第四章 齟齬(19) ハーディの憂鬱(2)
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ロニアスの村、
「長かったな。」
帰ってきたローコッドとクラレスにディアスが声を掛けた。
「ああ、一月の予定が四ヶ月。ラフィンウエルまで回ったからな。」
それにローコッドが答え、ディアスが、ネルは。と問いかける。
「男を七人、女を五人連れて帰ってくる。」
「ネルとランシールだけで・・」
「大丈夫だ。ネルもだが男七人の内二人も腕が立つ。」
「クラレスはなぜ。」
「賞金稼ぎ、クラレスの名を消す為。
今回の旅でクラレスの姿を大勢の者達が見ている。が、クラレスは償金首の張り紙に目もくれていない。
今までのクラレスと違う姿も人々にも償金首達にも見せられた。これを続ければ賞金稼ぎクラレスの名は徐々に薄れていく。」
「それでラフィンウエルまで。」
「いや、俺達への手紙はあそこで止めるように言ってあったから何かないかと思ってな。」
「それで何か情報があったのか。」
「ああ・・」
それからローコッドはラフィンウエルで得た情報を続けた。
イシューは父親で在り、国王であるブリアントが造った新しいルミアスの地にたどり着いたという。カイは何の為かは解らないがミッドランドへ帰ったらしい。
「それともう一つ。」
ローコッドはハーディからの手紙を手渡し、それを読んだディアスが嬉しそうな声を上げる。
「結婚するそうだ・・ハーディが。」
「誰とだ。」
「レジュアスの王女エラ・・とか。」
「ハーディもレジュアスの将となるか。」
「いや、旧カルドキアの地に在り、そこにランドアナという国を起ち上げ、そこにエラを迎えるという。何かの機会があれば遊びに来いと書いてある。」
「そうか・・あいつのことだ、国を持てばまた忙しく立ち回るんだろう。」
ローコッドが仕入れてきたものはそれだけだった。
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ハーディの元にヘンリーが住むログヌスの別邸にエラが到着したとの知らせがあった。
ハーディは面会の為、早速別邸に向かった。
が、婚姻前の男女が会うべきではありません。とのシェールと言う侍女の言葉でそれは阻まれた。
ヘンリーは二階の窓からニヤニヤ笑いながらすごすごと引き下がるハーディの様子を見送り、その上でエラの部屋に足を向けた。
「姉上、ご機嫌は如何ですかな。」
最近ヘンリーは上機嫌でエラの元を訪れる。エラにはその笑顔がレジュアスの王位争いに勝ち、それをわざとのようにエラに誇る顔に見えた。レジュアスからミッドランドの北の果て、気持ちも傾かぬ男の元に嫁がせられ、アーサーの後を継ぐ望みを取り上げられた。せめて嫁ぐ先が心を寄せるディアスであったならと思った。
「エラ様、ディアス様から返事が・・こちらに向かっているそうです。」
悲嘆に暮れるエラの耳元にシェールがそう囁いた。
「港町ルキアスに着き、こちらに向かっているようです。」
「その手紙・・後から私に見せてちょうだい。」
エラもひそと言う。
「それにディアス様の動き、逐一私に教えて。」
私の情報源を総動員して調べます。
とシェールは答えた。
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ハーディは王宮の執務室に帰った。そこにはロブロが待っていた。
「ランドアナ高原の南の無法者の征伐、私が指名されました。」
「リュビーは他には誰を・・それに戦力は。」
「私とラック。戦力は二百ずつ。」
「少なくはないか。」
「私にも多くの戦力を割けないことは解っています。
十分とは言いませんがこれだけあれば何とか。」
「無理はするなよ。ヴィンツとロゲニア、それにストランドスの動向がわかり次第後詰めを送る。」
ハーディはロブロを送り出し、その後にリュビーを呼び、三国の返事を聞いた。式の延期があった為か返事はまだなし。
次に尋ねたのがモアドスの状況。ヘンリーはモアドスにハーディが付けたイーサンとシュルツを残し、城代をサナットとしログヌスに来ている。その間にストランドスの動きは・・。
これも無し。今のところ平穏に時間が過ぎ、刻一刻と婚礼の日が近づいていった。
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「既にダミオスを出たと聞きます。」
シェールは今日もエラにディアスの動向を伝えていた。その情報をどこから得るのか、ディアスに会えると心待ちにするエラにそれを考える余裕はなかった。
婚儀の大宴を司るダルタンは既にログヌスに着き、花嫁の父アーサーはモタリブスを発っていた。
あと七日・・シェールが一人の男を密かにエラが住む別邸に誘い入れた。
「ディアス様・・・」
エラがその姿に艶を作る。
ディアスもその姿にまんざらでもなさそうな顔をした。
こちらへ。とエラが自室の二人掛けのソファーに誘い、シェールにそっと目配せをする。
強い酒とそれに宛がう食べ物を運び込み、媚薬が・・とシェールはエラにそっと耳打ちをして部屋を出て行った。
頬を赤く火照らせたエラがディアスにしな垂れかかる。酒と媚薬に酔ったディアスの唇がエラの唇を捕らえる。
その夜から毎夜、ディアスは密かにエラの私室に通った。




