第四章 齟齬(24) 司祭の暗躍(3)
「ここを捨てる訳にはいかんぞ。」
ティーツが吠える。
「ここを根城にする者全てがそう思っています。」
その声にギールが応える。
「制圧に無頼の隊を送ります。」
「それで良し。直ぐに叩き潰せ。」
白いローブの男が率いる民衆兵に対して無法者、ならず者、元野盗・山賊などの無頼の徒が馬鹿にしたように襲いかかる。
が、鎌、鍬、鋤などの農具を手にした民衆達がなりふり構わずむしゃぶりついてくる。
始めは笑いながらそれらを傷つけていた無法者達の顔色が徐々に変わってくる。
恐怖・・瀕死の傷を負った者までがまだ農具を振り回す。それをたたき落とすと、しがみつき、噛む、引っ掻く、力ある者は絞め殺そうとする。
怯えからか無法者達の腰が引ける。それに嵩に懸かって民衆兵が攻める。
無法者達が退き足を見せる。それを民衆が追う。そして・・・
「勝ったぞー」
凱歌が上がる。
その話を聞きつけ他の集落からも人々が集まってくる。
その民衆軍が向かう先はケントス。
だがその民衆の前で白いローブの男が大手を広げてその動きを遮った。
「あなた達が命を的に闘うのもここまでです。後は兵士達がケントスを堕とす。
あなた達は命を大事にし、他の集落を開放するのです。」
司祭様・・誰かが叫んだ。
「そう、私は平等の宗教、アイクアリー教の司祭・・あなた方が望んだ世界は今始まりました。」
ケントスの前にはならず者達が五百程度屯している。そこへ隊伍を組んだ兵が三百、足音を揃え押し寄せる。
その軍勢にならず者達が一瞬怯んだ。その時を逃さず司祭が拳を突き出した。
「ケントスが堕ちたそうだな。」
「その手柄を立てた“司祭”と呼ばれる男がその信者十数人を連れてこの城に来ています。会いますか。」
と、ハーディにイーラスが報告する。
「会ってみよう。」
ハーディは執務室の大机を後にし、その司祭を謁見する。
「望みは。」
それが口を開いたハーディの最初の言葉であった。
「私の名はリューク。
望みはこの地に私の考えを広げること。」
「宗教か。」
「そうです。」
「教義は。」
「自由、平和、友愛、そして平等。」
「宗教・・・」
ハーディは遠い目をし、
「宗教とやらで多くの者達が死んだ。」
その言葉にハーディは顔を曇らせた。
「この地への滞在は・・・」
「それは許そう。が、大勢はならん。」
「私一人で残ります。」
「宗教を広める為の集会、結社は禁じる。」
「我が教団は・・・」
「ケムリニュスの地はそのままあなた達が使うが良い。
平穏である限り我々はそこには手は出さん。」
と、ハーディは話を締めた。




