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第四章 齟齬(35) 新しいルミアス(4)

 それから暫くで東の奥の探索は終わった。続いては北の谷。一度ルミアスの王宮に帰り体制を整え一ヶ月後に出発した。今度もフェイも一緒に。

 「深いな。」

 そこは東より遥かに谷の奥行きが深かった。

 進めば進むほど谷は急峻になり、その底を流れる川は速かった。

 魔物・・その川岸を行く一行に緊張が走った。

 一本角で腹を異様に膨らました鬼。

 「話しにきいたことがある・・餓鬼だ。」

 イシューが皆の行き足を止める。

 「無数に居るな。」

 ラファルが横から口走る。

 「あの断崖が登れるか。」

 「蔦を伝えば、何とか。」

 「五人ほど連れて登ってくれ。」

 「登ってどうする。」

 「あいつらの上に大きな石を落とす。そうすれば数を減らせるはずだ。」

 「魔物が石で・・・」

 「あいつらは弱い。石でも充分潰れる。

 そして恐慌を起こした所へ我等が矢を射、その後に突っ込み討伐する。普通の武器でも充分闘えるはずだ。」

 イシューの作戦通り事は運んだ。

 その後も低級な魔物が次々と現れたがイシューの作戦と兵士達の活躍で難なく乗り越えた。

 「ここからはお前達二人で・・・」

 数日後、突然そう声が聞こえた。

 皆が辺りを見回す。そこへもう一度

 「お前達夫婦二人だけで・・力を持たない兵士達では命を落とす。」

 「誰だ。」

 イシューがその声を誰何する。

 「兵士達は返せ。」

 三度目の声がする。

 「ラファル、兵を連れて王宮に帰ってくれ。」

 その声に従うのかイシューがラファルを向き直った。

 「しかし・・・」

 ラファルが不安そうな顔をする。

 「悪い者ではない。」

 「なぜ解る。」

 「唯の感だがな。」

 「それだけで・・・」

 「だがここから先、兵士達では危険が伴うのも事実・・それも感だが。」

 「信じていいのか、お前の・・感・・・」

 ああ・・とイシューは首を縦に振った。

 ラファルが兵士を連れ見えなくなると辺りに淡く光る靄が立ちこめた。

 「我が名はナラシンハ。」

 靄の中から声がし、徐々に魔物の姿が現れる。

 その姿は獅子の頭を持った人・・手にはギラつく剣を持ち、いかにも戦士の風体で現れた。その後ろには美しい少女。

 「後ろに控えるのは我が部下アラストール、処刑執行人だ。」

 「処刑執行人・・」

 聞き返すイシューの言葉に獣頭の天魔が答える。

 「ああ・・悪しき魔物に死を与える。」

 ナラシンハの後ろの美しい少女が(うやうや)しく頭を下げる。

 「我等二人、そなたの使い魔となろう・・我が願いを聞き入れてくれれば・・・」

 魔物は強い目でイシューを見た。

 「願い・・・」

 「ああ・・

 我妻となるべき女神ツクヨミが邪神ヘカーテに囚われている。

 それを助けたい。」

 「妻・・ツクヨミ・・・」

 イシューはフェイの顔を見た。

 「時の女神アリアンロッドと伴に囚われている。

 ヘカーテとツクヨミの力はほぼ同等・・だが時を人質に取られツクヨミはヘカーテが張る結界の中に入った。

 それを解けるのは人にあらぬ人の女のみ。

 結界さえ解ければ僅かではあるが階位(レヴェル)が上の私は邪神ヘカーテを倒せる。」

 「人にあらぬ人・・・」

 「つまりお前達エルフ族・・の女性。」

 ナラシンハはフェイを見た。

 「私が・・・」

 それに対してフェイが戸惑いの声を上げる。

 「この先、谷は益々深く、山は険しくなる。その先の高山の中腹に古い遺跡がある。

 そこにツクヨミは囚われている。」

 「ツクヨミとは・・なぜ・・・」

 「私の闘う力、ツクヨミのそれを補助する力その二つが合わさることを、この地を我が物にしようとするヘカーテが恐れた。」

 「この地を我が物に・・・」

 イシューが疑問を呈する。

 「そうだ。この地は元々アルランダルと呼ばれ、羽根を生やし鳥の嘴を持った羽民という人種が住んでいた。

 お前達の目であれば見えるだろう、遠くの谷膚のあちこちにある住居の跡が。」

 イシューはこめかみに指を当て遠くを見て頷いた。

 「それが羽民の住居の跡だ。

 そしてその奥、ここからは見えぬ古い遺跡が羽民の都アンダラーだ。」

 頷くイシューとフェイにナラシンハが続ける。

 「ツクヨミは羽民の守護神としてここに住んでいた。」

 聞き入る二人にナラシンハが尚も語る。

 「ツクヨミ、月を読む者。

 つまり彼女は歴を司り、アリアンロッドは時を動かす。この二人が揃ってこの地の農耕や漁労が豊かになった。

 その繁栄を知り、増えていった羽民達から苦しみを搾り取る為に、邪神ヘカーテが降り立った。

 ツクヨミは精神の安定をもたらす。だが“遠くから働きかける者”ヘカーテはその精神をずたずたに切り裂き、その上配下のイーブルまでをこの地に放った。それによって羽民達はここから逃げ出した。

 羽民・・いや彼女を信奉してくれる人族をもう一度呼び戻す為に相反する者二人の闘いが始まった。だが二神の力はほぼ互角いつまでたっても決着はつかなかった。

 そこでツクヨミは妻となる事を条件に、ヘカーテよりも力に勝る我を呼んだ。

 我が力を恐れたヘカーテはアンダラーを占拠しそこに陰の結界を張った。その上で奸計を巡らしアリアンロッドを虜にした。

 時を動かす者を人質に取られツクヨミもまた我が出現の前に陰の結界の中に入り、果てしない闘いを続けている。その間にこの地には魔物が蔓延り、僅かに残った羽民達もまたここを捨てた。

 それから百数十年、我はここに立ち“人にあらぬ人”の到来を待ち続けた。」

 「月を読む者・・私達エルフ族は月の民とも呼ばれています。その守護女神として・・・」

 フェイが洩らす。

 「力を貸してくれ。

 結界には入れるのはお前達だけ。そして結界を破れるのは貴女しか居ない。」

 ナラシンハはフェイに深く頭を下げた。

 「結界の中に魔物は。」

 「いる。」

 「危険だ。」

 二人の会話の横からイシューが声を上げた。

 「だがヘカーテはお前達の存在に気付いた。彼女にとって新しい獲物の到来だ。放っておけばお前達の里にも魔物達が押し寄せる。」

 「助けましょう・・カミュは邪神から人々を救う為にその命を投げ出しました。

 今度は私達が。」

 カミュの名を出されてイシューは黙った。

 「私達・・・」

 ナラシンハが怪訝そうな顔を見せる。

 「“人にあらぬ人”・・二人でその結界の中に入ります。結界を破れるのは女だけかも知れませんが男でもその中に入れるのでは・・・」

 「そうだ。」

 「イシュー、私を護ってください。貴男には宝剣ガルバリオンがあります。その剣で。」

 頷くイシューに

 「もう一つ手がある。」

 そう言うとナラシンハは剣を持った人、だが頭がフンコロガシの姿をした魔物を呼び出した。

 「我と同じ天魔、ケプリ。召喚魔とすればこいつは結界の中に入れる。

 それにこいつは一体が二体と仲間を増やしていける。

 こいつをお前達に付けよう。」

 頷いたイシューはケプリの額に自身の血を垂らし召喚魔とした。

 「結界を破るにはどうすれば。」

 「遺跡の中に四つの小さな像がある。それを全て壊せば良い。」

 フェイの声にナラシンハが応え、

 「どうやって壊すのですか。」

 フェイがその方法を訊く。

 「その像の頭に手を載せるだけで良い。」

 「それだけ。」

 「そうだ。だがその像を護る魔物も四体。それらを斃さねばならぬ。

 一体は凶獣ラクチャラング、それに外道ビフロンスと邪鬼オセロット、それに悪魔カリュブディス、この四体だ。それぞれが自身の配下を持っている。」

 そしてイシューの声。

 「そいつ等が協力し合うことは。」

 「よほどのことがなければない。それぞれが独立している。」


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