第四章 齟齬(34) 新しいルミアス(3)
イシューとフェイの結婚式から数ヶ月、ブリアントは国王の座をイシューに禅譲した。
ブリアントの代には月の谷の南東の奥にルミアス王宮だけが建築中であった。しっかりとしたものと言えば外敵を防ぐ為の西の砦のみ。そこでイシューは西に開いた谷の入り口に一つ、そこから南東に一つ、ルミアス王宮を支えるのとは別の街二つを造る計画を立てた。
それに人材・・イシューはまず政治の変革と人事に取りかかった。
王を補佐し政治を見る元老院を創設しそこの最高顧問として前王ブリアントを指名した。その下には貴族上がりの六人の元老と庶民から選ばれたもう六人の元老を据えることとした。
既に完成している西の砦の守将はそのままに、一の街と呼ばれるであろう街の建設を若い貴族のオリオウス、二の街と呼ばれるであろう街の長を壮年の貴族アンドロに任せることとし、そして王宮の建設は従来通りキケロに任せることとした。その間自身は王宮を出て、それより奥の探検にラファルが率いる兵士二十人と伴に旅立つこととした。
王宮は美しい湖の南東端に在りそこから谷は北と東に別れていた。そこでまず東の奥を探索することとし出発しようとした朝、
「私も行きます。」
と、旅仕度を調えたフェイがイシューの前に立った。
「危険だ。」
「あなたの妻です。どこへでもご一緒します。」
イシューの説得もフェイには効きそうになかった。
「私の手にはカミュが遺した剣、レイピアがあり、弓も引けます。」
「そうか・・・」
イシューは仕方なさそうに頷き、ヤフー人からの貢ぎ物アポロンの弓と金の矢筒をフェイに手渡した。
「敵が現れたら、後ろからこれで援護してくれ。」
三人の兵士を斥候にたて、その後ろでラファルが五人の兵士を率いる。イシューとフェイの後の守りは僅かに二人。夜はテントで夜露を凌ぎ日の高いときだけ歩き回る。時には野草を摘み、暫くの糧を得る。そうやって東の奥を隈無く歩き回ろうとした。
谷の一番奥、山の端に懸かる所には森があった。その中にぽつんと麦畑がある。斥候の兵士の一人がその畑に足を踏み入れようとすると、どこからともなく土で造られたような大きなヒキガエルが手に手に鎌を持って現れた。その躰の泥には麦藁などの穀物をくっつけ、野草を生やしている。
フェイがその魔物に向け矢を構える。
「放たないで。」
声と共に辺りがぼんやりと霞み、その中に白衣を着た美しいが大きな女が現れた。
「私はポラドゥ、畑を守る妖精ポルドニッツァです。
この者達は私の配下ポレヴィーク、あなた方を畑を荒らすものと勘違いしただけです。」
「確かに畑は荒らさぬが、なぜそうと判る。」
イシューが前に出る。
「その姿形・・それは紛れもなくエルフ族、元を正せば私達と同じ妖精族、あまり肉を食べず、糧となる穀物、畑を大事にする。」
「と、解れば力を貸してくれぬか。」
「何なりと。」
「あなたは畑を守る妖精と言った。」
ポラドゥはイシューのその言葉に頷いた。
「私達は耕地を多くは持たない。その少ない耕地を守る手伝いをしてくれないか。」
「畑があればそれを守る。それが私達の定め。」
ポラドゥはあっさりとそれを受け入れた。
「使いを送る・・二の街の周りに穀倉地を造る。」




