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第二章 新天地(1)

 「ここは何という町だ。」

 島伝いに海を渡り、着いた街でディアスが町行く人に声を掛けた。

 「ラフィンウエル・・ここらでは一番大きな町だよ。」

「大きな島のようだが・・・」

 「ゴンドルス大陸、島じゃぁない。

 あんたら何処から来なすった。」

 「ミッドランド。」

 「ああ、あの島かい。

 この大陸はあの島の何百倍もあるよ。」

 ディアスにとってこの街の人々の話は驚くことばかりだった。

 大陸の北から南まで行くのにその距離だけでも歩けば何年もかかかるという。いやそれどころか、その道程にある巨大な山脈のせいで船を使わなければ行けないとか、広大な砂漠があるとか、一年中夏の場所まであるという。そんな中で最も驚いたのがこの大陸のような広大な大陸が、この世界にはもう二つあると言うことだった。

 「目が回りそうだな、我々の世界と比べると・・・」

 ディアスは一緒に話を聞いていたローコッドと共にため息をついた。

イシュー達は先に出発をしていたがディアス達へと、この町で買い求めたらしい地図が宿に預けられた。それを見ると自分達が住んでいたミッドランドがいかに小さなものだったのか・・・また、ため息が出た。

 それから二日、仲間達を運ぶ最後の二隻の船が着いた。そこから降りてきたのはティアやダイク達、先ずは旅の無事を祝し合った。

 そして翌日、案内を商売とするケイヘルと言う男と共に地図を囲んだ。

 「俺はイシュー達の後を追う。」

 まずダイクが声を発し、ケイヘルを見る。

 「前にエルフの一団が通ったろう。その時の案内人は知らないか。」

 「どっちのだい。ついこの間の軍のか、それともずっと前の大移動のやつかい。

 ついこの間のはまだ帰ってないぞ。」

 「前の移動の時でいい。」

 「ああ、知っていますよ。確か、グロウだったと思いますがね。」

 「そいつを呼んでくれないか。」

 案内人が目配せをすると、その付き人が外へ走った。

 「あいつを探し出すまでに暫く掛かりまっせ。

 他にはありませんかね。」

 「何処か町が創れそうな所は・・・」

 次に質問したのはティア。

 「町を創るゥ・・・」

 ケイヘルはあっけにとられたような声を上げる。

 「そうさなぁ・・・」

 それでもケイヘルは暫く考え、それから地図を指さす。

 「ここら辺りだと、草原がありその中に小高い丘がある。

 町を造るんなら人も要るだろうからなぁ。まあ・・まわりに小さな集落も多いから町造りには適しているだろうよ。

 だが何で新しい町など・・・。」

 答えようとするティアをラルゴが手で制する。

 「そこまでの案内・・頼もう。」

 「いや待てよ・・ここなんかどうだい。」

 ケイヘルが地図上の一点を指す。

 「タンカという。ここらでは比較的人の多い村だ。それになんといっても広い。

 あんた達が町を造ろうってからには他の諸侯の息が掛かってなければいいんだろう。なら、ここは打って付けだ。ここから少し離れた所には三つの勢力があるが、それぞれが牽制し合ってポッカリと穴が開いている。そこに村ができ発展している。

 ちょっと遠いが、どうだいここで。」

 ティアとラルゴは暫く話し合い、

 よかろう。とラルゴが告げた。

 「あんた達は総勢何人だい。」

 「百人ほど。」

 「一人では無理だな・・それにそれだけの大人数になれば野盗もその荷を狙ってくるしな。」

 ケイヘルは指を小さく丸める。

 「これが掛かるぞ。」

 ニヤリと笑った。

 「百人、全てが戦士だとしてもか。」

 ラルゴもまた凄味を見せながら唇を歪めた。

 「分かりやしたよ。案内は二人、お代は勉強しますよ。」

 その凄味に当てられたかケイヘルは仕方なさそうに頭を下げた。

 「では・・・」

 「待ってくれ。」

 立ちかけようとするケイヘルをディアスが止める。

 「俺の用がまだだ。」

 「あんたはまた別ですかい。」

 渋々ケイヘルが椅子に戻る。

 「この辺り・・」

 ディアスが指さす先を見てケイヘルが首を振る。

 「何をするか知りませんがそこら辺は止めておきなっせい。」

 「南向きの山がありその麓に深い森、それを取り囲んで広大な草原が拡がっている。

 その東は・・荒れ地か。」

 「荒れ地から砂漠に掛かる。その砂漠から年に何度か大風が吹く。」

 「気候は。」

 「年中温暖、山に住むんであれば快適に過ごせる・・が・・・」

 「が、」

 言い淀むケイヘルをディアスが促す。

 「とても案内はできません。」

 急に言いようが丁寧になる。

 「遠いのか。」

 「馬を使っても一月(ひとつき)以上は掛かります。が問題はそんなことじゃぁありません。」

 「何がそんなに問題だ。」

 「この山は二つの顔を持っています。貴方が言うこの一部は・・・」

 と、ケイヘルは山地の南側を指さす。

 「なだらかな丘陵地。

 ですが他は険しい岩山になっています。」

 「何も問題はないだろう。岩山でなくそのなだらかな方であれば案内できるだろう。」

 「いいえ・・大いに問題です・・行けないんです・・と言うより行ったら帰ってこれません。」

 「なぜなんだ。」

 「西の岩山、ここにはアシュラ族という女人族が住んでいます。こいつ等は年に三度子作りのため男を入れる以外は、何者もこの地に入れません。勝手に入れば死あるのみ。」

 「そのアシュラ族の支配する領域は。」

 「麓の森の北端辺りまで。」

 ケイヘルがディアスの地図に円を書き入れる。

 「それを迂回すればよかろう。」

 「そうはいきません。全員が戦士と言われるアシュラ族が森を支配できないのは、この森に魔物が棲んでいるからと言われています。」

 「ではもっと大回りで・・・」

 ディアスは違う方向を指さす。

 「なぜこんな所にこだわるのですか。住みやすい村はいくらでもありますが。」

 「人前に出たくないんだよ。

 俺も含めてな。」

 横からローコッドが言葉を挟む。

 「なぜ・・・」

 訪ねるケイヘルの目をディアスが睨む。

 「解りました。案内はできませんがこの土地の情報を差し上げます。」

 ケイヘルは詳細な地図を雑嚢から出した。

 「それで勘弁してください。」

 その言葉にディアスが頷く。

 「まず、アシュラ族というのは女戦士で、各国に雇われ傭兵として生きています。普段は狩りをし、畑を耕して暮らしていますが、何処かの国の使者が黄色い旗を立てこの地に入るとそこから戦士に変わります。」

 「強いのか。」

 ダイクが尋ねる。

 「負けたことがないと聞いています。その戦士が恐れるのが先ほど話した森の魔物。

 そして、魔物の領域の東にはゴブリンやらトロールやらの獰猛な亜人種が住む地があります。

 それも避け、東の岩山側から登ろうとすればそこには羅刹族が住んでいます。彼らも傭兵として一生を終えます。同じような生涯を送るためかアシュラ族とは年に三度を除いて敵対関係にあります。」

 「そこから登ると山は険しいのか。」

 「登れないことはありませんが、断崖が待っています・・それ以上に・・羅刹族は鬼をも喰らうと言われるほど凶暴です。」

 「なぜ彼らはその地を離れない。」

 ディアスの質問にケイヘルが答える。

 「アシュラ族にとっては先祖伝来の地。

 亜人は人を襲います。見ての通り南の草原は温暖にして地味豊饒、嫌でも人が住み着きます。また羅刹族にとってはこの地が各地に出かけるのに地の利を得ているため。と、言われています。」

「そこしかないかな。」

ドリストが野太い声を上げた。

 「ご勘弁を・・・私も命が惜しい。これを差し上げますので・・・」

 ケイヘルは詳細な地図を差し出し、

 「もし道を求めるなら、アシュラ族の地しかありません。」

 と、頭を下げた。


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