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第四章 齟齬(37) 新しいルミアス(6)

    ×  ×  ×  ×


 「像は・・・」

 イシューが目を凝らす。

 「光を放ちます。

 その中で黒い影を放つものを探してください。」

 辺りが淡い月の明かりに照らされると、確かにその中に黒い影が一条。

 それを放つものにフェイが近づく。

 「カイチという邪神の像です。

 その頭に手を・・・」

 フェイが言われるままに象に手を伸ばす。

 ピシッ・・とフェイの手が触れた瞬間にその像にひびが入り、そして弾け飛んだ。

 「これで陰の結界が弱くなります。

 後三体・・・次は南へ。」

 ツクヨミの光りの道が再び二人を導く。

 南の像を護るのは邪鬼オセロット。

 「邪鬼が治めているのなら鬼族が多くなるのかしら。」

 フェイが少し不安げな顔を見せる。

 「鬼族・・力が強く暴れ者が多い。」

 イシューがそれに付け加える。

「気をつけよう奴等に悟られぬように。」

 今いた階から降りる。光りの線はそう指し示している。一階降り、もう一階・・そこの踊り場でイシューはフェイを押しとどめ、上の階に戻り、下の階を見下ろせる回廊からその下を指さす。そこには無数の餓鬼が山のように集まっている。

 光る道はその中を横切り、その奥まで続いている。

 「どう・・・」

 声を上げそうになるフェイの口をイシューの右手が塞ぎ、もう一方の手の人差し指を自分の唇に当てる。

 頷くフェイの口からその手を離し、伽藍の高みに懸かる梁を指さした。

 「ここを渡る。」

 イシューが囁くほどの小声でフェイの眼を見る。

 先に行くのはフェイ、それを護るようにイシューがそれに続く。

 四つん這いの手が、膝が、梁に積もったゴミを落とす。餓鬼共にそれに気づかれぬかとハッと身を硬くする。

 交差する梁を左に折れる。その先の回廊に肝を冷やしながらたどり着いた。

 南の階段へ・・そこを登る。現れるのは思った通り鬼族。幽鬼、邪鬼の類い。それらから身を隠し通り抜けるのに邪魔になるものだけを静かに斃していった。

 ガツンと石造りの柱の一部が棘だった鉄棒に打ち砕かれる。それはその一撃をすんでの所でイシューが避けた為だった。

 直立した牛、腰から胸、そして腕だけは人。

 「牛鬼です。」

 貝からの声に誘われるようにそれが三体。

 その後ろには高い冠を被り、腕に派手な羽根飾りを付けた大男が立っている。

 「邪鬼オセロット、南の像を護る者です。」

 またも貝からの声。

 「牛鬼はケプリで充分相手できます。」

 その声にイシューが下位の天魔を呼び出す。

 分が悪い牛鬼の援護をする為かオセロットが腕を振る。とそれに付いていた飾り羽根がケプリに飛び来る。その一本がケプリを刺し貫き石壁に刺さった。

 強い・・フェイが唾を飲む。

 「あなた方の前には障壁(シールド)を張ります。」

 「障壁(シールド)の蔭に隠れてばかりでは闘えない。」

 障壁(シールド)の外に出ようとするイシューに

 「では障壁(シールド)に手を掛けなさい。障壁(シールド)の一部が貴方の盾となります。」

 その緑の縁以外は目に見えぬ盾をかざしイシューがオセロットの姿を目指して走る。

 オセロットもそれにあわせて剣を抜き、ガルバリオンと斬り結ぶ。

 オセロットの力は強い、が、障壁の盾がその力を吸収する。

 何合か剣をあわせるとガキンと言う音と伴にオセロットの剣が折れた。

 その剣をオセロットが驚いたように見る。その頭上にイシューの剣ガルバリオンが振り降ろされた。

 こうして南の像も破壊した。

 「おかげで随分陰の結界が弱まりました。これで私の眷属の一部もそのままここに入れます。」

 その声と共に全身に幾何学模様の入った女とでっぷりと肥えた身体に豚の頭を載せた男が現れた。

 「キンマモンとヒトコトヌシです。」


 今回もインプがその光景を見ていた。そのインプはルキフ・ロフォカレへではなく直接ヘカーテに念を送った。


 次は西、地下に降りるらしい。ひたすら階段を降り地下に行き着いた。

 そこは水浸し。奥ではその水が大きな池を成している。その水際で若い女がシクシクと悲しげに泣いている。

 どうしたのかとフェイがそれに近づく。

 女の肩にかけようとしたフェイの手がその女の手に掴まれ、水の中に引き込まれそうになる。慌ててその手をイシューが斬り落とす。

 「不用意に水に近づかない方が良さそうだ。全てを疑って懸かろう。」

 「ケプリを・・」

 「呼び出した方が良さそうだ。」

 「像は・・・」

 フェイが辺りを見廻す。

 「池の向こうです。」

 貝から声。

 「ですがここにはカリュブディスが居ます。」

 「どんな奴だ。」

 「悪魔カリュブディス、大蛸のような化け物です。八本の足の内六本は吸盤ではなく鋭い棘が生えています。

 目は縦に三対が並び、口には何層もの牙を持ちます。

 その躰は大きく、大海に出れば大きな船をも飲み込みます。」

 「勝ち目は・・」

 「ですがこの池にあわせその姿は小さいはず。

 とは言ってもあなた方の数倍はあります。」

 「守りは障壁の盾か・・頼む。」

 「それは既に貴方に捧げています。貴方が望めばいつでも・・」

 イシューが気を集中すると縁だけが見える盾がイシューの左手に現れた。

 「その盾でもカリュブディスの力全てを吸収することは出来ません。

 気をつけて・・・」

 「フェイ、援護を頼む。」

 イシューは一歩踏み出した。その姿めがけて空飛ぶ魚が牙を剥き、次々と襲いかかってくる。その上青白く水にふやけた身体を持つ女の幻魔ルサールカが数体、イシュー達を水の中に引き摺り込もうと水際から上がってくる。

 それに対抗する為かキンマモンとヒトコトヌシが現れた。

 キンマモンの身体の幾何学模様が光る。と、水の上を風が奔った。飛び上がったウォーター・リッパーが次々とその風に切り裂かれる。その間にケプリがルサールカを斃していく。

 イシューの前でザバッと水が盛り上がる。

 馬・・が胴から下は魚。

 「ケルピーです。喰い付かれないように・・・」

 貝からのその声の側からヒトコトヌシが手にした小槌でその魔物を叩き潰した。

 勝った・・と思った。

 そこへ一本の足、それには鋭い棘が付いていた。その足に叩かれたケプリの胴がざっくりと割れ、苦悶の呻き声を上げ消え去った。

 「本命の登場か・・」

 イシューがその身構えを硬くする。

 次の攻撃はイシューに、棘は障壁の盾が防いだが、その力までは吸収できなかった。

 水の中にたたき込まれたイシューが首を振りながら立ち上がる。

 強い・・確かに強い。もしこれが広い海であれば太刀打ちできなかったろう。とイシューは思った。

 その思考を中断するかのようにもう一度足が繰り出される。

 ザクッとその足がガルバリオンに斬られる。

 その痛みの為かカリュブディスの本体が池から姿を現し、もう一度その足を振るう。その足先が今度もイシューのガルバリオンに斬り落とされる。

 遠目・・石段の上からキリキリと弓を引き絞りフェイがカリュブディスを狙う。その矢の先が狙うのは悪魔の六つの目の内の一つ。

 金の緒を引き矢が中空を奔る。

 「行け。」

 フェイが小さいが鋭い声をあげる。

 金の矢は過たずカリュブディスの目を貫いた。

 巨大な悪魔が咆哮を上げ、天井を壊す。

 大きく開かれたその口の中にイシューが飛び込む。

 カミュと・・同じ。

 あの時私があんなことを言わなければ・・・・

 フェイに後悔の念がよぎる。

 が、カリュブディスの身体の中からガルバリオンが突き出、その剣先がカリュブディスの身体を断ち割っていく。

 「イシュー」

 フェイが叫ぶ。

 その声の向こうにカリュブディスの緑の血を全身に浴びたイシューがニッコリと微笑んで立っていた。


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