第四章 齟齬(23) 司祭の暗躍(2)
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旧ドラゴモスの地、嘗てランドルフとミネルヴァが住んだ館は草むしていた。石壁には蔦が蔓延り、それは館の中まで侵入していた。
誰も居ないはずのそこに唸り声のような声がする。声の主は獣面で全身毛だらけの男。
「ああ、脳虫だ。
アーサーに上手いこと飲ませた。
あの虫は、欲深いアーサーの脳内で成長する。
既にあいつは死人同然、二年もすればあいつは死を迎え、その後は我が僕と成る。」
真っ黒なローブの男はそう言いながら足下を見下ろした。そこには黒焦げの死体があった。
「こいつも・・・」
ローブの男が跪き、その死体の額に手を当てる。
その様子を見て獣面の男がゴウと喉を鳴らす。
「ああ、先に起こした龍騎士は失敗だった。
我が手を離れた・・・なぜかは解らぬが。
だが、こいつとアーサー、心に陰を持つこの二人であれば間違いは起きぬ。」
そう言っている間に黒焦げの死体がピクッと動いた。
「ところでお前はあの時なぜ消えた。」
獣面の男はその問いに答えるのか言葉にならない喉の音を出す。
「まあ良い。あの時の兵力は維持しているんだな。
それに加えて離散したザルタニアの兵達、これも多数集まっている。」
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まだログヌスに残っていたリュビーがハーディに呼ばれていた。
「経済だが。」
ハーディはそう口を切った。
「経済・・・」
「ああそうだ。経済を活性化するには流通経路が必要だ。」
「何をしようと言うんですか。」
「ここログヌスからニクス、サルミットとモンオルトロスの間を縫いモタリブス、ロマーヌロンド。そこで二つに分かれ一本はレジュアスへ、もう一本はファルスを経由してルキアスまで・・・大きな道を造る。
それによって各地の産物が動き経済が盛んに成る。」
「あなたは私より商売人かも知れませんな。」
「が、問題がある。」
「山脈までを占める無法者達ですか。」
そうだ。とハーディが頷く。
「退治しなければ成りませんな。」
それにもハーディが頷く。
「軍を縮小しているランドアナにその余力は少ない。」
またハーディが頷く。
「工事は私が請け負いましょう。その間の防御も。
しかし、根本的に無法者達を叩き潰さねばその街道を通る者達は奴等の好餌と成る。」
「私の調べでは賊は大きく二つ・・ザクセン辺りに蔓延る者達と、ケントスに籠もる者。
どちらも先の大戦の敗残兵のようだ・・闘いに慣れている。」
「ロブロでは心許ない・・ですか・・・」
「闘いに慣れていない。
が、人が・・・」
「ハルーンに使いを送りましょう。
消滅したザルタニアの後始末にロンダニアも忙しいでしょうがアインの軍勢を貸して貰う。」
「人員は・・」
「五百程度を率いてきて貰い、これとロブロにも千を持たせる。
それでどうにか。」
「収めて欲しいものだ。」
ケントスに居るティーツは政治力に優れていた。が、物欲、権力欲が強かった。元々それを満たす為の画策に失敗しヴィンツを離れた。
それを手助けしたのはギール。彼はそれ程切れる頭脳は持ち合わせてはいなかったが軍を動かす腕はたった。
ティーツの頭脳とギールの力、この二つでケントスの周りに点在する集落を次々と手中に収めていっていた。
先の大戦でザクロスに焼かれた門は堕ちたままだったがそれでもその城壁は堅固、簡単に破られるものではなかった。そこへカルドキアの敗残兵やら無法者達を集め一つの国の形態を採り始めていた。
そんなケントスを中心とした一画に白いローブに身を包んだ男を先頭とした軍が攻め寄せてきた。その戦いぶりは猛烈、死をも厭わずおめきかかってくる。
ケントスの周りの集落の二つ三つはあっと言う間に平らげられ、無法者、ならず者達は一掃された。
解放された集落の中心に白いローブの男が立つ。
「あなた達の努力は報われてますか。
力の強い者達に搾取されてはいませんか。
国を治める者達はあなた達を見ていますか。
男と女、その差はありませんか。」
そこまで言って男はそこに集まった者達を見渡した。
「平等なのです。
神の前では王も庶民も・・そして男と女も。
それを勝ち取る為、立ち上がろうではありませんか。」
そこから始まった演説に、ワーッと歓声が上がった。




