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第四章 齟齬(26) 司祭の暗躍(5)

×  ×  ×  ×


 ドラゴモス・・と言うよりも死の谷に近い地。黒焦げだった死体が美麗な王冠と荘厳なマントを身に着けた若い皇帝の姿に変わり、その顔は分厚いフードで隠している。

 まっ黒のローブに身を包んだ男の隣に獣面の男バルディオールと伴にその男は立っていた。それにケントスで捕虜にしたギール。

 「ポルペウス・・」

 「奥の院へ。」

 ローブの男は言葉を二つに切って言った。

バルディオールが問いかけるように喉を鳴らす。

 「ここには魔物を一匹・・それであの地に人は入れず、収まる。」

 それに対してまたバルディオールの喉が鳴る。

 「魔王アリオク。

 人の上半身に牛の下半身、足先は鷲。

 その背には龍を背負い頭には長大な角を二本備え、龍の身体には鋭い鉤爪が着いた四枚の翼を生やした、中位の魔王。

 数多くの手下を従え、人を襲う。」

 バルディオールが自分の親指で自身を指さす。

 「我等はまず後ろの荷馬車に積んである棺桶の屍体を死の淵から蘇らせ、ここに居るギール・・・」

 黒いローブの男は従順に着いてくるギールに顎をしゃくった。

 「こいつに永遠の命を与える。」

 バルディオールがニヤリと笑う。

 「それにこいつ。」

 次に黒いローブの男は皇帝の姿をした男を見た。

 ガウとバルディオールが不思議そうな顔をする。

 「こいつ・・・

 見忘れたか。」

 問うバルディオールにローブの男が皇帝の姿の男のフードを少し上げてその顔を見せる。

 その顔を見てバルディオールが驚く。

 「こいつには死霊の軍団を率いて貰う。

 先々はアーサーと共にな。」

 頷くバルディオールに司祭は続ける。

 「お前にはホーリークリフ・・いや元の名デビルズ・ピークと言うべきかな・・に行って貰う。」

 それに質問の表情

 「“召喚の指輪”

 どうやら七賢者が慌てて逃げる時に落としていったようだ。

 それを私の所に持ってきて貰う。」

 頷くバルディオールに、

 「但し、そこの魔物の協力は得られない。

 奴等は私とは相容れない。

 そこでデビルズ・ピークでお前の手助けをする者が奥の院に待っている。」

 と、続けた。


 十日を掛けて男達は奥の院に着いた。そこにはただ一人残ったナグールのインジュアスがいた。

 「他にも紹介する。

 死んだ前の司祭が昔遺(のこ)した者達だ。そいつ等を集めた。」

 そこには屈強な男の姿をした屍鬼ドラウグ。

 「名をダルスと言う。」

 そしてもう一人の大男、同じく屍鬼タキシム。

 「こいつはグラウス。

 もう一人いるのだが、そいつには名を変えて他の仕事をして貰っている。」

 そしてもう一人、自分から名乗った男が居る。

 「バルハードです。」

 その若く端正な顔をした男は弓を手に持ち、矢筒を背に負っていた。

 「お前とはこの男が行く。その他にキュノケー、ゴブリン、トロールを何人か選んでおけ。」

 そう言い残すと真っ黒のローブの男はバルハードと供にギールに棺桶を牽かせ奥へと立ち去った。


 「我が神の細胞の一部が残っていた。それをここまで復活させた。」

 それ程大きくない石像がそこに鎮座していた。

 棺桶を牽いていたギールの手足が床から生え出た蔦のような触手に絡み穫られる。ギールがそれをふりほどこうと身もだえる。

 「永遠の命を得る為ですよ。」

 その顔を覗き込みながら言うローブの男の横の床からも蔦が伸びギールが牽いてきた棺桶に絡み、そのふたを開ける。その中には腐りかけた屍体が・・・

 「ベネスアス・・醜い姿になった。だがすぐに復活させてあげよう・・新たなナグールとしてな。」

 その間にギールの身体には触手の先が突き刺さっていた。

 「お前も同じ、永遠の命を持つナグールとなる。」


 三体のナグールが馬を駆る。その行き先はザクセン。そこに巣くうならず者の長スクルフを虜にする為。日の光を通さぬフードとローブに身を隠し馬を走らせる。その姿に出会った者達の精を吸い尽くしただ一点を目指す。

 「スクルフを入れて四体。後二人は慎重に捜す。

 前の轍は踏まぬ。動くのはまだ先・・それまでは・・・」


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