第一章 戦後譚(4) 建国(2)
上の砦、そこに残りこの砦を支えていた者達はティルトの到着を見、ホッと胸を撫で下ろしていた。彼らが奥の砦に去ってから徐々にバルバロッサが増えだし、今では二百人の数では手に負えないほどになっていた。
「どうだ。」
ティルトは到着するとすぐに櫓に登った。
「増えています。」
「五百という所か。一気に攻め潰すぞ。」
ティルトは櫓を駆け下り、出陣の準備を急がせる。その間に低い城壁の上からは次々と矢が射られ始めた。その矢風にバルバロッサが怯んだ所を一気に押し出す。
その夜までには勝負は着き、バルバロッサは退き上げ、ティルト達は勝ち鬨を上げた。
「次は王宮か。」
誰かが浮かれたように言うのに、
「そんなに甘くはない。」
ティルトが苦い顔をする。
「さっきの残党からここを守るためにまた人数を割かなければならない。
先に行けばいくほど我等は先細りになっていく。」
「どうにかならないのですか。」
「人数ばかりは・・な。」
その夜はそれで寝た。そして朝。奥の砦の方から声がする。
「しまった。やられたか。」
大慌てで飛び起きたティルトは取るものも取り敢えず城壁に登りそこから大声を上げる。
「戦闘準備。ここは放棄し奥の砦に向かう。」
城壁を降りる前にもう一度、南からの土煙に目をやる。そこに見えたのはルミアスの旗。ホッと息をつき、前言を取り消す。
奥の砦からの援軍二人が城門を通るとすぐに、その指揮者に声を掛ける。
「後方は・・・」
「残党狩りはほぼ終了しました。守備の人員百五十を残し援軍に参りました。」
「よし、これで王宮の奪還に臨める。
すまないがお前達はまた奥の砦と同じ役を担って欲しい。但し、なるべく殺すな。ここは数が少なすぎる。」
それだけを伝えティルトは王宮奪還の軍の中に姿を消した。
旧ルミアスの王宮。上の砦に攻め入るときには山中を迂回した。
どれだけの期間戦い続けたのか、懐かしの姿を間近に見る。
「斥候隊。」
ティルトは十人ほどの者を呼んだ。
「宮城の様子がおかしい・・バルバロッサが居るにしては静かすぎる。何が起きているのか調べる。一緒に来てくれ。」
自身を指揮者として王宮に潜入する。そこで見たのはフィルリアの旗。
(奥の砦の秘密が知れたか。)
ティルトが唇を噛む。が、意を決し、
「私はルミアスのティルト。ここの指揮官に会いたい。」
と、大声を上げた。
「ティルト殿・・ディアス殿と共に戦ったという、ルミアスの勇者か。」
嗄れてはいるがよく通る声がそれに応える。 「私はフィルリアの将、ギルサス。
ハーディの連絡を受けこの地の援軍に参った。」
ハーディの・・・ティルトが首を傾げる。
「先ずは中へ。」
ギルサスと名乗った男がティルトを呼ぶ。
「二人帰れ。
帰って俺の命があるまで動くなと伝えよ。」
ティルトは小声で部下に命じた。
大広間、かつてはここに王が居、マーランがその横に立ち、イシュー達と議論を交わした場所。懐かしげにその部屋を見回す。
「お久しぶりでしょう。」
隅に置かれた椅子の前でギルサスが声を掛け、それにティルトが頷く。
「あなた方が旧ルミアスに蔓延るバルバロッサを討つためにこの地に入ったと、ハーディから連絡があった。
あなた方の戦力は約千、それでは心許ない。旧ルミアスの場所は解らないがバルバロッサの動きを追い、貴方を助けてくれとの伝言だった。」
言いながら、ギルサスは封がされた書状をティルトに手渡した。
その書状に目を通し、
「ここまで考えていたか、ハーディは・・・」
と、ティルトは唸った。
書状の中身とは・・・
建国するのであればその大義、人員配置、国の経営、軍の掌握など多岐にわたり、また、ハーディの下からの兵の供出、フィルリアとの友好関係の構築、それによる国を維持するに耐える国民の集め方まで・・・
戦友か・・・
ふとティルトは遠くを見た。
「ここに至るまでに粗方のバルバロッサは退治した。が、まだ兵は必要なはず。ここに選りすぐりの者千人を残していきます。」
「残して・・・」
「我々は退き上げ、後は貴方達に任せます。頃合いを見て、ファルスにおいでください。我が女王、ミランダと共にお待ち申し上げます。」
そこまで言うとギルサスは退陣の準備を命じた。
奥の砦の守備は股肱の部下ラゴラスに任せてヴィフィールが王宮に着いたのはそれから三日後だった。
主立った者十数人が王宮の大広間に集まり、今後の国のあり方を話し合った。
奥の砦はエルフ族だけで経営し、上の砦は選ばれた人とエルフ。王宮には人とエルフで共存し、外からの移民はここまで受け入れる。中の砦は当面放棄し、外敵を防ぐ下の砦を強化する。
「ハーディにここの地図を送ろうと思う。彼の意見も聞いてみたい。」
ティルトが会議が終わるとそこに居る者達に提案し、それは受け入れられた。その使者はティルト。彼が直接ハーディに伝えることとなった。