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第一章 戦後譚(3) 建国(1)

「バルバロッサの後ろが何か騒がしいな。」

 奥の砦の城壁の上に立ったヴィフィールが目を凝らす。確かに蛮族の後方に乱れが見える。

「王宮からの応援・・・まさか・・・な。」

 ヴィフィールは淡い期待を振り捨て、転がる様に城壁を降りる。

 「斥候隊の準備。」

 七、八人ほどの屈強な者達が集まる。

 「山を大回りして、バルバロッサの後ろで何が起きているか確認しろ。連絡は鳩で。

 無理してこの砦に戻る必要はない。」

 ヴィフィールは手早く怒鳴り、また城壁に登った。

 「戦闘の準備。」

 とまた下に向け怒鳴った。

 砦では二百人ほどに減った兵士達が、千人以上の逃げ遅れた住民を守っていた。

 バルバロッサの数はあるときは増え、あるときは減った。王宮を襲われたときには雲霞(うんか)の様な数であったが、そこを荒らすだけ荒らすと上の砦、奥の砦と進む間にその数は減っていっていた。

 バルバロッサ、今は千四・五百には減っているが一時期は奥の砦の前に二千人を超していた。それらから砦を守るため、千人以上居た兵士が今は五分の一以下に減っていた。

 ヴィフィール自身は討ち死を覚悟していたが、一緒に居る住民の処遇に窮していた。

 後ろは深い山、そしてそれを越えた断崖の下は海・・逃げ場はない。全員が納得して死にゆくのか、それとも婦女子をバルバロッサの暴虐の嵐の前に投げ出させても生を掴ませるのか、それが彼の深い悩みと成っていた。

 戦えるだけ・・・ヴィフィールはいつもと同じ答えの中、城門の防御に専念した。

 それにしてもバルバロッサの後方が騒がしい、彼らの増援にしては・・・もしかして・・だがここは忘れられた戦場。ヴィフィールは首を振ってすぐにそれを打ち消した。


 「攻めろ攻めろ。奴らは浮き足だって居るぞ。」

 ティルトが大声を上げる。確かに不意に後ろを突かれたバルバロッサ達は防戦一方に追い込まれ千々に乱れていた。


鳩より先に山間(やまあい)から狼煙が上がった。それは危険を顧みぬ奥の砦を出た斥候の手によるもの・・・その色は青。それはヴィフィールが事前に指示していた味方を表す色。

 狼煙を目安にバルバロッサの一団が殺到するはず、狼煙を上げた者は・・・また一人・・ヴィフィールの胸に一抹の感傷がよぎる。それを振り切って、

 「門を堅持。」

 と、大声を上げる。

 そこへ鳩。救援の部隊はティルトと知れ、ヴィフィールの胸に幾多の思いが行き来する。

 一方、ティルト。彼はあらん限りの声を上げ、部隊を鼓舞していた。

 「ディアスに鍛えられし兵達。働くは今。

 名を上げよ、雄を奮い起こせ。」

 そのティルトの声に応え、兵達は掛け声と共にバルバロッサの後ろを叩きに叩いた。ヴィフィールが見たのはその戦況だったのかも知れない。

 昼過ぎにはバルバロッサの一団は総崩れとなった。しかし前後を挟まれ逃げ場はなく、白旗を揚げるしかなかった。

 捕虜の数、約五百。それを引き連れてティルトがヴィフィールと握手を交わしたのはもう夕暮れ近くだった。

 「お前だったか・・・」

 ヴィフィールの眼が僅かに潤み、頷いて応えるティルトの眼も同じように光る。それを振り払い、

 「明日はここの下の砦に征かなければなりません。」

 「上の砦か。」

 「防御のため仲間を二百残してきています。」

 「奴らは。」

 「我々が山に入ったことはもう知れているでしょう。必ず後を追ってくるはずです。」

 「ところでお前の仲間達・・・」

 「エルフ族ではありません。」

 ティルトはきっぱりと言う。

 「イシューは当然のことですが王の後を追いました。その兵を裂くわけにはいきません。

 この者達はディアスと共に闘った者達。

 これからは人との共存を考えなければ、この地は持ちません。この捕虜達・・・」

 ティルトは引き据えられたバルバロッサを見る。

 「この者達も素性(そせい)を見極めた上ではありますが・・使わなければなりません。」

「こんな暴れ者もか。」

 「バルバロッサは無数にいます。」

 そこまでを話し、ティルトはヴィフィールの耳に口を寄せる。

 「もし・・ここの秘密が知れれば・・・」

 「知っていたのか。」

 ヴィフィールの声にティルトは唇に指を当てた。

捕虜は三組に分けられた。

 最も従順な者達約百人は軍に組み込み、それに続く者達約二百人はとりあえず牢獄に入れ、時期を見ながら軍に組み込むものとした。残った者達は奥の砦のもっと奥の牢獄に送り、王宮を回復してから処遇を考えるものとした。 翌朝、捕虜兵を先頭にティルト達は奥の砦を出た。この間のヴィフィールの役割は奥の砦の守備、バルバロッサの残党狩り、そして、最も大事なことは新しい国を立ち上げる為の人選であった。


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