。が・・・

 「騒がしい。」

 ホールの一番奥に鼻と額それに左のこめかみから曲がりくねった鋭い角を生やした魔物が現れた。

 「ルキフ・ロフォカレです。」

 魔物の両の掌に二つの黒い玉が現れ、それに徐々に青白いひびが入っていく。そして螺旋状の尖った青白い炎が立つ。

 「障壁の盾を。」

 貝の声が大きく響く。

 ルキフ・ロフォカレの手中の炎が槍のように長く伸びる。

 それを縁だけが見えるイシューの盾が受け止める。

 「()の者の魔力と私の神力・・それは我が力が上。受け止められる。」

 「こうすればどうかな。」

 ルキフ・ロフォカレは動じる様子もなく近づいてくる。その前の床が盛り上がり次々とデーモンが現れる。がそこに飛び来た歯車形の円盤がそれらを薙ぎ倒し、その後ろから身体の周りを大きな輪が回る女神が一本の剣を手に飛び降りてきた。

 「アリアンロッドです。私の結界を解きました。」

 と、貝の声。

 「しかし、ルキフ・ロフォカレには勝てないのでは。」

 「火龍(サラマンダー)の腹を裂いた貴男のガルバリオンと伴であれば斃せるはずです。」

 「ヘカーテがこちらに向かっているのであれば時間が・・・」

 フェイが不安そうな貌を見せる。

 「二手に分かれよう。

 君は最後の像を目指せ。」

 「二つに分かれた者達を同時に護ることは出来ません。」

 「フェイを護ってくれ。

 私はこの悪魔を斃したらすぐに駆けつける。」

 「話は終わったかな。」

 ルキフ・ロフォカレの声が割り込んでくる。

 「道は私が空ける。」

 少女・・アラストールが餓鬼共を斃し一条の道を空ける。

 「ヘカーテの声は嘘と真実を織り交ぜ精神を乱し、心を壊します。彼女の声を聞かぬ事。心を乱さぬ事。それだけを気をつけて・・・」

 フェイの姿と伴に貝の声は遠くなった。

 「さあて・・お前が相手か。」

 ルキフ・ロフォカレが首を傾けコキコキと鳴らす。

 「ああ・・相手してやる。」

 イシューも返し、身構える。

 「相手は私だけではないぞ。」

 先に潰れたデーモンとは別の、剣を持ったデーモン達が現れる。

 「ケプリ。」

 イシューも召喚魔を呼び出す。

 「数と数・・だが我が方が多い。」

 ルキフ・ロフォカレがニヤリと笑う側から次々とデーモンが立ち上がった。

 ケプリとデーモン、力はほぼ同じ、だが数に圧される。それを助けるのがアリアンロッド、彼女の身体の周りを回る輪がデーモン達の剣を弾き、その手にした剣がデーモンを斃していく。

 「お前の相手は私だ。」

 イシューがもう一度声を発し、ルキフ・ロフォカレに斬りかかる。が、その剣先はヒラリと避けられる。

 「動きが鈍いようだな。」

 (エルフの賢王ブリアントの子イシュー・・・)

 イシューの頭の中にはルキフ・ロフォカレとは別のもう一つの声が響いていた。

 (今は新しいルミアスを率いる者。)

 イシューが激しく首を振るがその声は消えない。

 (にもかかわらず女の愛には恵まれぬ・・・)

 イシューの目が嫉妬に光る。

 (フェイ・・貴男の妻・・・だが心は貴男にはない。)

 「黙れ。」

 イシューが虚空に大声を上げる。

ザクッとその間にルキフ・ロフォカレの青白い炎の槍がイシューの肩口を貫いた。

 「乱れている・・乱れているぞ、お前の心が。」

 ルキフ・ロフォカレが笑う。

 「その乱れた心で私に対抗できるかな。」


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