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第四章 齟齬(29) 司祭の暗躍(8)

 堕天使ネビロスの後ろに微かな光が差し、そこに一本の木が見える。

 バルハードとネビロスはバルディオール達には理解できない言葉で話し合い、結論が出たようだった。

 「聞いての通りだ。こいつ等はここを出て行く。

 ここはまたホーリー・クリフに戻る。」

 魔物との話が終わり、バルハードが日の当たる奥に向け顎をしゃくる。

 「“智恵の木”だ。俺には見えんがあの木になっている実を食べればお前がなくした過去の知性が戻るかも知れない。」

 バルディオールの眼がきらりと輝く。人から人ならぬものに変えられたキュノケー達の目も・・・

 キュノケー達が“智恵の木”に向けて走る。

 「無理だ・・ラドンが居る。」

 ネビロスの笑い混じりの言葉にもかかわらずその後ろで取り残された亜人達にバルディオールが木に向け拳を突き出す。

 そして自身も走る。

 その前に幾つもの頭を持った大蛇ラドン。

 「凶龍ラドン。お前等の歯がたつ相手ではない。」

 後ろからバルハードが声を掛ける。が、吾がちにキュノケーが走り、トロールを先頭にその後ろにゴブリンを配したバルディオールが走る。仕方なさそうにバルハードが矢で援護する。

 ラドンの三本の太く大きな首に載った頭が火を吐く。その火に焼かれキュノケーが次々と松明のように燃え上がる。そんな中からラドンの元にどうにかたどり着いたキュノケーの槍は、しかし何の役にも立っていない。トロールの鉄球が数多くの小さな頭の一つを捕らえるがそれも身震いさせるほどの効果しか与えていない。

 苦戦の味方の中をバルディオールが飛ぶように走る。その顔面をラドンの業火が焼く。それにもめげず“智恵の実”に手を伸ばす。

 その実が指先に触れる。だがラドンの小さな首がバルディオールの身体ごとそれを弾き飛ばす。

 手から溢れた果実は・・見えない。

 もう一度、延ばした左手をラドンの首が打ち激痛が走る。身体が回転した拍子に三日月の刃に“智恵の実”が突き刺さった。

 消えぬうちに・・激痛に耐えその実に左手を伸ばし、右手の槍を上げ退き上げの合図をする。

 その時には既に半数以上の亜人達は潰えていた。しかも、キュノケー達はバルディオールの合図に従わず、尚も“智恵の木”を目指している。

 バルディオールは半死半生の姿でバルハードがいる辺りまで戻って来、“智恵の実”を一口かじると、そこでバッタリと倒れた。

 「“智恵の実”を・・・」

 バルディオールが(しやが)れた声で手の中の実を差し出す。

 「キュノケー達にも退き上げるように・・みんなで分ける。」

 「無駄だ。その実は穫った者・・お前にしか見えない、食べれない。」

 「くそっ。」

 バルディオールが突っ伏した地を叩く。

 その躰をたった一人生き残ったトロールがヒョイと担ぎ上げた。

 洞窟を出た頃には既にバルディオールは意識を失っていた。

 「ネビロスは・・・」

 ホッと一息をついた所にサラスヴァティの声。

 「もういない。

 自分の眷属を従えてここから出て行ったよ。」

 「その人は。」

 サラスヴァティはバルディオールを見た。

 「“智恵の実”は一口囓った・・だがもう()たんだろう。」

 バルディオールは顔の半分が灼け爛れ、体中に大きな傷を負い、手足の一部があらぬ方に曲がったバルディオールを見た。

 「褒美です。」

 サラスヴァティはバルディオールに“召喚の指輪”を手渡し、その躰をひしと抱き、口づけをした。

 長い口づけが終わりバルディオールの唇からサラスヴァティの唇が離れるとバルディオールが目を開いた。

 ぼんやりとした視界の中に光る女神が見える。

 「俺は・・・」

 「“智恵の実”を食べてしまいなさい・・腐らぬうちに。」

 息を吹き返したバルディオールは残った“智恵の実”を口にした。


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