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第四章 齟齬(25) 司祭の暗躍(4)

 「教授が見つかりました。」

 シェールがエラに一人の男を紹介する。

 「タリスと言うそうです。政治、経済、哲学が専門とか。」

 頷くエラに、

 「これで昼間、長い時間この館に居ても怪しまれることは・・・」

 「なくなるのね。」

 「それに彼はディアス様とのことも・・・」

 「教えたの・・・」

 「は、はい・・・」

 「何も心配には及びません。」

 黒い修道服を着た男が戸惑うシェールの後ろから声を掛ける。

 「男と女・・いろんな事があります。

 私はそれに干渉する気はありません。」

 エラの目が輝く。

 「勉学の時間は毎日四時間と称しておきましょう。内半分はあなたが好きなように使われるが宜しい。」

 それからすぐにエラはハーディの許しを得る為、その黒い修道服の男を伴って宮城へと向かった。


 「タリスと申します。」

 ハーディの執務室でまず男が名乗り、

 「エラ様の教授として・・・」

 頭を下げた。

 ハーディがエラを見、またタリスと名乗った男に目を移す。

 「エラに何を教える。」

 「タリスの専門は政治、経済と・・・」

 横からエラが口を挟む。

 「まずは歴史。」

 タリスがエラのその言葉を打ち消す。

 「ここミッドランドの歴史を学んで頂きます。」

 「歴史を教えて何を学ばせる。」

 「国々の栄枯趨勢・・それによってどのような国が長く保たれ、早く衰退した国にはどのような問題があったのかを理解して頂きます。」

 「歴史より、直ぐにこの人の役に立つ政治であり経済の方が。」

 またもエラが横から口を挟む。

 「エラ、席を外してくれ。タリスと二人で話したい。」

 そのハーディの声にエラの目線がキッと強くなる。が、侍女シェールに促され、渋々その部屋を出て行った。

 「歴史から学ぶことは多くある。その中で何を教える。」

 エラが部屋を出るとハーディはタリスにもう一度同じような質問をした。

 「恐れ多くはございますが・・・」

 タリスは言い淀み、ハーディが先を促した。

 「見る所エラ様は深窓の方、民心も民の生活もお分かりになってはおりません。

 歴史、それに哲学をお教えすることによって、まずは民への慈愛を学んで頂く。

 私はそう考えています。」

 頷くハーディに

 「そこから国を治めるにはどうすればいいのか。その為にはご自分は王妃として何をすればいいのか。

 それを学んで頂きます。」

 「あなたの専門は政治、経済と聞いたが。」

 「始めに軍学を学びました。ですが戦いとは一般の民衆を苦しめることになります。巧緻な戦術を採れば採るほどその色合いは濃くなります。

 私の心はそれに痛みました。」

 ハーディもそれに同意を表す。

 「そこで私は考えました。戦争を阻止する政治と、それを起こす必要のない経済を学ぶことを。」

 これにもハーディが頷く。

 「ですがこれにも限界がありました。人の欲望とは無限。その無限の欲望がやはり戦争を起こす。」

 ハーディは黙って聞き入る。

 「最後に行き着いたのが哲学。人を考え、人への慈愛をどう広めるか・・それによって戦いのない世界を創れないものかと・・今は考えています。

 まずそこからエラ様には私と供に学んで貰おうかと。」

 「そんなお前がなぜ深窓の妃の教授などになる事を望む。」

 「私が知らない世界だからです。私は一介の市井人、(まつりごと)を行う方達を知りません・・その世界を知りません。

 これも私の糧になるのではないかと。」

ハーディは大きく頷いた。

 「エラに庶民の生活を見せてやってくれ。食べ物はどうやって得、金はどうやって稼ぐのか。エラにはそこから学習して欲しい。

 馬車や馬ではなく、自分の足で大地を踏みしめ、それを見聞きして欲しいと思っている。」

 「私をエラ様の教授として・・・」

 「お願いする。」

 話が決まるとハーディはすぐにエラを呼び入れた。


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